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第32話 キャベツ姫に会いたい。

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 今夜のロンドンは忙しい。
 彼はちょっと用がある、と言ってラックスマンと別れ、王城に戻った。
 キャベツ姫に会いたい。会わなければならない。
 さすがのロンドンにも今後の展開がまったく読めなかった。生きて帰れるのかどうかもわからない。このまま会わずに別れたくはない。
 おれが野豚と戦う破目に陥ったのは、何も姫に近づいたことだけが原因ではない。もともと野豚の大群と豚王軍の戦いが見たくてこの国へ来たのだ。成り行きで指揮官として最前線に送られることになってしまったけれど、墓穴というか本望というか、とにかく自らの撒いた種が原因なんだ。だから姫は気にしないでほしい、と伝えたかった。
 運がよければまた会える、と少しでも希望を残して別れたかった。
 彼は息を切らせてキャベツ姫の部屋まで走り、扉を強く叩いた。
 返事がない。
 何度叩いても反応がない。
 彼は我慢できずに扉を開けた。中には誰もいなかった。
 ロンドンは意気消沈した。勢い込んで来たのに、ひどい肩すかしだ。
「あのおてんば姫、どこに行っちまったんだ……」
 彼女のいない部屋で、力なくつぶやいた。
「何者だ? そこで何をしてる!」
 激しい誰何の声に、ロンドンはギクッとして振り向いた。巨漢の兵士が抜刀して立っていた。
「ほほう、ロンドン少将殿でしたか。ここに何の用です?」
 ただの兵士ではなかった。豚王親衛隊の服を着ている。そして、ロンドンが少将になったことを知っている。豚王に近しい者だ。
 親衛隊員のニヤニヤ笑いに、ロンドンは何かある、と勘付いた。
「キャベツ姫はどこにいるんだ?」
 彼は悪びれずに訊いた。
「姫さまは謹慎中だよ。誰にもお会いにならない」
 隊員が嬉しそうに答えた。
「謹慎だと? 彼女が何をしたっていうんだ!」
 ロンドンは逆上した。
「五分でいい! 姫に会わせてくれ!」
「陛下の許可があればいいんだがな」
 豚王の許可?
 ロンドンは呆然とした。そのひと言で、彼にはすべてわかってしまった。王の差し金だ。
 豚王ってのはどうしようもない小心者だ。やつはおれと姫を会わせないために、彼女を軟禁したのだ!
 信じられないほどの嫌らしさだ。これが豚王の正体か!
 ロンドンの血走った目を、隊員は小気味よさそうに見ていた。彼のニヤニヤ笑いが、おまえだけは絶対に姫と接触させるわけにはいかない、と語っていた。
 これ以上話しても無駄だ。
 ロンドンは唇を噛みしめた。かつて姫に恋した連中も、こんな悔しさに身を震わせたのだろうか? そしてキャベツ姫自身は、この連続だったのだ。
 彼は、初めて彼女の心の奥底に渦巻いている父への憎悪を想像できるような気がした。
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