【完】お兄ちゃんは私を甘く戴く

Bu-cha

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ボロボロになった“お母さんのノート”。
何も入ってくることはないけれど、それでも何度も何度も見下ろす。



鉛筆で書かれた平仮名だらけのノート・・・。



私の為に、お兄ちゃんが追いかけてくれた“お母さんのノート”・・・。



ピンク色の鮫である私を見付けてくれたお兄ちゃんが作ってくれた、私の“お母さんのノート”・・・。



「本当の“お兄ちゃん”になって貰いたかった・・・。」



“お兄ちゃん”が“お兄ちゃん”でないのなら、私とお兄ちゃんは何になるのだろう・・・。



「何て呼べばいいんだろう・・・。」



名前を呼べなかった・・・。



呼ぼうとしても、口から出てこなかった・・・。



なんでか分からないけど、口から出てこなかった・・・。



「1回くらい、戴いてくれればよかったのに・・・。」



“お兄ちゃん”が“お兄ちゃん”にならないとだと分かったあの日から、何度も出てくるその言葉を今日も呟く・・・。



泣きながら、呟く・・・。



この3週間で“お母さんのノート”の文字は沢山滲んでしまった。



私の涙で、滲んでしまった・・・。



よく読めなくなってしまった文字・・・。



よく見えなくなってしまった“お母さん”・・・。



このノートから、“お母さん”はよく出てこなくなってしまった・・・。



「お母さん・・・もう、泳げないかも・・・。」



ピンク色の鮫のまま、この世界を泳ぎ切れないかも・・・。



この世界は厳しいから・・・。



とても、厳しいから・・・。



“普通”になった方がきっと楽に泳げるから・・・。



“普通”になれるかは分からないけれど、きっと今よりは少しだけ楽に泳げるから・・・。



魚にはなれないとしても、“普通”の鮫にはなれるかもしれない・・・。



そんなことを泣きながら考えていると・・・



考えていると・・・



ノックが、聞こえた・・・。



小さな小さな、ノックの音が・・・



聞こえた・・・。
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