ホモルクスとホモサピエンスの興亡

みらいつりびと

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黄昏

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 それから長い年月が過ぎて、人類の主流はホモサピエンスからホモルクスへと交代していった。人類は過剰なものを生産しなくなった。光合成に頼って生き、必要最低限の食事で満足する人が増えた。資本主義も新社会主義も過去のものとなり、各国の政治形態は様々な形に分化した。日本は夜警国家のような国になった。
 人類は重工業をほとんど放棄し、少しずつ文明の程度を退化させていった。それは総じて物欲が乏しく、争いを好まないホモルクスにとっては必然の流れだった。自然が回復し、世界中で野生動物が増えていった。
 私は七十歳になった。高名な小説家になった凪ちゃんとの交友は続いていた。
「高校のとき凪ちゃんが書いた小説みたいな世界になってきたねぇ」
「そうかなぁ。ホモサピエンスは滅びそうだけど、ホモルクスは衰退していないよ」
「私、あの小説の主人公の気持ちが、なんとなくわかるんだよね。別にホモルクスだって滅びてもいいよ。地球の自然が元気なら、それでいいじゃないって思う」
「人間なんてしょうもないもんねぇ」
 魔の五年間を生き延びた人は多かれ少なかれそういう気持ちを持っている。生きるためには殺人も略奪も厭わなかったあのころの人々の姿を見た者には、人間に対する不信感が根付いている。
「ホモルクスは自然と調和して生きられるんじゃないの?」
「私は野生動物に負けちゃうよ」
「光司さんが熊も撃ち殺してくれるから、大丈夫でしょう?」
「あの人は例外的なホモルクスよ。猟師を志すホモルクスなんてごく少数。私たちは概してあまり活動的ではないから」
 私は光司が建てた家の縁側で凪ちゃんとお茶を飲みながら、庭を見ている。この庭に猿が出没することは珍しいことではなくなっていた。
 もはやホモサピエンスの新生児はほとんど生まれなくなっている。ホモサピエンスは人類史から退場しようとしている。
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