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ヨロヨロと歩く“桃子”の腕を右手で引きながら歩く。
店を出て、ひたすら歩く。
目の前の道にタクシーがまた通りすぎるのを眺め、それでもひたすら歩く。



駅の方でもなく、目的もなくひたすら歩く。



どこかに行きたかった。
このまま、俺はどこかに行きたかった。



“桃子”の腕を引いて、2人でどこかに行きたかった。



“桃子”と俺が親子だなんて誰も知らない所へ。
俺が“桃子”よりも8歳も年下だなんて誰も知らない所へ。



ベロンベロンに酔っ払った“桃子”と、このままどこかに行ってしまいたかった。



だって、離せない。



俺はこの手を、離せない。



離したくない・・・。



“桃子”を、離したくない・・・。



このまま歩いて・・・



2人で、ただひたすら歩いて・・・



ずっとずっと、歩いて・・・



そのまま、ヨボヨボのババアとヨボヨボのジジイになっていけばいいのに・・・。



伝えたいことがあるんだ・・・。



俺は、ちゃんと、伝えたいことがあるんだ・・・。



“黒住さん”ではなくて、“桃子”に・・・。



ちゃんと、ちゃんと、伝えたいことがあるんだ・・・。



そんなことを考え続けて・・・



考え続けて・・・



俺は、口を開いた・・・。



そしたら、俺よりも先に”桃子”が・・・



“桃子”が・・・



「帰りたくない・・・。」



そう、言った・・・。



そう言ってきた・・・。



驚きながら“桃子”を見下ろすと、“桃子”は号泣していて・・・。



涙も鼻水もグシャグシャになった顔で俺のことを見上げてきて・・・



「家に、帰りたくない・・・。」



そんなことを言ってきて・・・。



俺の身体も、心も、精神も、めちゃくちゃに騒ぎ出した。



俺も同じことを言おうとしていたから。



“桃子”と全く同じ言葉を言おうとしていた。



帰りたくなかった。
“母親”と“息子”になんて戻りたくなかった。



“桃子”は何でそう言ったのかまでは分からいけど、号泣した“桃子”の顔は可愛くて。
やっぱり、めちゃくちゃ可愛くて。



そんな可愛すぎる顔に流れている涙と鼻水を手の甲で拭っていく。



「汚いよ・・・。」



「汚くねーよ。
好きな女の涙と鼻水だからな、泣けるくらいに美味しいに決まってるだろ。」



会社で会う度に言うようなことを今日も言うと、“桃子”はトロンとした顔で笑った。
“桃子”の顔で、俺に笑い掛けた。



いつかのように手の甲に口を付けると、やっぱり泣きそうになるくらい美味しくて・・・。



凄く、美味しくて・・・。



本当に泣きそうになったので、俺は顔を上げた。
顔を上げた。



そしたら、見えた・・・。



そしたら、見えた・・・。



さっき見た画像・・・



そこに書いてあったホテル・・・



天野さんが予約をしたというホテル・・・。



そのホテルが、すぐそこにあった・・・。



それに小さく笑いながら、俺は“桃子”のことを見詰めた。



そして、また口を開いた。



「じゃあ、誰もいない所に行ってもいい?
俺と“桃子”が2人きりになれる所に、行ってもいい?」



そう言った俺に、“桃子”の瞳は揺れた。



ユラユラと揺れ・・・



それから・・・



それから・・・



頷いた・・・。



小さくだけど、頷いた・・・。
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