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はじめてのバッティング
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僕たちは投球練習をつづけた。
大暴投に懲りず、きみは「スプリットを投げる」と言い張っている。
「せめてカーブから練習しないか?」と僕は説得する。
そんな話をしているうちに、ブルペンへ高浜先生と志賀さんがやってきた。
「おーい、どっちでもいいから、バッティングピッチャーをやってくれねえか? 志賀に打撃の楽しさを教えてやりてえんだ」
「あ、はい。ワタシやります」
きみが手を挙げる。
「と、その前に、おまえの投球が見てえな」
先生がきみのピッチングに興味を示した。
「いいですよ。青十字高のエースの球、見せてあげます」
「エースはあたしだっつうの」
「監督が見てくれるんだ。ちゃんとしたストレートを投げてくれよ」
きみはうなずき、先生の前で投球を披露した。
初速と比べて終速がごくわずかしか落ちない快速球が、パン!と僕のミットを鳴らす。
「は?」
高浜監督は目を丸くした。
「なんだいまのスピードは……幻覚か?」
2球目。ど真ん中のストレート。
「幻覚じゃないだと……? えっ、なんてスピードなんだよ。女子の球じゃねえぞ。いや、男女関係なく、高校生離れしていやがる……」
「空尾はコントロールもいいんですよ」
次にきみが投げたのは、外角低めにビシッと決まるストレート。
「まじか……」
「す、す、すごいです、凜奈さん。め、目にもとまらぬとは、まさにこのことですね」
志賀さんも驚嘆している。
「先生、どうです? 空尾の球は高校野球で通用しそうですか?」
「プロでもやれるんじゃねえか……?」
先生は口を半開きにして、呆然としている。
「エースはあたしだってば! 空尾は控えだよ!」と先輩が騒ぐが、先生の耳には入っていないようだ。
記録はまちがいじゃなかったってことか、と高浜先生はつぶやいた。
「空尾と時根の中学時代の記録を調べた。にわかには信じられない数字だった。ふたりとも公式戦12試合に出場。空尾は全試合完投し、そのうち8試合は完封で、ノーヒットノーランも達成している。防御率は驚異の0.33。時根もすげえ。ホームランを22本放ち、打率は驚愕の0.636。敗北した全国大会2回戦では、全打席敬遠されている」
「な、な、なんですかその成績は? ぜ、ぜ、全打席敬遠?」
「おまえら、野球の名門校からスカウトされなかったのか?」
きみはにこっと笑う。
「されたけど、青十字高の制服が可愛かったので!」
濃灰色のブレザー、濃灰と深緑のチェックのリボンとプリーツスカートは、シックでお洒落と評判だ。
「僕は空尾と同じ高校に行くと決めてたんです」
ふうん、と先生は鼻を鳴らす。
「ま、がんばって部員を集めてみろよ。大会に出られたら、旋風を巻き起こせるかもしれん」
「旋風を起こすのは、あたしだよ!」
「おまえもいいピッチャーだが」
高浜監督は草壁先輩に目をやった。
「他のポジションの練習もしとけ」
「えーっ、絶対にエースの座は譲らないから!」
先輩は地団駄を踏んだ。
その後、志賀さんの打撃練習をした。緊張した面持ちで左のバッターボックスに立つ。
きみが投げ、僕が受ける。打者がいるので、僕は念のためヘルメットとマスクをかぶり、プロテクターとレガースを身に着ける。
先生が僕の背後に立ち、先輩はしぶしぶセカンドあたりの守備位置につく。
きみはど真ん中に投げつづけ、志賀さんは懸命にバットを振るが、なかなか当たらない。
「は、は、速すぎます。も、もっとゆっくり投げてください」
「オーケー。バッティングセンターのスピードくらいで投げてみるよ」
空振り。
「志賀、腕だけ回してんじゃねえよ。下半身を回転させろ!」と先生は指導する。
「ひー、こ、こうですか?」
空振り。
「大振りすんな。コンパクトに振れ!」
「あう……」
空振り。
「ほ、細長いバットを振って、ち、小さな動くボールに当てるなんて、む、むずかしすぎます……」
「誰にでもできる。あきらめんな!」
空振り。
「バットを短く持て。とにかく当てろ!」
「む、無理です」
空振り。
「目をつむってんじゃねえよ!」
「あ、開けてます」
空振り。
タイミングが合っていない。振り遅れている。
「志賀さん、僕が1、2、3って言うから、3が聞こえたら、ストライクゾーンの真ん中をめがけて振ってみて」と僕は言う。
「は、はい。や、やってみます」
僕はきみの投球フォームを見ながらカウントする。
「1、2、3」
志賀さんは振る。バットが芯でボールをとらえた。
キーンという快音を響かせて、打球がライナーでセンター方向に飛んだ。
「センター前ヒットだね。ナイスバッティング」
「き、き、気持ちいい……!」
