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“オーシャン”はあたしの顔は好きだった。
お兄ちゃんにソックリだから。
でも、あたしは“女”だから・・・。
だからあたしには興味はなかった。



でも、お姉ちゃんがくれた真っ黒のドレスを着た時だけは、あたしは美しい“男”で“ゲイ”だった。



だから、あの黒いドレスの時だけは閉店後も残ってくれていた。
いつもよりも“男”で“ゲイ”で・・・そして、“オーシャン”が好きだった“木葉”と過ごしていると錯覚出来たのだと思った。



あたしは、顔だけではなくてお兄ちゃんと喋り方までよく似ていた。
“社長”と“取締役”は“アヤメ”のことを怖がらせないために、あたしの口調を真似していたから。
学校でも癖でその口調になってしまい、2人は“ゲイ”だと言って開き直っていたのも知っている。



“オーシャン”は、お兄ちゃんのことを“ゲイ”だと思っていたのかもしれない・・・。
でも、お兄ちゃんは女の子の彼女もいたし、男の子と付き合っている所をあたしは見たことがない。
お兄ちゃんは“ゲイ”どころか“両方”いけるどころか、“女の子”が好きだった。



でも、“オーシャン”はお兄ちゃんのことが好きだった。
それは“恋愛”として・・・。
この2人は本当に本当に仲が良かった。
“オーシャン”が愛して愛して仕方ない人は、あたしのお兄ちゃんだった・・・。



なのに高校を卒業してから連絡も取っていなかった。



“ゲイ”は同級生や“男友達”とは疎遠になる・・・。
“オーシャン”は、お兄ちゃんにフラれたのかもしれない・・・。



色々な表情になっている“オーシャン”を見上げながら、あたしは明るく楽しく笑った。
苦境の時だからこそ、そうした。



「あたしも木葉だからね~?
でも、あたしでごめんね!!」



「楽しかったよ、凄く。
凄い楽しかったし幸せだったよ。
最後にごめんね、間違えたよ。」



「人生で初めてのキスだったのに~!!」



「ごめんね・・・。」



“オーシャン”が泣きそうな顔をしているので大きな声で笑ってあげた。



「あたしも“ゲイ”だから、“ひろみ”と人生で初めてのキスが出来て嬉しかったからいいよ!!」



「ありがとう。」



“オーシャン”が嬉しそうな、でも悲しそうな顔で笑った後・・・すぐにまたいつものように優しい顔で穏やかな空気になった。



そして、あたしの背中に少しだけ手を添えた。
オーシャンの大きな大きな手、そこから感じる熱に少し悲しくなりながら・・・



オーシャンに促されるように、あたしは一歩店の外に出た。
そしたら・・・“アヤメ”が少し遠くの道に美しく立ってこっちを見ていた。



「もしかして、あの子が“アヤメ”ちゃん?」



「そうだよ~!!絶世の美女でしょ!?」



「そうだね、可愛いね。」



オーシャンがそう言ったけど・・・なんだか視線の空気を感じたのでオーシャンを見上げると、オーシャンはあたしを見下ろしている。



「凄い可愛いね。
女の子と付き合うことは出来ないんだけど、俺は可愛い女の子が好きだよ。」



オーシャンは、“可愛い女の子”が好きらしい。
付き合うことは出来ないらしいけど、“可愛い女の子”が好き・・・。



「じゃあ、あたしが可愛い女の子になれたらまたお店に来てもいい~?
イケメンを連れてなくても、店に来るだけでも!!!」



あたしが“女”になって、それも“可愛い女の子”になれるかなんて分からないし、それがいつになるのかも分からないけど・・・。



オーシャンは“ゲイ”だから、一生いくことが出来るから。
それにもしかしたら、“両方”いけるかもしれないから。



だから今度は・・・



いつか、“可愛い女の子”としてもいってみたかった。



何も返事をしないオーシャンに明るく楽しく笑った。



「“ひろみ”、今までありがとう!!
“オーシャン”、また会おうね!!!」



そう言って笑うと、明るく楽しい空気になった。
最後に見たゲイバーは、他の従業員も“ママ”もいなくなっていて・・・高級そうなスーツ姿のオーシャンだけが扉の所に立っていた。



いつもみたいに優しい顔で、穏やかな空気で・・・。



でも、ちゃんとそこに楽しくて明るい空気もあった・・・。
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