僕の世界

英(ハナブサ)

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第1話

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ゆう、お前はもう佐伯にはいらない。おまえの母親の家の安藤家に話はつけてきたから安藤を名乗れ。おまえを男のままにする必要もなくなったから女としてな。高校は俺が用意しよう。なに、学費くらい安藤なら払えるだろ、学校を用意しておいただけでも感謝しろ。」


[佐伯の落ちこぼれ]

僕は生まれてから15年間ずっと言われ続け、その人生は一言で言うと最悪だった。
一つ、僕が男でなく女として佐伯の長女として生まれたこと。
二つ、僕に兄弟がいない。つまり一人っ子であること。
三つ、佐伯家は古い家で昔からそれなりの地位にあったらしい。そして家訓が最悪だった。今どき、男は家庭の為に働き、女は家庭を守る為に家に居るというもので特に佐伯の現当主の父、僕の祖父が特にその考えを大事にしていた。
四つ、2年前に僕の実の母が他界した。死因は窒息死。つまり自殺だ。僕が学校から帰ると家にいた使用人達が慌ただしく動いていた。そして、僕が部屋に入ろうとすると全力で止めてくる。使用人達の言葉を無視して自分の部屋に入ると、「ゆう、あなたが男なら」という遺書付きで亡くなっていた。天井から降ろされた母は苦しんだ顔ではなくて苦しみから解放されたかのような、昔一度だけ見た笑顔の顔のようだった。母は佐伯家によって病死とされ、世間に自殺であると公表されなかった。
五つ、実の母が他界してから半年が過ぎた時、父は新しい母を迎えた。佐伯と関係を結びたいと考えているという噂があった五十嵐財閥の令嬢だった。父も母も僕のことをいないものとして扱っていた。そしてすぐに二人に待望の男が生まれた。しかも双子だと言う。僕の存在はますますないものとして扱われ、僕は佐伯から出た後のことを考え始めた。


「わかりました。今まで支援して頂きありがとうございました。さようなら。」

安藤家では僕は微妙な扱いだった。顔立ちは父そっくりなのに声や雰囲気が母親似らしい。僕の声を聞くたび、僕の姿を見るたび祖父母はとても厳しい顔をしたり悲しい顔をしたりするのだ。居づらくて堪らない。

愛さえあれば血の繋がりは関係ない
など誰が言ったのだろう。

血が繋がっている父でさえ、僕の存在を無いものとする。

ほんと つまらないな


どうせ自分の居場所なんてないのだ。

僕は呆れた笑いを堪え、使用人達に見送られながら東京の一等地にあるこのバカでかい豪邸を見上げ、ここを出た。これからの人生に一つでも幸運があることを願い、そして誰かが僕を見つけてくれるかという期待と不安を抱えながら。
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