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翌日。



大学院に通う為に定時を早めて貰っている曜日、いつもよりも遅い時間に教室に入ると・・・



長峰が、いた。
それは当たり前で、同じ大学院に通っているから、それは当たり前で。



なのに、いつもと違うのは・・・



長峰の隣には俺ではなくて他の男がいた。



若くてモサッとした奴で、センスの悪いスーツを着たパッとしない男だった。
何故か、そんな男の隣に座っている。



しかも、めちゃくちゃ嬉しそうな顔で・・・



めちゃくちゃ楽しそうな顔で・・・。



そんな顔をしながら、その男と話していた。



その男も楽しそうに笑いながら長峰と話している。



その光景を見て、俺は初めて嫉妬をした。



長峰が他の男と並んで歩いていても嫉妬なんてしたことはないのに、初めて嫉妬をした。



無意識に胸の真ん中をおさえた。



この胸に長峰は持てなかった・・・。



だから俺の隣にいてくれないとダメだった・・・。



あの子は俺の宝剣だから・・・。



あの子がいないと俺は普通の男で・・・。



器用なだけの、普通の男で・・・。



あの子がいないと無敵になれない・・・。



「雪枝・・・。」



久しぶりに俺の宝剣の名前を呼んだ。



この胸に持てていないなら、俺の宝剣ではなくなってしまうかもしれない雪の枝を。



小さい声だったからか、長峰は振り返ってはくれなかった。



長峰の隣ではない席に座っても、長峰は俺の隣には来てくれなかった。



不思議そうな顔で1度見ただけで、それだけだった。



たった、それだけだった。



付き合う直前の犬猿の仲だと、それくらいだった。
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