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「綺麗な桃が咲いたな、桃。」



おじいちゃんと腕を組んだら、おじいちゃんが嬉しそうな顔をして私にそう言った。
胸の辺りを見ながら、嬉しそうに笑って・・・。



「3月3日生まれだから、桃子っていう名前なの。
お父さんとお母さんが、ちゃんと事前に話し合ってくれてたの。
だから、この名前はお母さんもつけてくれた名前。」



「そうか・・・俺も桃子って呼ばないとな。」



「おじいちゃんは“桃”でいい。
桃の木が見えてたの?」



「俺はそんなに花に詳しくないから・・・。
でも、名前的にそうなんだろうなと予想はしてた。
綺麗な桃の花が咲いたよ、これなら俺でも分かる。」



おじいちゃんが優しく笑った後、2人でゆっくりとバージンロードを歩き始める。



ゆっくり、ゆっくりと・・・。



ここでは杖を持たないおじいちゃんを、私が支えながら歩く・・・。



こんなに小さく、こんなにおじいちゃんになってしまったおじいちゃんに、泣きそうになりながら・・・。



でも、こんなにおじいちゃんになっても、おじいちゃんはちゃんと生きている・・・。
私の大切な人の1人なのに、ちゃんと生きている・・・。
私は、死神ではなかった・・・。



これまでの人生のことを思い返しながら、私はゆっくり歩く・・・。



大好きな人が、愛している人が待つ所へ・・・。



そして、この現実世界で私のことを1番大好きで、1番愛してくれている人の所へ・・・。



おじいちゃんの手から、光一の元へと・・・私が行く・・・。



「桃は、最初から光一の元にいたけどな。
俺は代理だよ、良樹の。
そのつもりで歩いてきた。」



「当たり前だろ、良樹はガリガリだったけど髪の毛あっただろ。」



そんな突っ込みは笑ってしまうから止めて欲しい・・・。
必死に笑いを堪えていると、おじいちゃんが口を開いた。



「光一・・・お前、それ凄いよな。
金色どころか雷みたいに光ってる鮫になったぞ?」



「・・・マジか。
それなら結婚生活は破壊しないな、天野さんの所すっっっげーラブラブだし。」



光一が嬉しそうに笑いながら胸をおさえた。



「生きてて、よかった。」



そう呟いた光一とともに、バージンロードを歩く。
これから先の人生、未来のことを想像しながら。
幸せな未来を、想像しながら。
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