43 / 47
ミッション完遂
しおりを挟む
考えてみれば、ボクの残りの出演は秩父の農地だけで、都内各地の撮影には付き合わなくてもよかったのだが、いちおうSF研の活動に参加した。
まず国会議事堂前に行き、拡声器を持って怒鳴っている土岐さんを撮ることになった。
「このシーン、ぼくが土岐を自動小銃の台尻で殴ることになっているけど、思いっきりやっていいか」
「いいわけないでしょう。やめてください!」
「迫真の演技がほしいよな。しかし怪我させるわけにはいかないし、8割の力でやろうか」
「いや、当てないでくださいよぉ。殴られた演技をしますから」
結局、小牧さんはけっこう強く殴り、土岐さんはうめいた。悪いけど、この撮影は見ていて笑えた。来たかいはあったかな。
都庁舎、新宿駅、東京スカイツリー、浅草雷門、東京タワーでも撮影した。ここでは軍人は登場せず、土岐さんは殴られないで済んだ。ボクのシナリオどおりだ。
都内での撮影は2日で終わった。
3日めは西武秩父線に乗って秩父駅へ行った。会長の親戚の家を借りて、ボクはへそ出しゴシックロリータに着替えた。これを着るのは今日で最後だ。もう絶対に着たくない。
秩父で印象的なのは武甲山だった。駅から近くに見えてでかい山。石灰岩採掘により山の形が変わってしまっていて、山頂から中腹にかけて、ピラミッド状になっている。ボクはその変容を格好いいと思った。痛々しいと思う人も多いかもしれない。
20分ほど歩いて、ナスやトマト、カボチャなどの夏野菜が生えている畑まで移動した。そこで土岐さんが空を見ているシーンを撮影した。積乱雲が立ち昇っている空だが、完成した映像には、核爆発によるキノコ雲が合成されているはずだ。
土岐さんが東西南北各方面を見ているところを撮影。
次いでボクの登場だ。いかにも苦労して脱出してきたように、顔や剥き出しのお腹やゴスロリを土で汚された。別にかまわない。洗えばいいだけ。
緊張はまったくなかった。会長のことはもうなんとも思っていないから、よく見られたいという力みもない。
ボクは土岐さんに向かって長い畦道を歩いた。彼とシナリオどおりの会話を交わし、「愛は理解不能」という最後のセリフを言った。
同じシーンを2回撮った。会長がオーケーを出した。ミッション完遂。
撮影は楽しかった。SF研をやめようかと思っていたが、それは今でなくていい。
「予定より早く撮影が済んだ。全員に感謝する。ありがとう。今日は秩父名物のホルモン焼きをおごる。打ち上げだ!」
会長も悪い人ではない。失恋の痛みがなくなった今となっては、いい人だと言える。
ホルモン焼きは美味しかった。秩父いいところだな。
その夜、ボクは綾乃に電話した。
「映画撮影終わったよ。なんかいろいろあったけど、途中で投げ出さないでよかった。綾乃のおかげだよ」
「どういたしまして。学祭で上映するんだよね。楽しみ」
「綾乃、夏休み遊ぼうよ」
「うん、遊ぼう」
「考えたんたけどさ、どこかへ旅行しようよ」
「いいね。バイトがんばって、旅費作るよ」
「どこか行きたいところはある?」
「旅費があんまりかかるところは無理だな。関東近辺で。美味しいものが食べたい。そこにはお金をかけてもいい。めったにない贅沢をしたい」
「わかった。行き先を検討するね」
「ありがとう、輝。やさしいね」
別にやさしくなんかない。ふつうだよ。
一段落ついた。
ぐっすりと眠った。
まず国会議事堂前に行き、拡声器を持って怒鳴っている土岐さんを撮ることになった。
「このシーン、ぼくが土岐を自動小銃の台尻で殴ることになっているけど、思いっきりやっていいか」
「いいわけないでしょう。やめてください!」
「迫真の演技がほしいよな。しかし怪我させるわけにはいかないし、8割の力でやろうか」
「いや、当てないでくださいよぉ。殴られた演技をしますから」
結局、小牧さんはけっこう強く殴り、土岐さんはうめいた。悪いけど、この撮影は見ていて笑えた。来たかいはあったかな。
都庁舎、新宿駅、東京スカイツリー、浅草雷門、東京タワーでも撮影した。ここでは軍人は登場せず、土岐さんは殴られないで済んだ。ボクのシナリオどおりだ。
都内での撮影は2日で終わった。
3日めは西武秩父線に乗って秩父駅へ行った。会長の親戚の家を借りて、ボクはへそ出しゴシックロリータに着替えた。これを着るのは今日で最後だ。もう絶対に着たくない。
