21 / 78
第21話 中華そばもちもちの樹
しおりを挟む
県道沿いに「もちもちの樹 水郷店」という看板があり、美沙希とカズミは自転車を止めた。
黒い板塀で囲まれた和風の平屋。上品な建物で、割烹だと言われてもおかしくなく店構えだ。
「ラーメン屋さんっぽくないね」とカズミはつぶやいた。
「個性的だよね。美味しいラーメンがあるんだよ~」
人気店らしく、行列ができていた。
美沙希はいそいそと列に並んだ。
「あれ、琵琶と川村」
列の直前にいたのは、クラスメイトの佐藤拓海だった。
「ひっ」と叫んで、美沙希はカズミの陰に隠れた。
「こんにちは、佐藤くん」
「こんにちは、琵琶、それと川村。取って食いはしないから、そんなに怖がるなよ」
美沙希は無言だ。本気で怯えて、カズミの背中に隠れて縮こまっている。
「ふたりとも、また釣りしてたのか?」
「うん。佐藤くんも?」
「まぁね。ノーフィッシュだけどさ」
「こっちは釣ったよー。56センチ……」
「えっ? そんな大物?」
「のキャットフィッシュ!」
「ナマズか。あー、びっくりした」
「ブラックバスじゃないんだよねー。でも楽しかったよ」
カズミと佐藤の会話は弾んでいるが、美沙希はまったく参加しようとしない。
「一緒に食わないかと言いたいところだけど、無理そうだな」
「ごめんねー」
佐藤はひとりで店内に入り、続いて美沙希とカズミがテーブル席に案内された。
店内は薄暗かった。座敷席があり、テーブル席はゆったりと間隔を開けて置かれている。「恵比寿ビールあり〼」という看板や瓶のコカコーラが入った冷蔵庫があり、大正ロマン的な雰囲気があった。
美沙希は佐藤が離れた席に座っているのを確認して、ほっとしていた。
カズミはメニューを開いた。
中華そばとつけ麺しかない。
中華そば小140g、中280g、大420g。
つけ麺小200g、中400g、大800g。
「ここはねえ、節系醤油味のお店なんだよ。中華そばもつけ麺もどっちもおすすめ。うわー、迷うなぁ」
美沙希が元気を取り戻して、はしゃいだ声を上げた。
「うーん、今日は中華そば中にするよ!」
「あたしもそれで」
美沙希が店員を呼んで、注文した。
10分ほど待って、中華そばがふたつ運ばれてきた。
「ここの中華そばはスープが熱々だから、やけどしないように気をつけてね。私的には、日本で一番熱々の店!」
「美沙希はラーメンが好きだねえ」
カズミはれんげでスープをすくって、ひと口飲んだ。
「あ、美味しい!」
「そうでしょう、そうでしょう! キリッと濃い醤油味で鰹節が香って、美味しいんだなぁ、これが!」
麺をすする。
「本当に美味しい! それに熱い!」
「スープに薄い油膜が張っていて、最後まで熱々なんだよ。麺はストレートの中太。もちもちしてるよねえ」
「うん、もちもちしてる」
「チャーシューも美味しいけど、もちもちの樹はメンマがすごいんだよ。穂先メンマって言って、太くて柔らかいんだよ!」
「ほんとだ! メンマ美味しい!」
「美味しい!」
「美味しい!」
純樹では「旨い!」を連発していたふたりだが、ここでは「美味しい!」を連発している。純樹はこってりと旨く、もちもちの樹は上品に美味しいのだ。
もちもちの樹の中華そば中を完食した美沙希とカズミは大満足していた。中盛りで他の多くのラーメン屋の大盛りを凌駕するボリュームがある。
950円。少し高いが、その価値はあるとカズミは思った。
黒い板塀で囲まれた和風の平屋。上品な建物で、割烹だと言われてもおかしくなく店構えだ。
「ラーメン屋さんっぽくないね」とカズミはつぶやいた。
「個性的だよね。美味しいラーメンがあるんだよ~」
人気店らしく、行列ができていた。
美沙希はいそいそと列に並んだ。
「あれ、琵琶と川村」
列の直前にいたのは、クラスメイトの佐藤拓海だった。
「ひっ」と叫んで、美沙希はカズミの陰に隠れた。
「こんにちは、佐藤くん」
「こんにちは、琵琶、それと川村。取って食いはしないから、そんなに怖がるなよ」
美沙希は無言だ。本気で怯えて、カズミの背中に隠れて縮こまっている。
「ふたりとも、また釣りしてたのか?」
