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「良い男に育てましたね、桃子さん。」



そう思っていつも以上に呑んでいたことを思い出していると、紅葉さんからそう言われた。



「光一は昔から、良い男で・・・。
私がこんなことを言うのもアレですけど・・・。」



「“鮫島光”と“松居理菜”の血、ですかね。」



紅葉さんがそう言って・・・私は微笑みながら頷いた。



「きっと、そうだと思います。
とても素敵な人達でした。」



会ったことはない光一と理子のお父さん。
でも、私は2人のお父さんが素敵な人だと知っている。



そう思っていると、紅葉さんが優しい笑顔で笑い掛けてきて・・・



「今日は、このプロジェクトがそろそろ終わるのでそのご挨拶に伺いました。
予定よりも時間が掛かってしまったので、会長さんに社長の私からお話をしに。」



「・・・プロジェクト、終わるんですか?
私、その・・・光一との結婚はまだ悩んでいて・・・。」



私と光一が結婚することも成功させる為に必要だと光一から聞いていた。
なので紅葉さんに素直にそう言うと、紅葉さんは美しく笑った。



「愛してる男を、幸せにしてあげて?
あなたと一緒になることがその男の1番の幸せなら、その男を幸せに出来るのはあなたしか存在しないでしょ?」



そう言った紅葉さんは、美しかった・・・。



その言葉を受け入れるのにはまだ心の準備が出来ないけれど・・・



“紅葉はこんなに綺麗なんだ・・・。”



それだけは、分かった・・・。



よく、分かった・・・。



“お父さん、東京の紅葉も美しいよ・・・。
都会に佇む、オフィスビルに現れた真っ赤な紅葉・・・。”



心の中で、お父さんに教えてあげた・・・。
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