新人神様のまったり天界生活

源 玄輝

文字の大きさ
34 / 150

料理日和

しおりを挟む
下界の信者が増えてくるとその分様々な人が見えてくる。

基本的には善人が多い気がする。

そりゃ我欲を満たすような願いをする人が大半だが、内容を見ればそこまで酷い内容でもない。

人なんて大概がそんなものだから特に気にしてない。力を使って叶えてあげようとも思わないけど。

正直もっと負の感情に任せた願いも来るかと身構えていたが、予想以上に少ない印象だ。

ただ強い負の感情の願いは他の我欲の願いと違って見逃せない。

そういう状態の人は他人に害を与える場合が多いので注視している。

とはいえ大抵の人はいいことがあると負の感情が大幅に軽減される。

単純と言えば単純なので微細な力で幸運を装っていいことが起こるようにしている。

そしてもう一つ見逃せない願いがある。

助けだ。

それこそ神頼みといえる程の助けを求める願いが来る時が稀にある。

そういう人は厳密に言えば信者とは違うのだが、願いが俺のところに届くという事は余程の事なのでやはり見逃せない。

今、その稀な状況になっている。

「可哀想なぐらいの不運さだな」

「そう思います」

助けを求めた人物の経緯を見るとことごとく不運に見舞われている。

「サチ、いつものやって」

「わかりました。所持品などの詳細を出します」

何人かこういう人を見てきたが、一つの傾向があった。

「ふむ、やはり呪いの品を持っていたか」

この世界には結構な量の呪いの品がある。

その多くは呪いの効力が切れたただの雑貨だったりするのだが、稀に効力が続いていたり蘇ったりする物が存在する。

今回の人もそれこそ運悪くしてそういう物を手にしてしまったようだ。

「では、こちらもいつものように?」

「うん。それとなく解呪出来る者を仕向けよう」

やろうと思えば呪いのアイテムなんて神力で即破壊する事も可能なのだが、やっていない。

その呪いのアイテムが自然発生したり意図しないで作られてしまったならそれほど気にする事はない。

しかし、それが意図的に作られた可能性が考えられるから迂闊に直接手が出せないのである。

そう、それが魔神に関係する者が作り出した可能性があるのだ。

もし直接破壊すれば魔神側へ気付かれるかもしれない。

それは困る。可能性は低いとは思うがゼロではない。少なくとも今現在の魔神側を全く知らない状況では直接手を下すのはリスクがあると思う。

なのでかなり遠まわしな対応を行っている。

「・・・ふぅ」

「大丈夫ですか?」

「うん」

面倒でもなるべく慎重にいこう。

臆病かもしれないがもう失うわけにはいかないものが出来てしまったからな。



今日は休養日にして家でゆっくりしている。

神の仕事でちょっと気張ってしまったからな。

心配するサチさんには逆らえません、ハイ。

だからといってまた無理やり寝かされるのも嫌なので、そこは抵抗した。

幸い丁度ルミナのところから食材が届いたのでそれを使って料理をしたいと言ったら見逃してもらえた。

ふふふ、米と小麦粉、それにレシピがあれば怖いものなしだ。

あーでも醤油とか味噌がないな、今度はそっち方面も考えないと。

ひとまず米を炊いてみる。

この前は鍋で茹でた即席だったからな。上手くいくといいが。

・・・うん、大丈夫そうだな。今日の夕飯に食べよう。

後はクッキーでも作ってみるか。

「なあ、サチ。ゆっくり加熱する事ってできる?」

クッキーの生地を作りしながらサチに聞く。

サチは椅子を持ってきて俺の邪魔にならない場所で座ってみている。

監視なのか気になるのか暇なのかはわからん。多分全部だろう。

「わかりません、ちょっとやってみます」

形にした生地を皿に並べた状態でサチの前に持っていく。

サチは座った姿勢のまま生地を見て念じ始めた。

ふむ、目を閉じる場合もあれば開いている場合もあるのか。いいなぁ魔法みたいで。

じーっとサチの様子を見ながら思考してたらクッキーが見事に焦げた。

「あっ。す、すみません・・・」

「おおう、やっぱり難しいか」

火を当てて焼くのとはちょっと違うからなぁ。

「普通の念よりは難易度は上がりますがやれます。もう一度やらせて下さい」

「ん、わかった」

幸いまだ生地は残ってるし、改めて並べる。

「あと、ソウはちょっと他の事するなりして見ないでください」

「どういうこと?」

「その、ちょっと見られていると雑念が入ってしまって集中が・・・」

あぁ、さっきガン見してたのが原因か。悪いことしてしまった。

「分かった、じゃあ薄茶色ぐらいになったら教えてくれ」

「はい、頑張ります」

焼いてもらってる間何するかな。

余った生地を薄めてパンケーキにでもするか。

・・・ぺらっぺらになってしまった。

あーそうか、膨らし粉が無いからこうなるのか。

むぅ、しょうがない、果物でも入れてクレープにでもするか。

ホント前の世界はあれこれ充実してたのを改めて実感する。

「ソウ、焼けたので見てください」

お、焼けたか。どれどれ味見してみよう。

うん・・・食感はいいね、でも味が薄っすい。あ、よく噛んでると少し甘く感じるな。

そういえばクッキーって結構な量の砂糖やバターを入れるんだっけ。

よし、必殺砂糖まぶしで誤魔化そう。

「ほれ、サチの分」

「ありがとうございます」

砕けるから気をつけ、一口でいったか。

「うん、おいひいれす」

「味薄くないか?」

「らいじょうぶれす」

うん、口の中のが無くなってから次入れような。

案の定詰まらせてる。

ほら、牛乳の実を絞ったのがあるからそれ飲みなさい。

合う?うん、よかったね。

とりあえずサチに頼めばクッキーが焼けることもわかったし、今度アリス達のところに行く時に持っていけそうだ。

サチが味見と称して半分程食べてしまったが、大丈夫だろう。・・・たぶん。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

人と希望を伝えて転生したのに竜人という最強種族だったんですが?〜世界はもう救われてるので美少女たちとのんびり旅をします〜

犬型大
ファンタジー
神様にいっぱい希望を出したら意思疎通のズレから竜人になりました。 異世界を救ってほしい。 そんな神様からのお願いは異世界に行った時点でクリア⁉ 異世界を救ったお礼に好きなように転生させてくれるっていうからお酒を飲みながらいろいろ希望を出した。 転生しても人がいい……そんな希望を出したのに生まれてみたら頭に角がありますけど? 人がいいって言ったのに。 竜人族? 竜人族も人だって確かにそうだけど人間以外に人と言われている種族がいるなんて聞いてないよ! それ以外はおおよそ希望通りだけど…… 転生する世界の神様には旅をしてくれって言われるし。 まあ自由に世界を見て回ることは夢だったからそうしますか。 もう世界は救ったからあとはのんびり第二の人生を生きます。 竜人に転生したリュードが行く、のんびり異世界記ここに始まれり。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...