作家志望愛詩輝の私小説

みらいつりびと

文字の大きさ
19 / 47

フォーリンラブ

しおりを挟む
 SF研究会室で、ボクは藤原会長と二人きりでいる。
 ボクが彼にシナリオについて相談したいと誘ったのだ。
 今日は木曜日。
 うまくいけば、ずっと二人でいられる。
 二人きりで……。
「シナリオの穴を埋めていきたいんです」
「うん。1か月後から899日後の間だな」
「2つの案があります。村上視点か愛詩視点か」
「愛詩視点の方がSF的に面白そうだな」
「考えてはありますが、おそらく撮影困難です」
「言ってみろ」
 命令されるのが心地いい。どうなってしまったんだ、ボクは。
「『シンギュラリティAIのパラドックス』で書いた世界が出現します。この場合、戦争はなくなり、899日後はまったくちがったものになります。もはや村上と愛詩の再会はなくなります」
「それは人間の物語的につまらない。村上視点の方を聞かせてくれ」
「村上は最初、未来を変えるために国会議事堂前や東京スカイツリーの前でアジテーションをします。セリフはなし。拡声器をもって叫んでいる彼の映像だけ。軍人が登場し、彼を自動小銃の台尻で殴ります」
「いいね」
「マンションには新品の美少女型アンドロイドがいます。つまりボクが出演します。しかしそれはありふれた量産型AIで、未来予測はできません。会話は平凡なもので、家事に関することだけ。未来についての村上の質問には答えられません。村上は彼女に失望し、友人に売り払います」
「うん。続けてくれ」
「村上は田舎に引っ越して、農業をします。これも余計なセリフはなくして、できるだけ映像の力で演出します。畦道に置かれたラジオから世界飢饉や米朝戦争、日米韓中朝戦争が現実化したニュースが流れます。季節の変動を風景で撮影できないので、村上の服装の変化でごまかしましょう」
「平坦だな。もっと面白い展開はないのか?」
 クールな村上宇宙さんの批判が気持ちいい。もっと言って。
「会長、この映画にかけられる予算を教えてください」
「7万円だ。1人1万円ずつバイトで稼いで、出資してもらおうと思っている」
「フィルム代も出ませんよね」
「デジタルカメラだから、フィルム代はない。編集もオレがパソコン1台でやる。そこに金はかからない」
「手世姉さんに5万円払ってください。無償でやってくれると言ってますが、お金を支払わないと、こちらから何の注文もできません」
「おまえの言うとおりだ」
 おまえ……。愛詩って呼ばれるよりいい。できれば輝と呼んでほしい。
「農地の撮影はどうしますか」
「俺の親戚が秩父で農業をやっている。そこを撮影させてもらう。手みやげを持って行けば、それでいい」
「自動小銃や軍人の服装はどうしましょう」
「サバイバルゲームショップで買う。くそっ、予算オーバーだな」
「原子爆発によるキノコ雲はどうやって撮影するんですか」
「映像学科の友人にコンピュータグラフィックスが得意なやつがいる。そいつに頼む」
「ではその方への謝礼も必要ですね」
「そうだな。足りない金はプロデューサーが出資する」
「プロデューサーって誰ですか?」
「俺だ。10万円出す。それ以上の金は出せない」
「凝ったストーリーは無理です。さっきのが現実的です」
「わかった。その線で行こう」
「その次は899日後です。ジ・エンド」
「オーケー、それでいい。よくやった、シナリオライター」
 会長、ボクにも謝礼をください。
 お金では買えないものを。
 村上さんが話は終わったとばかりに、会室を出て行く。
 ひとり取り残された。
 さっきの会話を脳内でリフレインする。
 彼の声を再生すると、シビれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

咲坂(SAKISAKA)という、誰の目にも留まるほど美しい女性は――俺にだけ“心の闇”を見せた。

里見 亮和
キャラ文芸
誰もが振り返る美しさを持つ咲坂雪菜。 普通ならとても近づけない存在なのに、なぜか彼女は俺にだけ歩み寄る。 その理由に触れたとき、彼女の“心の闇”は静かに俺へ重なり始めた。

ベスティエンⅢ

熒閂
キャラ文芸
美少女と強面との美女と野獣っぽい青春恋愛物語。 ちょっとのんびりしている少女・禮のカレシは、モンスターと恐れられる屈強な強面。 禮は、カレシを追いかけて地元で恐れられる最悪の不良校に入学するも、そこは女子生徒数はわずか1%という環境で……。 強面カレシに溺愛されながら、たまにシリアスたまにコメディな学園生活を過ごす。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...