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ラブコメなにそれおいしいの。

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「昔の人はラブコメが大好きだったらしいよ」とファナが思った。その心はただちにシャンに伝わり、「ラブコメなにそれおいしいの」という思考を誘った。
「恋の駆け引きをおもしろおかしく書いた小説や漫画のことだよ」ファナは「シャン好き。浮気しないで」と同時に考えた。
 ファナとシャンは女性同性愛者で、一緒に暮らしている。ふたりともテレパスで、全人類がテレパシーを持つ現代を生きている。読心能力を持たない人間はすでに滅びた。
「心を隠せないと駆け引きはできない。きっとわたしはラブコメを楽しめない。ファナ好き。ナリも好き」
 シャンの脳裏に浮かんだ思考はすぐファナに伝わる。
 ナリは最近ふたりが居酒屋で知り合った女性同性愛者だ。
「あたしもナリが好き。でもシャンはもっと好き。読んでみたけどラブコメけっこうおもしろかったよ。心は隠せた方が楽しく生きられたのかも。こんな人類がいたのかって驚いた」
 ナリは近所に住んでいる。しょっちゅう遊びに来るようになった。今日も呼び鈴を鳴らして、部屋に入ってきた。
「シャン大好き。ファナ好き。漫画描く人いなくなって悲しい。漫画読みたい漫画漫画漫画」
 ナリは漫画が好きだ。そしてファナが好きだが、より多くシャンを愛している。シャンもナリへの好意を放射した。ファナは愛の格差に悄然とした。
「ナリとシャンがラブラブでかなり悲しい。傷ついた」
「傷つかないでーっ! 悲しみが伝染する」
「3人で愛しあおうぜ。漫画ないの新しい漫画」
 ファナは古い漫画本を何冊か持っている。
「新しい漫画はないよ。あんなに描くの大変なもの誰も描かないし、ストーリーをひとりで考える人なんてもういない」
「知ってるけど読みたい。ボクはラブコメ好き好き。萌え絵好き。いっそボクが描こうかな」
「「飽きっぽいナリには無理」」
「むうーん! できるもんできないか確かに無理かも」
「3人とも大嫌いだぜ。金をくれ」ドアをやかましくしつこく叩き、タキがあらわれた。ファナの幼馴染で20代の男性だが、働いていない。
「「「来んなタキ!」」」
「おれの空腹を知れ。苦しい苦しい胃がいてーっ」
「「「やめてーっ。お金あげるから帰ってーっ」」」
「うふふふふ。またたかりに来るからなありがとよ」
「「「2度と来んなーっ」」」
 タキが帰り、苦しみが遠ざかって、3人はほっとした。
「「「ラブコメが楽しめる時代の方がよかったかも。思考と感情が同期するってつらいかもつらいつらいつらい」
「「「つらいのやめようよーっ。愛そう、愛そうよ」」」
「愛そう。でもなんかボクたちのときめき減ってね?」
 はじめて会った居酒屋で、3人の間には大きなときめきがあった。いまは残念ながら、ドキドキが明らかに少なくなっている。
「「それ思うなーっ」」
 ファナとシャンとナリは3人麻雀をはじめた。牌の手触りは楽しめたが、ゲームの駆け引きはもちろん楽しめない。
「「「昔の方がよかったかも」」」と思考が同期した。
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