志賀さんは驚きと歓びの入り混じった表情になる。
「やったね、千佳ちゃん」
きみはにっこりと笑う。
大暴投に懲りず、きみは「スプリットを投げる」と言い張っている。
「せめてカーブから練習しないか?」と僕は説得する。
そんな話をしているうちに、ブルペンへ高浜先生と志賀さんがやってきた。
「おーい、どっちでもいいから、バッティングピッチャーをやってくれねえか? 志賀に打撃の楽しさを教えてやりてえんだ」
「あ、はい。ワタシやります」
きみが手を挙げる。
「と、その前に、おまえの投球が見てえな」
先生がきみのピッチングに興味を示した。
「いいですよ。青十字高のエースの球、見せてあげます」
「エースはあたしだっつうの」
「監督が見てくれるんだ。ちゃんとしたストレートを投げてくれよ」
きみはうなずき、先生の前で投球を披露した。
初速と比べて終速がごくわずかしか落ちない快速球が、パン!と僕のミットを鳴らす。
「は?」
高浜監督は目を丸くした。
「なんだいまのスピードは……幻覚か?」
2球目。ど真ん中のストレート。
「幻覚じゃないだと……? えっ、なんてスピードなんだよ。女子の球じゃねえぞ。いや、男女関係なく、高校生離れしていやがる……」
「空尾はコントロールもいいんですよ」
次にきみが投げたのは、外角低めにビシッと決まるストレート。
「まじか……」
「す、す、すごいです、凜奈さん。め、目にもとまらぬとは、まさにこのことですね」
志賀さんも驚嘆している。
「先生、どうです? 空尾の球は高校野球で通用しそうですか?」
「プロでもやれるんじゃねえか……?」
先生は口を半開きにして、呆然としている。
「エースはあたしだってば! 空尾は控えだよ!」と先輩が騒ぐが、先生の耳には入っていないようだ。
記録はまちがいじゃなかったってことか、と高浜先生はつぶやいた。
「空尾と時根の中学時代の記録を調べた。にわかには信じられない数字だった。ふたりとも公式戦12試合に出場。空尾は全試合完投し、そのうち8試合は完封で、ノーヒットノーランも達成している。防御率は驚異の0.33。時根もすげえ。ホームランを22本放ち、打率は驚愕の0.636。敗北した全国大会2回戦では、全打席敬遠されている」
「な、な、なんですかその成績は? ぜ、ぜ、全打席敬遠?」
「おまえら、野球の名門校からスカウトされなかったのか?」
きみはにこっと笑う。
「されたけど、青十字高の制服が可愛かったので!」
濃灰色のブレザー、濃灰と深緑のチェックのリボンとプリーツスカートは、シックでお洒落と評判だ。
「僕は空尾と同じ高校に行くと決めてたんです」
ふうん、と先生は鼻を鳴らす。
「ま、がんばって部員を集めてみろよ。大会に出られたら、旋風を巻き起こせるかもしれん」
「旋風を起こすのは、あたしだよ!」
「おまえもいいピッチャーだが」
高浜監督は草壁先輩に目をやった。
「他のポジションの練習もしとけ」
「えーっ、絶対にエースの座は譲らないから!」
先輩は地団駄を踏んだ。
その後、志賀さんの打撃練習をした。緊張した面持ちで左のバッターボックスに立つ。
きみが投げ、僕が受ける。打者がいるので、僕は念のためヘルメットとマスクをかぶり、プロテクターとレガースを身に着ける。
先生が僕の背後に立ち、先輩はしぶしぶセカンドあたりの守備位置につく。
きみはど真ん中に投げつづけ、志賀さんは懸命にバットを振るが、なかなか当たらない。
「は、は、速すぎます。も、もっとゆっくり投げてください」
「オーケー。バッティングセンターのスピードくらいで投げてみるよ」
空振り。
「志賀、腕だけ回してんじゃねえよ。下半身を回転させろ!」と先生は指導する。
「ひー、こ、こうですか?」
空振り。
「大振りすんな。コンパクトに振れ!」
「あう……」
空振り。
「ほ、細長いバットを振って、ち、小さな動くボールに当てるなんて、む、むずかしすぎます……」
「誰にでもできる。あきらめんな!」
空振り。
「バットを短く持て。とにかく当てろ!」
「む、無理です」
空振り。
「目をつむってんじゃねえよ!」
「あ、開けてます」
空振り。
タイミングが合っていない。振り遅れている。
「志賀さん、僕が1、2、3って言うから、3が聞こえたら、ストライクゾーンの真ん中をめがけて振ってみて」と僕は言う。
「は、はい。や、やってみます」
僕はきみの投球フォームを見ながらカウントする。
「1、2、3」
志賀さんは振る。バットが芯でボールをとらえた。
キーンという快音を響かせて、打球がライナーでセンター方向に飛んだ。
「センター前ヒットだね。ナイスバッティング」
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きみはにっこりと笑う。
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