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播州パンティー屋敷

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   筆者は今、兵庫県のH町のとあるアパートメントの空室にスクール水着姿でいる。
   読者は二十四歳のいい歳の女がなにゆえ変態じみた(いや、変態ではあるのだが)行動をしているのか疑問に思うだろう。
   事の発端は、三日前に遡る。
   この界隈では著名な人物、観音寺剛弘かんおんじたけひろさんに取材を申し込むために筆者が事務所を訪ねたときだった。
   観音寺さんはお取り込み中で、電話で深刻な様子で話し込んでいる。
   見た目が筋骨隆々でスキンヘッドだから、端からみれば任侠映画の一部分に思ったのは本文だけにとどめておく。
   電話を終えても、険しい表情の観音寺さん。筆者は差し入れでご機嫌をとりつつ、戦々恐々せんせんきょうきょうとしながら電話の内容を聞いた。
   兵庫県のM市のとあるアパートメントの除霊を依頼されたが、除霊に協力してくれる霊能力者の女性が、事故に会って入院いしているとのことだった。
   「困っておってのお。急なことで代わりが見つからんのじゃ」
   筆者はM市の地名を聞いて、思い当たる所があった。
   「もしかして、そのアパートはH町にあるリバーサイトHですか」
  西園寺さんは、目を見張った。
 「なぜ、知っておるんじゃ」
   「私もジャーナリストの端くれですから、ちょうどそのアパートで起きた事件を調べていますよ。確か人が死んでいますよね」
   それから自身が調べて分かったことを観音寺さんに話した。
   湯文字という下劣な下着泥棒がいた。
   湯文字は配送業をこなす片手間に、好みの女性に目星をつけて、住人が家を空ける時間帯を調べて、特技のロッククライミングでベランダから侵入して下着を窃盗していた。後の被害件数は百件を超えると推定されている。
   そんな湯文字にも悪運がつきるときが来た。
 いつもの通り闇夜に紛れて被害者の部屋に侵入した湯文字は、下着を物色していた。しかし、そこに彼の予想より早い時間に住人の女子大生が、帰宅してしまった。
 被害者にとって幸運だったのは、武術の有段者の屈強な彼氏と一緒だったことだった。
 取り押さえようとした彼氏と、もみ合いになり湯文字はベランダへ逃走を図った。しかし、焦っていたのか逃亡するとき足を滑らせ転落してしまい、湯文字はその場で死亡した。
 被疑者死亡で事件そのものは終結した。
 が、被害者の悪夢はここからだった。住人が寝ていると、ベランダに人が立っていたという。それは、死んだはずの湯文字だった。幽霊になりはてて住人を脅かしにきたのだ。
 たまりかねた住人の女子大生はすぐに部屋を引き払ったが、今度は別の女性入居者の部屋に湯文字の幽霊が現れるようになった。
 そんなことが繰り返されて、アパートメントに若い女性が居着かなくなってしまったそうだ。
「よくそこまで調べたのお」
「協力者が必要なのは、湯文字が女性の前にしか化けて出ないからでしょう」
「ああ。何回か除霊を試してみたんじゃが、奴はわしの前には現れなかった」
 すかさず筆者はある提案をした。
「ならわたしはどうでしょうか。霊能力者ではありませんが霊感があって、ギリギリ二十代前半で顔もそんなに悪くないですし」
 観音寺さんは顔を横に振った。
「やめといた方がええ。確かにあんたはべっぴんさんじゃから奴の食いつきはええじゃろうが、相手は女に執着して化けて出る位の色狂いじゃ。何されるか分からん。危険すぎる」
   予想通りの反応だ。しかし、あの観音寺剛弘の除霊が見られる絶好の好機だ。引くわけには行かない。
「たしか依頼を受ける際は報酬の半分を前払いするんでしたよね。いまさら返金するのは手間がかかるんじゃないんですか」
 観音寺さんの、懐事情も調査済みだ。案の定苦虫をかみつぶしたような表情になった。
「いらんことまで嗅ぎつけよってからに。仕方ないの今回だけ協力してくれるか。じゃがトラウマになっても責任もてんぞ」
 三日が経過して筆者達は事件現場の一室にあがった。その際にスクール水着とリボンがあしらわれた白いパンティーを着るように命じられた。
「なんでスク水に着替えるでんしょうか。しかも下着まで」
  「奴の好みは、スポーツ女子なんじゃ。マニアックだからきっと飛びつくじゃろう。パンティーはスクール水着に興味をしめさんかった時の保険じゃ。わしも正装に着替えてリビングの横のクローゼットに隠れておるから、湯文字の霊が出るまで待機しておいてくれ」


