【完】可愛くて美味しい真理姉

Bu-cha

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「分かった・・・また、ばったり会ったら・・・。
絶対に声掛けろよ・・・、絶対・・・。」



和君がそう言いながら、真剣な顔で・・・やっぱり揺れるような瞳で私を見詰めてきた。
そんな和君に笑顔で頷き、背中を向けた。



そして、歩きだした・・・。



歩きだした・・・。



夜だけど晴れやかな気持ちで、でも少しだけ寂しい気持ちで・・・。



でも・・・



「よかった・・・。」



可愛くなれて・・・。



詐欺のようなメイクだけど、可愛くなれて・・・。



そんな姿でまた少しだけ隣に並べた・・・。



中学時代も高校時代も、見掛けた和君の隣にはいつも可愛い女の子が並んでいた・・・。
同じ女の子が・・・。
凄く凄く可愛い女の子が・・・。



“彼女”だと聞いた・・・。
“彼女”だと聞こえてきた・・・。



私の中学でも和君は人気で・・・。
でも、いつも隣に並んでいるあの女の子が、和君の“彼女”だと聞こえてきた・・・。



勘違いだった・・・。



やっぱり勘違いだった・・・。



小学生の頃、私は特別なのかもと・・・



そう思ってしまっていたのは、やっぱり勘違いだった・・・。



コミュ障だから・・・。



私はそんな勘違いをするくらいコミュ障で・・・



卒業式の日に告白なんてことをしてしまったくらいに、コミュ障で・・・。



可愛くなりたかった・・・。
それで、そんな姿で和君と話してみたかった・・・。
“今度”はそんな姿で声を掛けようと、私は頑張ってきた・・・。



告白したいとか、付き合いたいとか、そんなことではなくて・・・。



そんなことではなくて・・・。



可愛い女の子として、和君に声を掛けて・・・



可愛い女の子として、和君と話して・・・



隣に並ぶ・・・。



それだけだった・・・。



それだけで満足だった・・・。



きっと、ちゃんと、それだけで満足だった・・・。



そう思いながらも・・・



苦しくて・・・



悲しくて・・・



悔しくて・・・



“岩渕さん”は泣いてしまいそうで・・・



必死に涙を我慢しながら歩いた・・・



歩いた・・・



歩いていた、



その時・・・














「待って・・・!!」





という声とともに、私の手首が大きな手に掴まれた・・・。
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