魔法使いじゃない

みらいつりびと

文字の大きさ
32 / 44

第32話 モテる筆子

しおりを挟む
 筆子はどこの部にも入らなかった。
 以前と同じように周りの目などまったく気にせず、休み時間には漫画を描いていた。クラスメイトに話しかけられてもカタコトの返事を返すだけで、話はまったく弾まない。そのあたりの彼女の性格は、小学生のときとほとんど変わっていない。
 それでも一部の男子は筆子にかまい続けた。モテている彼女を見て、僕はちょっと焦りを感じた。彼女が誰かと付き合い始めたらどうしよう。
 そんな状況を想像すると、胸がもやもやして息苦しくなった。
 僕はときどき筆子のマンションへ遊びに行った。家に帰ってもやはり彼女は漫画を描いていた。
「背景手伝おうか?」 
「いい。ひとりで描く。背景もうまくなりたいから……」
 そう断られれば、僕に出番はなかった。
「筆子、モテてるね」と僕は言った。
「そう?」
 彼女はびっくりしたように、目を丸くしていた。
 筆子自身には、モテているという自覚はないみたいだ。
 でも高校生になってから、彼女を見る男子たちの視線は明らかに変わっていた。
 髪を整え、つぶらな瞳をさらし、セーラー服を着た筆子は、クラスで一番かわいい女の子に見える。
 ある日、廊下で彼女に声をかけているクラスメイトの男子生徒を見かけた。デートに誘っているようだった。僕は気になってようすをそっとうかがった。
 彼女は困っているようだった。断ろうとしているけれど、コミュ力がなくてうまく断れないという感じだ。やがて筆子はうつむいて黙り込んでしまった。こんなときに、割って入って代わりに断ってあげればかっこいいのかもしれないが、あいにくと僕はそういうことができる性格ではない。男子はやがて、あきらめて去っていった。
 その日も僕は筆子の部屋に行った。
「ねぇ筆子、男の子から何か言われてなかった?」と話しかけた。
「ああ、見てたの……?」
「偶然見えたんだよ」
「美術館へ行かないかと言われた……」
 美術館か。ちゃんと筆子の興味を調べて誘っていたんだな、と僕は思った。
「それで、どうしたの?」
「断った……」
「なんで?」
「美術館に行くより、漫画を描いていたい。それに……」
 筆子は僕をじっと見た。
「それに?」
「いや、別になんでもない……」
 彼女は視線を紙に戻し、Gペンを動かした。
 今のところ、彼女は漫画一筋みたいだ。僕はちょっとほっとした。すぐに彼氏ができる雰囲気じゃない。
 僕が筆子を美術館に誘ったら、どうなるのだろう?
「行かない。漫画描くから」と答える彼女が頭に浮かんだ。だめだ。誘えない。
 僕は筆子の部屋で自分のノートパソコンを起動させ、イラストを描き始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

処理中です...