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第20話 筆子の決意表明
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◇中三、夏◇
「漫画を投稿しようと思うの……」
中学三年の夏。一学期終業式の後、漫研の部室で筆子はそう言った。
他の会員たちが彼女に注目した。
今年の漫研の会員は五人だった。三年生が僕と筆子。二年生が双葉くん。そして一年生がふたりいた。
「夏休みに短編漫画を仕上げて、漫画の新人賞に応募する……」
僕は以前から筆子が漫画家志望なのを知っていたから、別に驚かなかった。二年生と一年生は彼女の漫画に対する情熱に日頃から敬意を抱いていて、このときも尊敬の眼差しを向けていた。
「文化祭には会誌を出すんですよね。そっちはどうするんですか?」と双葉くんが聞いた。
「会誌には冬に描いた『マラソンランナー』を載せようと思う……。投稿作品に全力を注ぎたいから、会誌用の新作は描けない……」
投稿作は未発表でなければならないという新人賞の規定があり、会誌には載せられないらしい。
「そうですか。『マラソンランナー』は力作ですから、いいと思います」
「双葉くんは新作漫画を描いてくれる?」と僕は頼んだ。今年は僕が会長として、会誌の取りまとめをしなければならない。
「はい。がんばります」
「私はイラストでいいですか?」一年生会員の兵藤珠子さんが言った。「虹先輩に教えてもらって、デジタルイラストが描きたいです」
「うん、いいよ」
僕は安くて使いやすいペインティングソフトの名を彼女に伝えた。
「そんなにむずかしくないからすぐ使いこなせると思うんだけど、わからなかったらなんでも聞いてよ」
「よろしくお願いします、虹先輩!」
兵藤さんは黒縁の眼鏡をかけている。妙に僕になついていてかわいいんだけど、二年前の野村さんとのことみたいになったら嫌だな、と僕は微かに懸念を抱いていた。たぶん、考え過ぎだとは思うけど。
彼女は跳躍魔法使い。大ジャンプして、地上から高いビルの屋上にだって跳び乗ることができる。
「井上さんは何を描くか決めてる?」と僕はもうひとりの一年生、井上麻里さんに聞いた。
にぎやかで、表情がころころ変わるきゃぴきゃぴした女の子だ。美人だが、ちょっと気分屋なところが玉に瑕。
「まだ考えていませーん」と彼女は言った。
「そうか。夏休み中に、何か考えておいてね」
「はーい」
調子よく答えてくれるけれど、今ひとつ心もとない。部室で彼女は漫画を読んだり、おしゃべりしたりして過ごすことが多く、絵を描くところを見たことがない。漫画の話題には滅法強く、漫画好きであることはまちがいないのだが。
まぁ、漫画を読み続けて卒業した漆原先輩の例もあるので、いちがいに責めることはできない。
井上さんは分身魔法使い。ひとつだけだが、自分の分身を作ることができる。しかし分身は人形みたいなもので、動かず、しゃべれず、一時間経つと消えてしまう。「アリバイ作りぐらいにしか使えません。いや、あたしの魔法がばれてるから、それも無理。使えねー魔法ですよ」と彼女は自嘲する。
透明、跳躍、分身。なんだか漫研が忍者の集団になったみたいだ。
「僕は会誌にはまたイラストを載せることにするよ」と僕は言った。
「会誌については、夏休み明けに詳しく打ち合わせをしよう。ではこれで、一学期の活動を終わります」
「漫画を投稿しようと思うの……」
中学三年の夏。一学期終業式の後、漫研の部室で筆子はそう言った。
他の会員たちが彼女に注目した。
今年の漫研の会員は五人だった。三年生が僕と筆子。二年生が双葉くん。そして一年生がふたりいた。
「夏休みに短編漫画を仕上げて、漫画の新人賞に応募する……」
僕は以前から筆子が漫画家志望なのを知っていたから、別に驚かなかった。二年生と一年生は彼女の漫画に対する情熱に日頃から敬意を抱いていて、このときも尊敬の眼差しを向けていた。
「文化祭には会誌を出すんですよね。そっちはどうするんですか?」と双葉くんが聞いた。
「会誌には冬に描いた『マラソンランナー』を載せようと思う……。投稿作品に全力を注ぎたいから、会誌用の新作は描けない……」
投稿作は未発表でなければならないという新人賞の規定があり、会誌には載せられないらしい。
「そうですか。『マラソンランナー』は力作ですから、いいと思います」
「双葉くんは新作漫画を描いてくれる?」と僕は頼んだ。今年は僕が会長として、会誌の取りまとめをしなければならない。
「はい。がんばります」
「私はイラストでいいですか?」一年生会員の兵藤珠子さんが言った。「虹先輩に教えてもらって、デジタルイラストが描きたいです」
「うん、いいよ」
僕は安くて使いやすいペインティングソフトの名を彼女に伝えた。
「そんなにむずかしくないからすぐ使いこなせると思うんだけど、わからなかったらなんでも聞いてよ」
「よろしくお願いします、虹先輩!」
兵藤さんは黒縁の眼鏡をかけている。妙に僕になついていてかわいいんだけど、二年前の野村さんとのことみたいになったら嫌だな、と僕は微かに懸念を抱いていた。たぶん、考え過ぎだとは思うけど。
彼女は跳躍魔法使い。大ジャンプして、地上から高いビルの屋上にだって跳び乗ることができる。
「井上さんは何を描くか決めてる?」と僕はもうひとりの一年生、井上麻里さんに聞いた。
にぎやかで、表情がころころ変わるきゃぴきゃぴした女の子だ。美人だが、ちょっと気分屋なところが玉に瑕。
「まだ考えていませーん」と彼女は言った。
「そうか。夏休み中に、何か考えておいてね」
「はーい」
調子よく答えてくれるけれど、今ひとつ心もとない。部室で彼女は漫画を読んだり、おしゃべりしたりして過ごすことが多く、絵を描くところを見たことがない。漫画の話題には滅法強く、漫画好きであることはまちがいないのだが。
まぁ、漫画を読み続けて卒業した漆原先輩の例もあるので、いちがいに責めることはできない。
井上さんは分身魔法使い。ひとつだけだが、自分の分身を作ることができる。しかし分身は人形みたいなもので、動かず、しゃべれず、一時間経つと消えてしまう。「アリバイ作りぐらいにしか使えません。いや、あたしの魔法がばれてるから、それも無理。使えねー魔法ですよ」と彼女は自嘲する。
透明、跳躍、分身。なんだか漫研が忍者の集団になったみたいだ。
「僕は会誌にはまたイラストを載せることにするよ」と僕は言った。
「会誌については、夏休み明けに詳しく打ち合わせをしよう。ではこれで、一学期の活動を終わります」
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