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人間保護区と五次元神

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 僕は人間保護区で生まれた。澄んだ湖があり、そこに流入流出する河川があり、鳥や獣が棲む森林があり、自給自足するための農地があり、高床式住居からなる集落があり、快適な範囲内の四季がある。弓とナイフによる狩猟で肉が手に入る。人口密度は低く、広大な大地が僕たちのものだ。
 しかし人間の土地は地球すべてではない。地球とは世界のことで、かつて人間は世界すべてを支配していたが、今は保護区で保護されて生きている存在になっている。保護区は高い壁で囲われている。壁から外に出ることはできない。
 壁の外から透明な体を持つ五次元神たちがときどきやってきて、獣を補充したり、水を浄化したり、農地を見回って害虫を消したり、人間の過剰な争いを止めたりする。五次元神のおかげで人間は滅びを免れている。
 保護区での人生を無意味だと言う人がいる。人間はかつてもっと多様な文化文明を持つ意味のある存在だった。今はその意味を失くしたと言って絶望している。僕は釣りと狩猟とセックスをしていればしあわせで、無意味だとは思わない。絶望している人間を見ていると気が滅入るので殺した。
 五次元神がそのようすを観察していた。彼らはときどき人間を消すので僕はビビったが、消されずに済んだ。彼らが人間を消す基準はわからない。五次元神は透明だが、草が不自然になびいたりして、気配を察知することはできる。
 空には赤色巨星がある。太陽が巨大化したものだそうだが、僕にはよくわからない。太陽の巨大化により人間は滅びるはずだったが、五次元神が地球の位置を動かして、滅びを回避させてくれたそうだ。そうまでして人間を守る価値があったのかどうかわからない。
 わからないことだらけだが、意味を追求すると絶望することを僕は知っている。五次元神と話せたらいいなと思わないこともないが、彼らはけっして僕らとは話さない。
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