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飯を食べたのかも風呂に入ったのかも寝ているのかもよく分からない。
ステンドグラスの世界の中にただずっといる。
朝も昼も夜も、ステンドグラスの世界の中に現れてくれる“あの頃“のカヤとずっといる。



ステンドグラスの世界がまた朝陽で輝き出した時・・・



「俺も欲しい。」



と、男の声が急に響いた。



それには驚き振り返ると、武田先生が・・・。
武田先生の父親である武田先生、俺が通う大学の先生である武田先生がリビングを見渡しながら俺のすぐ横に立っていた。



「ビビった~・・・。
どうやって入ったんっすか?」



「板東に鍵を借りてきた。
板東も社長になって忙しいみたいだからな、ついでにお前の様子を見てきて欲しいって頼まれたんだよ。
電話もメッセージも返事がないって心配してたぞ?
旦那の方が「男には色々あるから放っておけ」と言っていたみたいだがな。」



父さんと母さんが再婚をして挙げた結婚式、そこに武田先生も出席したくらいに母さんと今でも交流がある。



「この前うちの息子の家に行って、そこに飾られていたお前が描いた絵を見て俺も欲しくなった。」



そう言いながら壁に立て掛けていた1枚の絵を指差した。



「俺はあの絵が欲しい。
売ってくれるか?」



そこにも勿論カヤが描かれていた。
キャンバスの中でステンドグラスの世界を歩くカヤの姿が。
夏休みの高校の廊下、美術室にいる俺を迎えに来てくれていたカヤ。



俺のタイプど真ん中のカヤは、このキャンバスの中でもステンドグラスの色とりどりの光りで輝いている。



そのカヤを見ながら口を開く。



「いいっすよ、いつでも描けるので。」



このステンドグラスの世界の中ではカヤといつでも会えた。
それくらい深く深く俺の中に“あの頃”のカヤが刻み込まれているから。
だからこんなにもリアルにカヤの姿が現れてくれるのだと思う。



俺が答えると武田先生は床に置かれていた何かを手に取った。
見てみるとどこにでも売っているような手書きの領収書の束・・・。
金額が書かれた状態で控えが1枚はがされていて、その上にはお札が何枚も置かれている。



見に覚えのないそれに首を傾げていると・・・



「息子、これだけしか払わなかったのか。」



武田先生が呟き、手に持ったボールペンで領収書の束の1番上にサラサラと文字を書いていった。
そして領収書をはがし鞄から財布を取り出すと、そこから初めて見るくらいのお札の束を取り出してきた。



それを俺に渡してきて・・・



「俺は現金派だからこれくらいなら持ち歩いている。
これでいいか?」



そんなことを聞かれ俺が固まっていると、武田先生は小さく笑いながら最初に置かれていた場所に領収書の控えとお札の束を置いた。



「完成している他の絵も売る気はあるのか?」
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