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相川からの言葉に少し驚く。
でも、少しだけ。



「天野さん、そっちに報告書出してるのか。」



「まあな・・・そしたら、途中からはそんな報告ばっかりでビビッったけどな!!」



相川が大笑いまでしだして、優しい顔で俺を見てきた。



「待ってるからな、お前が戻ってくるのを。
使い物になって、戻ってくるのを。」



「・・・今月から母ちゃんを人事部に異動させてくれたからな、天野さん。
忙しすぎて会社でも家でも接触が出来なさすぎて。」



「黒住さんが企画部を抜けてから更に大変らしいけどな。」



「自業自得だろ、母ちゃんに色々言って忙しくさせやがって。
須崎派のジジイとババアども。」



あんなにガリガリになるまで働かせやがって・・・。
一生恨んでやる・・・。



心の中で悪態をついていると、相川が口を開いた。



「うちの会社の頭脳になる男には聞いたのか?
女の口説き方。」



そう言われ、俺は笑う。



「それはねーな。
あいつは女の口説き方とかそういうのは出来ねーよ。」



「他の女が相手ならそうかもしれないけどな。
でも、うちの会社の頭脳となれる男だぞ、あいつ。」



相川がそう言ってくれる。
どこにも新卒で就職が出来なかった豊のことを。
俺の“男友達”のことを・・・。



そして・・・



そして・・・



「お前の“かぞく”だろ、岩渕は。
ずっと一緒に暮らしてきた“かぞく”なんだろ。
1番近くでお前と“お母さん”を見てきた、“かぞく”なんだろ。」



相川の言葉には素直に頷いた。



「俺の“兄貴”だよ。
義理なんてつけるかよ、あいつは俺の“兄貴”。」



母ちゃんと渡が結婚しなくても、俺にとってはあいつは“兄貴”だった。



尊敬出来る、“兄貴”だった。
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