「うん。佐藤くんも?」
「まぁね。ノーフィッシュだけどさ」
「こっちは釣ったよー。56センチ……」
「えっ? そんな大物?」
「のキャットフィッシュ!」
「ナマズか。あー、びっくりした」
「ブラックバスじゃないんだよねー。でも楽しかったよ」
カズミと佐藤の会話は弾んでいるが、美沙希はまったく参加しようとしない。
「一緒に食わないかと言いたいところだけど、無理そうだな」
「ごめんねー」
佐藤はひとりで店内に入り、続いて美沙希とカズミがテーブル席に案内された。
店内は薄暗かった。座敷席があり、テーブル席はゆったりと間隔を開けて置かれている。「恵比寿ビールあり〼」という看板や瓶のコカコーラが入った冷蔵庫があり、大正ロマン的な雰囲気があった。
美沙希は佐藤が離れた席に座っているのを確認して、ほっとしていた。
カズミはメニューを開いた。
中華そばとつけ麺しかない。
中華そば小140g、中280g、大420g。
つけ麺小200g、中400g、大800g。
「ここはねえ、節系醤油味のお店なんだよ。中華そばもつけ麺もどっちもおすすめ。うわー、迷うなぁ」
美沙希が元気を取り戻して、はしゃいだ声を上げた。
「うーん、今日は中華そば中にするよ!」
「あたしもそれで」
美沙希が店員を呼んで、注文した。
10分ほど待って、中華そばがふたつ運ばれてきた。
「ここの中華そばはスープが熱々だから、やけどしないように気をつけてね。私的には、日本で一番熱々の店!」
「美沙希はラーメンが好きだねえ」
カズミはれんげでスープをすくって、ひと口飲んだ。
「あ、美味しい!」
「そうでしょう、そうでしょう! キリッと濃い醤油味で鰹節が香って、美味しいんだなぁ、これが!」
麺をすする。
「本当に美味しい! それに熱い!」
「スープに薄い油膜が張っていて、最後まで熱々なんだよ。麺はストレートの中太。もちもちしてるよねえ」
「うん、もちもちしてる」
「チャーシューも美味しいけど、もちもちの樹はメンマがすごいんだよ。穂先メンマって言って、太くて柔らかいんだよ!」
「ほんとだ! メンマ美味しい!」
「美味しい!」
「美味しい!」
純樹では「旨い!」を連発していたふたりだが、ここでは「美味しい!」を連発している。純樹はこってりと旨く、もちもちの樹は上品に美味しいのだ。
もちもちの樹の中華そば中を完食した美沙希とカズミは大満足していた。中盛りで他の多くのラーメン屋の大盛りを凌駕するボリュームがある。
950円。少し高いが、その価値はあるとカズミは思った。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
アラフォーリサの冒険 バズったSNSで退職からリスタート
MisakiNonagase
恋愛
堅実な会社員として働いてきた39歳のリサ。まだまだ現役の母親と二人暮らしで高望みしなければ生活に困ることはなく、それなりに好きなことを楽しんでいた。
周りが結婚したり子育てに追われる様子に焦りがあった時期もあるなか、交際中の彼氏と結婚の話しに発展した際は「この先、母を一人にできない」と心の中引っ掛かり、踏み込めないことが続いてきた。
ある日、うっかりモザイクをかけ忘れインスタグラムに写真を上げたとき、男性から反応が増え、下心と思える内容にも不快はなく、むしろ承認欲求が勝り、気に入った男性とは会い、複数の男性と同時に付き合うことも増え、今を楽しむことにした。
その行動がやがて、ネット界隈で噂となり、会社の同僚達にも伝わり…
リサは退職後、塞ぎ込んでいたが、同じような悩みを抱えていたカナリア(仮名)と話すようになり立ち上がった。ハローワーク経由で職業訓練を受講したり、就活したり、その間知り合ったり仲間と励まし合ったり、生きる活力を取り戻していく…
そして新たな就業先で、メール室に従事する生涯枠採用の翔太という男性と知り合い、リサの人生は変わる…
全20話を予定してます
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる