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第6話 二枚めの名刺

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 この妙な名刺がきっかけになって、彼と友達になるやつも多かった。ロンドンは情報をもらうだけでなく、与えることにも熱心だったので、旅仲間の間での彼の評判は上々だった。当然、古代生物に関する情報もさらによく集まるようになり、彼のこの方面への傾斜はますます深まった。豚の骨を古代生物の骨と偽ってインチキ商売をすることがあったが、それをきっぱりとやめ、かわりに古代生物についての講演をして稼ぐという成長ぶりを見せたのもこの時期である。
 二十歳になったとき、彼は名刺を書きかえた。
 古代生物学者 吉田ロンドン
 講演 十万円から承ります
 特技 古代生物キングコングの真似
 なんと、弱冠にして彼は自称古代生物学者になったのだった。最初、その名刺はふんと鼻で笑われるだけだったが、しだいに彼の講演が面白く、ラストでいつもやる高いところに登って、両手の握りこぶしで胸をゴンゴン叩くポーズが最高だという評判が広まるにつれて、名刺の重みは増していった。
 二十五歳のとき、彼はサイン会が開けるほどの有名人になっていた。
 旅仲間ラックスマンから「豚王国あやうし!」との情報を入手したのは、このサイン会終了後、酒場で一杯やっているときだった。この情報がロンドンの好奇心を刺激したのはもちろんである。
 豚王国が崩壊するか、それとも豚王軍団が野豚の大群を阻止するか、というのは単に見ものであるばかりでなく、人類の命運を左右する重大な岐路となる筈であった。幾多の強力な古代生物が滅び去った今、いよいよ地上の主人が人か豚かを決する最終戦争が始まるのだ、とロンドンは興奮した。
 人間側の代表として、豚王が野豚の大群を迎え撃つことになるであろう。超大国の王が敗れれば、豚が人間の管理下を脱して世界を席巻することになるかもしれない。
 これはぜひ見届けねば、と思った。できれば豚王とお近づきになり、彼のそばで運命の戦いを見たい。
 豚王国行きを決めたロンドンは、何かと噂の多い豚王に、どうやって会見するか考えていた。
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