上 下
73 / 88

悪魔聖書

しおりを挟む
 なにもなかった。 

 最初に意識が生じた。
 意識は自らを悪魔と呼ぶことにした。

 闇あれ、と悪魔は言った。
 すると闇があった。
 薄暮あれ、と次に悪魔は言った。
 もちろん薄暮が生まれた。
 つづいて悪魔は、天と地、殺す者、殺される者をつくった。
 天地は殺す者が殺される者を殺す阿鼻叫喚の巷となった。
 それが世界である。

 悪魔は殺す者の種類を増やすことにした。
 それが人、虎、狼などである。
 殺される者の種類も増やすことにした。
 それが羊、豚、牛などである。

 悪魔は人、虎、狼、羊、豚、牛などを雌と雄に分けた。
 雌と雄の交わりにより、殺す者と殺される者は増殖する。
  
 悪魔は殺す者と殺される者に感情を与えた。
 それが喜怒哀楽である。

 雌と雄、喜怒哀楽が生まれて世界は混沌となり、殺す者が他の殺す者を殺す現象が生じた。

 創造を終えた悪魔は、自らにも形を与えた。
 人の雌になった悪魔は、世界を歩き始めた。
しおりを挟む

処理中です...