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綺麗にアイロンをかけられたハンカチで手を拭きながら、あたしのことを睨み付けてくる。
これは変に明るくする空気でもないので、空気を読んで普通に対応する。



「はい、人事部の新卒採用担当の木葉明です。」



「あなたね~・・・本当に、もう・・・。
一般企業の経験ないんだって?」



「ありません。」



「噂ではゲイバーで働いてたって聞いたけど、本当なの?」



「はい、ゲイバーで働いていました。
あたしは見た目が完全に“男”だったので、ゲイバーで。」



あたしが笑顔でそう答えると、50歳くらいの女の人は全く笑うことなくあたしを睨み付けた。



その顔には汗が浮かんでいる。
3月末、何も暑くないのに・・・。



「ゲイバーで働いていた人間が新卒採用なんて出来るわけがないでしょ!!!?
そもそもどうしてうちの会社に入社なんてしたのよ!!!?
採用されたとしても空気を読んで断ってよ・・・っ!!!」



空気を読むのが得意なあたしに、この女の人は汗を浮かべながら・・・しんどそうな空気を出して怒鳴り付ける。



「あたしが採用した新卒の子達、なんかしちゃってますか?」



「もう・・・してるどころじゃないわよ・・・!!
人の話は聞けない!!聞けないというより聞かない!!!何より空気を読めない!!!」



女の人が怒鳴りながら怒っている・・・。
その空気は怒っているだけではなくて、何かがいっぱいいっぱいになっている。



「そういう子を採用しました。
まだ高校生や短大の学生、その“学生ちゃん”達の中で、何かしらの強い意思を持って、その強い意思を伝えられる“学生”を採用しました。
うちの会社という大きな生き物は、あまりにもみんながみんな“同じように良い社員”だから。」



あたしに反論されると思わなかったのか、女の人は少し怯んだ。
あたしは空気を読めるし空気を作れる。
今はその空気を作る時・・・。
あたしが採用した新卒の子達のためにも、空気を作る。



「輸血された新鮮な血を、少しだけでも受け入れてくれませんか?
巡らせてみてください、ただ新鮮なだけではない本当に若くて新鮮な血なんです。」



「・・・勘弁してちょうだい。
前の部長がセクハラでいなくなって、それから女のあたしが部長に抜擢されて、数年かけてやっと部長がいた時と同じくらい持ち直してきたのよ・・・。」



「ブライダル会社の・・・企画部長さんでしたか。」



「そうよ・・・。
セクハラ問題が起きる前は本当に優秀な部長だったし、セクハラ問題はあったけど仕事だけはそれでも出来る人だった。
いなくなってからは業績が落ちすぎて大変で、やっと持ち直してきた時にあの新卒の子達・・・。」
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