7 / 7
黄昏
しおりを挟む
それから長い年月が過ぎて、人類の主流はホモサピエンスからホモルクスへと交代していった。人類は過剰なものを生産しなくなった。光合成に頼って生き、必要最低限の食事で満足する人が増えた。資本主義も新社会主義も過去のものとなり、各国の政治形態は様々な形に分化した。日本は夜警国家のような国になった。
人類は重工業をほとんど放棄し、少しずつ文明の程度を退化させていった。それは総じて物欲が乏しく、争いを好まないホモルクスにとっては必然の流れだった。自然が回復し、世界中で野生動物が増えていった。
私は七十歳になった。高名な小説家になった凪ちゃんとの交友は続いていた。
「高校のとき凪ちゃんが書いた小説みたいな世界になってきたねぇ」
「そうかなぁ。ホモサピエンスは滅びそうだけど、ホモルクスは衰退していないよ」
「私、あの小説の主人公の気持ちが、なんとなくわかるんだよね。別にホモルクスだって滅びてもいいよ。地球の自然が元気なら、それでいいじゃないって思う」
「人間なんてしょうもないもんねぇ」
魔の五年間を生き延びた人は多かれ少なかれそういう気持ちを持っている。生きるためには殺人も略奪も厭わなかったあのころの人々の姿を見た者には、人間に対する不信感が根付いている。
「ホモルクスは自然と調和して生きられるんじゃないの?」
「私は野生動物に負けちゃうよ」
「光司さんが熊も撃ち殺してくれるから、大丈夫でしょう?」
「あの人は例外的なホモルクスよ。猟師を志すホモルクスなんてごく少数。私たちは概してあまり活動的ではないから」
私は光司が建てた家の縁側で凪ちゃんとお茶を飲みながら、庭を見ている。この庭に猿が出没することは珍しいことではなくなっていた。
もはやホモサピエンスの新生児はほとんど生まれなくなっている。ホモサピエンスは人類史から退場しようとしている。
人類は重工業をほとんど放棄し、少しずつ文明の程度を退化させていった。それは総じて物欲が乏しく、争いを好まないホモルクスにとっては必然の流れだった。自然が回復し、世界中で野生動物が増えていった。
私は七十歳になった。高名な小説家になった凪ちゃんとの交友は続いていた。
「高校のとき凪ちゃんが書いた小説みたいな世界になってきたねぇ」
「そうかなぁ。ホモサピエンスは滅びそうだけど、ホモルクスは衰退していないよ」
「私、あの小説の主人公の気持ちが、なんとなくわかるんだよね。別にホモルクスだって滅びてもいいよ。地球の自然が元気なら、それでいいじゃないって思う」
「人間なんてしょうもないもんねぇ」
魔の五年間を生き延びた人は多かれ少なかれそういう気持ちを持っている。生きるためには殺人も略奪も厭わなかったあのころの人々の姿を見た者には、人間に対する不信感が根付いている。
「ホモルクスは自然と調和して生きられるんじゃないの?」
「私は野生動物に負けちゃうよ」
「光司さんが熊も撃ち殺してくれるから、大丈夫でしょう?」
「あの人は例外的なホモルクスよ。猟師を志すホモルクスなんてごく少数。私たちは概してあまり活動的ではないから」
私は光司が建てた家の縁側で凪ちゃんとお茶を飲みながら、庭を見ている。この庭に猿が出没することは珍しいことではなくなっていた。
もはやホモサピエンスの新生児はほとんど生まれなくなっている。ホモサピエンスは人類史から退場しようとしている。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる