【完】麒麟の鳴き声

Bu-cha

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昭和の時代もそろそろ終わりを迎える頃、東京の街にある商店街には人だかりが出来ていた。
幼馴染み達も親の手伝いをし、商店街を盛り上げることに大きく貢献しているからだ。



商店街の幼馴染み達は“普通”の顔が多く、その中で親友のタカラは信じられないくらいの美男子だった。
どれ程の美男子かといったら、商店街や学校にまでスカウトが来るくらい。
更にはそのタカラを一目見ようと女の子達も多く集まってくる。



それを自慢することもなく、タカラは美男子の顔で“普通”に「俺はずっと商店街にいる」と言うような男だった。



そして、あと2人、“普通”の顔ではない女の子がいた。
そのうち1人はタカラの彼女。



もう1人は・・・



「絹枝だよ!今日も会いに来てくれてありがと~!!」



俺やタカラ、タカラの彼女と同じ年の絹枝。
タカラの彼女と絹枝は2人で商店街のアイドルとしてお客さんを呼び込んでいた。
可愛い系の顔をしたタカラの彼女とは対照的に、とびっきりに綺麗な顔をした絹枝。



そんな絹枝が人懐っこい笑顔を見せるので、そのギャップからか絹枝の人気は隣町どころかその隣、更にはその隣くらいにまで広がっていた。



人懐っこい笑顔をみんなに振り撒きながら、今日も商店街の中で歌ったり踊ったりしている。



歌もダンスも上手な絹枝が、そんなことをしている。



酒屋の一人息子として生まれた俺、長峰正仁(ただひと)22歳。
日本で1番の大学を卒業し、日本で1番と言っても良いくらいの会社の就職も決まった。



あとは何があればいいのだろう・・・。



あとは何があればあの子の前に立てるのだろう・・・。



他の幼馴染み達やファンの男達のように、あの子の前に立って愛の言葉を囁くことが許されるのだろう・・・。



これは、犬猿の仲と呼ばれる俺と絹枝が再会するまでの話。



犬でも猿でもなく、“商店街の麒麟”と呼ばれるようになった俺が、幼い頃から大好きだった絹枝と再会するまでの話。



とびっきりの美人である絹枝と、珍しいくらいの不細工な俺が、再会するまでの・・・



そんな、小さな小さな話・・・。
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