秩父で印象的なのは武甲山だった。駅から近くに見えてでかい山。石灰岩採掘により山の形が変わってしまっていて、山頂から中腹にかけて、ピラミッド状になっている。ボクはその変容を格好いいと思った。痛々しいと思う人も多いかもしれない。
20分ほど歩いて、ナスやトマト、カボチャなどの夏野菜が生えている畑まで移動した。そこで土岐さんが空を見ているシーンを撮影した。積乱雲が立ち昇っている空だが、完成した映像には、核爆発によるキノコ雲が合成されているはずだ。
土岐さんが東西南北各方面を見ているところを撮影。
次いでボクの登場だ。いかにも苦労して脱出してきたように、顔や剥き出しのお腹やゴスロリを土で汚された。別にかまわない。洗えばいいだけ。
緊張はまったくなかった。会長のことはもうなんとも思っていないから、よく見られたいという力みもない。
ボクは土岐さんに向かって長い畦道を歩いた。彼とシナリオどおりの会話を交わし、「愛は理解不能」という最後のセリフを言った。
同じシーンを2回撮った。会長がオーケーを出した。ミッション完遂。
撮影は楽しかった。SF研をやめようかと思っていたが、それは今でなくていい。
「予定より早く撮影が済んだ。全員に感謝する。ありがとう。今日は秩父名物のホルモン焼きをおごる。打ち上げだ!」
会長も悪い人ではない。失恋の痛みがなくなった今となっては、いい人だと言える。
ホルモン焼きは美味しかった。秩父いいところだな。
その夜、ボクは綾乃に電話した。
「映画撮影終わったよ。なんかいろいろあったけど、途中で投げ出さないでよかった。綾乃のおかげだよ」
「どういたしまして。学祭で上映するんだよね。楽しみ」
「綾乃、夏休み遊ぼうよ」
「うん、遊ぼう」
「考えたんたけどさ、どこかへ旅行しようよ」
「いいね。バイトがんばって、旅費作るよ」
「どこか行きたいところはある?」
「旅費があんまりかかるところは無理だな。関東近辺で。美味しいものが食べたい。そこにはお金をかけてもいい。めったにない贅沢をしたい」
「わかった。行き先を検討するね」
「ありがとう、輝。やさしいね」
別にやさしくなんかない。ふつうだよ。
一段落ついた。
ぐっすりと眠った。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ベスティエンⅢ
熒閂
キャラ文芸
美少女と強面との美女と野獣っぽい青春恋愛物語。
ちょっとのんびりしている少女・禮のカレシは、モンスターと恐れられる屈強な強面。
禮は、カレシを追いかけて地元で恐れられる最悪の不良校に入学するも、そこは女子生徒数はわずか1%という環境で……。
強面カレシに溺愛されながら、たまにシリアスたまにコメディな学園生活を過ごす。
リエゾン~川辺のカフェで、ほっこりしていきませんか~ 【第8回ライト文芸大賞 奨励賞受賞】
凪子
ライト文芸
【第8回ライト文芸大賞 奨励賞受賞】
山下桜(やましたさくら)、24歳、パティシエ。
大手ホテルの製菓部で働いていたけれど――心と体が限界を迎えてしまう。
流れついたのは、金持ちのボンボン息子・鈴川京介(すずかわきょうすけ)が趣味で開いているカフェだった。
桜は働きながら同僚の松田健(まつだたける)と衝突したり、訪れる客と交流しながら、ゆっくりゆっくり心の傷を癒していく。
苦しい過去と辛い事情を胸に抱えた三人の、再生の物語。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
主様のお気に召すまま
ほか
キャラ文芸
大人気アプリ『癒執事』は、イケメン執事がメンタルや健康を管理してくれる優れもの。底辺作家の小熊ほのは、今日もスマホからの執事の声に癒されながら眠りにつく。「いつか主様の世界に行けたらいいのですが――」。その翌日、通りがかりの男たちの横暴に身を竦めていると、見覚えのある燕尾服姿のイケメンが現れ救ってくれる。なんとそれは、推しの執事らしい!「こちらでも全力でお守りします。主様」。アプリの世界からやってきた執事と、アプリの声優イベントに行ったり、飲み会やカラオケも――?執事とリアル女子のドタバタラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる