王家の秘宝が安置されている宝物庫の扉が、私の家のキッチンにあります。

水鳴諒

文字の大きさ
7 / 16

【007】二人の旅路

しおりを挟む

「――ル。メリル」

 揺り起こされたメリルは、片方の瞼を閉じて、目で擦ろうとした。

「赤くなる。やめた方が良い」

 すると優しく手首を掴まれた。その温度もまた優しい。

「私、寝ちゃった」
「疲れていたんだろう――……日中は大変だったからな」

 微苦笑したギルベルトを見ると、キュンとメリルの胸が高鳴った。

「ううん。ギルベルトが助けてくれたから平気」

 笑顔でメリルが言うと、同じように笑顔になったギルベルトが、たき火の方を見た。

「シチューを作ったんだ。口に合うかは分からないが」
「凄くお腹減ってるの!」

 嬉しくなってメリルは、満面の笑みを浮かべた。
 それから場所を移動して、器にギルベルトが取り分けてくれたシチューを食す。
 二人で食べるシチューは、心が安まる味だった。

 何気なくメリルは天を仰ぐ。そこには、満天の星空が広がっている。ずっと夜は家に居たから、初めて見る風景だ。それを、ギルベルトと共有出来るのが、なによりも嬉しい。

「ねぇ、ギルベルト。星がとっても綺麗だよ」
「ああ、そうだな。星の川のように散らばっているな」
「お月様も綺麗!」
「うん。月には兎が住んでいると言うな。古い伝承で」
「え、そうなの?」
「模様が兎に見えるそうだ」

 ギルベルトは博識だなと思いながら、メリルは会話を楽しんだ。

 シチューを食べ終えた後は、二人で洞窟に入った。
 それぞれ毛布にくるまる。

 さきほどまであんなに寝入ってしまったから、眠れないかと思ったが、メリルはすぐに睡魔に飲まれた。


 翌日は街道に出た。
 その道を進むと、次第に坂道となり、山を登ることとなった。
 次第に寒くなっていき、頂上に着く頃には、毛布を外套代わりにしていた。
 そして頂上の小屋で一泊してから、今度は下る。

 登る時も、下る時も、何度か野宿をした。その度に、ギルベルトが料理を作ってくれた。それらは、いつも本当に優しい味だった。きっと、ギルベルトが優しいからだろう。

 そうして山を下りきろうとした時だった。

 不意に周囲に、金色の鱗粉が舞い始めた。

「っ?」

 メリルが困惑した時、ギルベルトがメリルの体を抱き寄せた。
 ハッとして、メリルはギルベルトを見る。ギルベルトは険しい眼差しで、正面に居る巨大な金色の蝶を見ていた。少し透けているその蝶は、羽をゆらす度に鱗粉を放っている。

「メリル、この鱗粉は毒の粉だから、なるべく吸わないように」

 そう述べると、ギルベルトは片マントの中にメリルを入れた。
 ――そんな場合で無いのは分かっているのだが、メリルはあまりにもの距離の近さに、どんどん顔が熱くなっていくのを感じた。ギルベルトの厚い胸板の感触に、ドキドキしてしまう。

 その時、ギルベルトが、メリルを抱き寄せている腕とは逆の手で、剣帯のポケットから小瓶を取りだした。そして片手で器用に蓋を開けると、中に入っていた液体を、蝶に向かっていささか乱暴にかける。すると、妖精が地に落ち、黒い靄となって消え去った。

「ギルベルト、それは?」
「これは、星屑水と呼ばれる創造神の力が宿る特別な水なんだ。万が一を考えて、で精霊対策のために持参していたんだ。役に立ってよかった」

 ギルベルトはそう述べると、腕からメリルを解放し、続く道を見る。

「また襲ってくるかもしれない。見通しがいい街道に出てしまおう。それとメリル」
「なに?」
「鱗粉を吸い込んだ可能性があるから、念のため解毒作用のある薬を飲んで欲しい」