   こうして筆者は現在のような状況にいたる。
 腕時計を見ると湯文字が死んだ時刻になろうとしていた。聞いた話ではこの時間に湯文字の霊は現れるという。
  突然、筆者の身体に寒気が走った。
 窓を見ると男が首をもたげた姿勢でたたずんでいる。眼鏡に七三の髪型、真面目そうな見た目で役場の職員にいそうだ。生きていれば。今は首と両腕は有り得ない方向に曲がっていて、眼鏡のフレームはひしゃげて顔は血だらけだった。湯文字だ。
「プ……ト……が……ちまい」
 地の底から響くような低く声でなりやら、うめいている。筆者は耳をすました。 
「女子プロゴルファーの……パンティーが一枚……。女子ロッククライマーのスポーツブラが……一枚。」
 どうやら、いままで盗んだ下着を数えているようだ。ここに来て、目の前の人物が筋金入りの変態であることを思い知った。
  「売れないグラビアアイドルの……ビキニパンツが一……枚。大学バレーボール選手の……タップパンツが……一枚。SMクラブの……新人女王様の……ガーターベルトが……一枚。女子相撲力士……のまわしが一枚……。団地妻の……ティーバックが……一枚」
  湯文字のうめき声が止んだ。
「あれ……。足りないぞ……。十代女子の競泳水着が一枚……足りないいい……‼」
  次の瞬間ベランダから湯文字の姿が消えた。あたりをみわたしてもどこにもいない。
「ああ…………」
 足元から声がする。見下ろすと、 筆者の股の間に湯文字が血まみれの顔で笑っていた。
「ここにあったあああああーー」
 次の瞬間足首をつかまれた。全身に鳥肌が浮き上がる。
 振り払おうとするが、それより先に湯文字は、トカゲのように這い上がり、太ももにまとわりついて筆者のスクール水着の股間部分をつかんだ。このままはぎ取る気だ。
「エへへへ……十代女子の生水着だ。生パンティーもある」
 気色悪い台詞と表情を浮かべる湯文字に、筆者は抵抗らしい抵抗が出来なかった。
 それでもなんとか声を振り絞って助けを叫んだ。
「た、助けて、観音寺さん……! 」
 その時だった。筆者の左側にあるクローゼットの扉が勢いよく開いた。そして、筆者と湯文字めがけて塩が吹きかけられた。
 塩のかかった湯文字の身体は霧散していく。初めての体験なのか湯文字は、霧散した部位を驚愕しながら見ていた。
 クローゼットから観音寺さんが出てきた。筋骨隆々の身体にラベンダー色のブラジャーとパンティーを身につけている。
  うろたえている湯文字を前に、観音寺さんははいていたパンティー脱ぎだした。
  そして、それを叫びながら湯文字に投げつけた。

   
  
 ハラリと空中を舞ったパンティーは湯文字の顔面に張り付いた。
 己の顔面にあるモノが何か認識した湯文字は
「ぎゃあああああああああああああああああああ~~~~~」
  と地獄の底からのような断末魔の絶叫をしながら跡形もなく消え去った。
「ふう、なんとか除霊が成功したのお。怪我はなかったかの」
  「お気遣いありがとうございます。けがはありません」
   「そうかそれなら良かった。けどわしが止めた意味がわかったじゃろ。怨霊とはかかわらんほうがええ」
 確かに、こんな体験は二度としたくない。しかし、彼の除霊を拝見できたのでリスクを冒す価値はあった。
 彼の名は観音寺剛弘。男子トイレにだけ出現する『トイレの痴女子さん』や女性に赤ちゃんプレイを強要してくる『リアル子泣きじじい』など悪名高い変態霊をはらってきた伝説の変態だ。
 「蛇の道は蛇じゃ。変態は変態を知る。だからわしのような専門家が必要とされておるんじゃ」
 そう語る観音寺さんの胸には、ラベンダー色のブラジャーが誇らしげに輝いていた。
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