環境委員会の特異なコト

華神創太

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第一章 始まりはいつだって突然なコト

第2回活動 友人

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 時は30分前に遡る――。
 

 4限目が早めに終わり、代表挨拶で注目を浴びた七瀬有紗ななせありさは同級生から昼食を一緒に食べようと誘われていた。

「ねぇねぇ、七瀬さんってどこ住み?」
「主席って凄いよね! 勉強好きなの?」
「ご飯食べながら話そうよー、お弁当持ってきてる?」

 衆人環視の中で七瀬に飛び交う質問の嵐。
 それを真っ正面から愛想笑いで受け流す七瀬。
 クラスメイトにはそれを悟られないよう、才色兼備の七瀬有紗で対応をしている。しかし質問攻めというのは、いささか精神にくるものだった。

(えーと、これどうしよう。気持ちは嬉しいけど、私にはやることが、)
 

「み、みんな実はね――」

 申し訳なさを感じつつも、意を決して七瀬は口を開く。
 しかしその時、彼らの背後で動く白い影に気づいた。
 七瀬に夢中の生徒達は気づいていないが、ちょこちょこと歩き飛び回るその姿は、まるで。
(うさぎ・・・・・・いや猫? 犬、ハムスター・・・・・・)
 
「・・・・・・んっ・・・・・・んっ」
「――――ぷっ、あはははは!」

 目の前に立ちはだかる大きな壁を必死に越えようとするその様子に、思わず吹きだす七瀬。
 私のことを呼べば良いのに――そう思った七瀬だが、彼女――天ノ川望愛あまのがわのあは人見知りで不器用な女の子であると知っていた。知らない同級生1人はおろか、集団に向かって話しかけるのは難しかったのだろう。だから彼女なりに気づいてもらおうと飛び跳ねていた。
 そう思うと、天ノ川の姿が実に愛らしく不器用に見えて、七瀬は思わず繕いではない本心からの笑みを溢していた。
 そんな彼女の姿を見ていささか困惑する周囲の生徒達。

「あ、あの七瀬さん?」
「いきなり笑い出してどうしたのー?」
「七瀬さんて面白いん――ってうわぁっ!」

 すると1人の女子生徒が天ノ川に気づく。
 集団の中にいると一際目立つ白い髪。
 そして髪に似合わず真っ赤な頬。
 どのくらい動いていたのか制服は少し着崩れており、僅かに息は早く、そして第一声は、

「あ――ありしゃ!」

 思いっきり噛んでしまった。
 皆の視線はその声の主へ向けられ、つい先程まで騒がしかった教室は静寂へと変わり、空気は一瞬にして固まった。
 ――それも束の間。
 氷漬けのような空気は一斉に笑いの熱で溶かされた。
 瞬く間に、のぼせたように真っ赤になる天ノ川の顔。
 余程恥ずかしかったのか、その場にしゃがみ込み顔を両手で隠す。

「うぅ、失敗です」
「もう、望愛ったら。何やっているのよ」

 七瀬は席を立ち上がり、天ノ川のもとへ近寄る。
 優しく頭を撫で、彼女の零す涙を「全くもうっ」と穏やかな声で話す。その姿はまるで――母と子、姉と妹のよう。
 他の生徒達に入る余地はなかった。
 程なくして天ノ川が落ち着き始めると、七瀬が皆を見る。

「みんなご飯のお誘いありがとう、嬉しかった。けれどごめんなさい。今からこの子と――望愛と用事があるの」

 申し訳なさそうに頭を下げる七瀬。
 もうこの状況で誰が「それでもご飯食べよう!」と誘えるだろうか。

「全然大丈夫だよー! ウチらもいきなり誘ってごめんね!」
「また一緒に食べようよ~天ノ川さんも!」
「うんうん! ていうか天ノ川さん本当に気配なかったよね! ビックリした!」
「はははっ確かにっ! あのさ本当は天ノ川さんも誘おうと思ってたけど、なんか、ねぇ」
「そーそー、天ノ川ちゃん神々しいというか、話しかけちゃいけないオーラあって、天使? みたいな!」
「分かる~! 髪綺麗で、肌なんてマシュマロみたいだし!」

 次々と天ノ川に対して感情を出す生徒達。慣れていないのか天ノ川の小柄な身体はさらに縮こまる。
 そんな彼女を見越してか、はたまた今度は彼女のトークで長くなってしまうだろうと感じたのか、七瀬は「それじゃあ!」と天ノ川の手を握り教室を後にする。
 ただ親友が好意的に思われているのは嬉しく、実際七瀬も話に加わりたいと思っていた。だが、




「・・・・・・望愛、大丈夫?」
「ん、大丈夫。だけど、」
「だけど?」

 天ノ川の握る手が僅かに強くなる。それに気づいた七瀬は立ち止まり後ろを振り返る。すると天ノ川は真剣な瞳で七瀬を見つめていた。
 




 ――途端、2人はひどい揺れに襲われる。
 すぐさま体制を整えるように廊下に手をつく2人だが、辺りを確認して疑問が浮かぶ。
(・・・・・・おかしい、何かおかしい)

「仕方ないわ!!」
 
 七瀬は制限していた身体に秘められた力――魔力を全開放する。刹那、彼女の髪は脳天から毛先にかけて金色に染まる。
 程なくして落ち着いた2人はゆっくりと立ち上がった。
 
「とりあえず周辺は私が掌握したけど、これは早く駆除しないとまずいわね。先輩達は大丈夫かしら」
「ん。多分大丈夫。それより他の生徒は気づいてない」
「いや、コレは気づいていないというより・・・・・・」

 七瀬は口を覆うように手を当てる。
 そう気づかない筈がない。およそ震度6強の地震。立つことはおろか、下手すればこの校舎も崩れてしまうだろう。
 しかし実際、誰1人として生徒は気づいておらず、校舎も無事であった。つまり――、

「私たちが揺れていたのよ」
「えっ? それって」
「うん。アイツを認識している私達だからこそ、この振動する攻撃に干渉してしまった」
「なる。だけど面倒」
「そうね、だけど好都合よ。お陰で場所が特定できた」
「りょ。なら早く行こう」
「えぇ! グラウンドまで急ぎましょう‼︎」



 そうして2人の少女は3階の窓から飛び降りたのだった――。
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