 そう言うとギルベルトが別の小瓶を二つ取り出した。一つをメリルに渡し、もう一つは自分で飲み干す。それを見て、メリルもまた一気に飲んだ。

 こうして二人は、街道に出てその道を進み、次の街――星都ヒンメルに到着した。

 星都ヒンメルにて、二人はまず、宿を取った。
 梟の瞳の見方を覚えていたメリルが、率先して見つけ、誇らしげに笑う。

「どう? 私も少しは、旅に慣れてきたでしょう?」
「ああ、そうだな。心強い」

 温かい表情を向けたギルベルトに、満足してメリルは大きく頷いた。
 まだ昼過ぎだが、二人はその足で宿へと向かう。

 空き部屋は一つきりとの事で、正直メリルはふかふかのベッドで眠れるならなんでもいいと考えていた。しかしギルベルトが一瞬戸惑った顔をした。

「どうしたの?」
「寝台が一つしか無いらしい。二人用だから大きいそうだが」
「……いいんじゃない? 眠い。なんでもいいよ」
「そ、そうか。メリルが気にしないのなら、僕も構わない」

 こうして二人は部屋に入った。
 もう長いこと、きちんと寝ていなかったから、メリルはベッドに飛び込んだ。

「夕食まで寝るね」
「僕も休ませてもらう」

 常に余裕があるように見えるギルベルトであっても、旅はやはり疲れるのだろうと思いながら、メリルは意識を手放すように寝入った。

 ――次にメリルが目を開けた時、何か温かい感覚があった。
 なんだろうか、この心地よさは、と、横を向いて、メリルは目を見開いた。
 ギルベルトに腕枕されていると気がついたからだ。しかも抱きしめるようにされている。瞬時にメリルは真っ赤になった。沸騰したように頬が熱い。

 だが深い眠りについている様子のギルベルトを起こすのは忍びないし、多分抱き枕と間違えているのだろうと悟り、起こさないようにと、メリルはそのまま動かないでいた。

 時が長く感じる。
 三十分ほどだろうか、時が経過し、時計が夕食の時刻を告げた。

「んっ」

 するとその音で、ギルベルトが薄らと目を開けた。そしてチラリとメリルを見て股瞼を閉じた後、勢いよく再度開いて、呆然とした顔をした。

「わ、わるい」
「い、いいの」
「その……いや、な……なんでもない」

 ギルベルトはそう言って手を離し、距離を取る。
 その顔は、非常にばつが悪そうな顔だった。

 それから二人は着替え、夕食が提供される三階の食堂へと向かった。
 窓から夜景が見える。
 ちらりとそちらを見ていると、本日もギルベルトが『適当』に頼んだという料理が運ばれてきた。

「わぁ……すごい! 色々ある!」

 届いたのはプレートだった。

「この場所は様々な都市などの食材が集まるから、色々な料理が食べられるんだ。このプレートには、五つの都市の名物料理がのっている」
「そうなのね、すごい!」

 こうして二人は食べ始めた。
 中でも葉喰牛のハンバーグが、メリルはお気に入りになった。こんなに美味な食べ物を、人生で食べた記憶が無い。頬張っていると、くすりとギルベルトが笑った。

「メリルは本当に美味しそうに食べるな」
「っく」

 なんとなく気恥ずかしくなりながら、咀嚼しメリルは飲み込んだ。

「この星都は、錬金術が盛んな都で、星屑水なども生産されているんだ。同時に、様々な都市への中継地点でもある。だから食材も集まる」

 ギルベルトはそう述べると、上品に料理を食べた。それを見ながら、メリルは残っている料理を平らげた。


 ――部屋に戻り、メリルは入浴した。そして戻ると、ギルベルトは何やら手紙を書いていた。チラリとメリルが宛名を見ると、キースと書いてある。

「僕も入ってくる」

 ギルベルトは手紙を鞄にしまうと、浴室へと消えた。

 なおその後の就寝時、今度はメリルは壁の方を向き、ギルベルトは逆側を向いて眠った。だが翌朝も、ギルベルトに抱きしめるように腕枕されており、メリルはドキドキしてしまったのだったりする。ギルベルトは、やはり決まりが悪そうな表情をしていた。

 その後、ギルベルトは宿の受付で、手紙を出して欲しいと告げていた。
 宿屋の受付は、大体手紙を出してくれる。

 こうして、一泊だけではあったが、滞在し、二人はこの都市を旅立った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉

狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。 「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。 フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。 対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。 「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」 聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。 「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」 そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。 イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。 ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼ そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ! イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。 しかし……。 「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」 そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

処理中です...