世界の敵と愛し合え!

みらいつりびと

文字の大きさ
40 / 48

準決勝 花咲月光戦

しおりを挟む
 準決勝では、天上共栄と並んでS県の優勝候補になっている花咲月光はなさきげっこうと当たることになった。
 青十字は大会開幕前は一般的知名度は皆無だったが、ここへ来てにわかに人気が高まっている。
 エースのきみはまだ1点も取られていない。
 僕はホームランを打ちまくっている。4試合で6本。
 きみを筆頭として美人選手揃い。
 野球初心者が(ソフトボール経験者の能々さんを含めて)4人もいて、がんばっている。
 ナインのうち5人までが1年生。
 これまで甲子園に出たことがない弱小校。しかも廃部寸前だった。
 廃部の際まで追い込んだ張本人である草壁先輩が多彩な変化球を投げ、打席ではすべて三振している(先輩は妙に注目されている)。
 話題性のある要素でいっぱい。奇跡のようなチームだ。
「物語になってきたのじゃ」とネネさんは言う。
 しかし、試合前に問題が発生。
 きみが右手中指の痛みを僕に訴えたのだ。
 指から血がにじみ、爪がはがれかけている。
 強い球を投げつづけてきたせいにちがいない。
「これじゃあ投げられないよ」
「投げられる。時根にだけ知っておいてもらいたい」
「だめだよ! 監督に伝えないと」
「やめて!」
「草壁先輩を信じるんだ!」
 きみはうつむく。
 監督に相談し、先発投手は草壁先輩に変更となった。
「空尾、安心しろ。あたしは勝つ」と先輩は言った。
 きみは指に包帯を巻き、1塁手として出場した。
 負傷してもベンチで休んでいられないのが、9人しかいないうちのつらいところだ。
 準決勝戦、青十字は後攻になった。
 草壁先輩は力投した。
 1回表、先頭打者にヒットを打たれ、2番バッターにデッドボールでノーアウト1、2塁のピンチとなったが、花咲月光のクリーンナップを3人とも打ち取り、失点しなかった。
 1回裏、僕は相手のエース、プロ球界も注目する速球投手、坂本幸一さかもとこういちさんからホームランを放った。速い球だったが、きみほどではない。
 2回以降も草壁さんは毎回ランナーを背負ったが、ここぞというときに踏ん張り、無失点をつづけた。
 僕はもう勝負してもらえなかった。敬遠の四球で歩かされた。
 1対0のまま、9回表を迎えた。
 草壁先輩がつかまった。3連打され、ノーアウト満塁。
 タイムを取り、マウンドにバッテリーと内野手が集まった。
「深呼吸してください、草壁先輩」と僕は言った。
「ああ……はぁー、すぅー、はぁー、すぅー」
「大丈夫ですか?」
「正直言うと、怖い……」
 いつも強気な先輩が震えていた。疲労のせいで球のキレがなくなっている。そのことを誰よりも先輩自身が感じているのだろう。
「ワタシ、投げられるよ」ときみが言った。
「無理だろう?」方舟先輩は首を振った。
 きみは包帯をほどいた。指の傷は癒え、血は消えていた。少なくともそう見えた。
「あれ? たいした傷じゃなかったか?」と雨宮先輩が言った。
 そんなはずはない。爪がはがれかけていたんだ。だが、いまは治っている。
 きみが変身生物だからじゃないのか。
 不思議な再生能力でも発揮したんじゃないのか。
 そう思ったが、僕は黙っていた。
 ピッチャー交代。
 一打逆転のピンチを、きみは三者連続三振で切り抜けた。華麗な投球だった。芸術的な映画のように、マウンド上のきみの姿は人々を酔わせた。
 本当に薄氷の勝利。
「心臓にわりいぜ」と監督は試合後につぶやいた。
 草壁先輩は大きく勝利に貢献したが、打撃では三振しつづけた。
 きみの最終回のピッチングは、テレビで放送されるほどのニュースになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...