婚約破棄された家出令嬢の私、大好きな人に弟子入り! 溺愛は全然必要ありません!

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3話 婚約破棄

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「恐れながら申し上げます。グング伯爵令息がいらしておりますが、いかがされますか?」
「約束もなしに?」

 私と婚約した伯爵家の長男でここ一年お茶をする程度の仲だった。一度だって約束を取り付けないで来たことはない。公爵家であるフィーラ家の方が明らかに格が上だから、そうした礼儀はきちんとしていたはずなのに、今日に限って約束をしないで来た。嫌な予感がする。

「帰らせなさい。後日対応する」
「しかし、その、無理に入ってきてまして」
「はあ?」

 なんて礼儀知らず。
 すると「フィーラ公爵閣下!」とノックもせずに入ってきた。これはさすがの父もいい顔はしない。

「失礼いたします。緊急重要なお話で伺いました!」
「……帰りたまえ。我々は少々難しい話をしている」
「エーヴァ嬢のことでしょう? 存じておりますとも!」

 妙に自信たっぷりに言う。帰れと言われて帰らないって逆にすごいわ。貴族裁判開いたら負けるわよ。

「エーヴァ嬢との婚姻について私も申し出がございます!」
「……はあ。なんだ? 一応聞いておこう」

 御父様は優しい。婚姻がちらついているからもあるだろうけど、他の貴族であれば捕らえて牢へ放り込むのが筋だろう。
 いい気になった婚約者であるヒャールタ・グングは私を指さし、大声で叫んだ。

「エーヴァ嬢との婚姻を破棄いたします!」

 予想していた。シャーリー様ほどでないにしろ、私も失職しているのだから不祥事の一人だと見られる。両親が怒っていたのと同じ理由でこの婚約者も私と縁を切ろうという魂胆なのだろう。

「悪の根源と共にしていたことに加え、不祥事で失脚、そして長女!」
「長女?」

 まさかこいつ、新聞のデマを鵜吞みにしてるんじゃないでしょうね?

「稀代の悪女エネフィ公爵令嬢が長女だった故に、今や長女は最たる災いです! グング伯爵家としても呪いを帯びた災いを伴う長女とは婚姻いたしかねます!」

 鵜呑みにしていた。
 こいつ、前々から教養がないと思っていたけど本当に救いのない馬鹿ね。

「そして! 現王子の婚約者ルーラ嬢は次女であり聖女と言われています! つまり私が婚姻すべきは妹のシャーラ嬢と考えており、改めてシャーラ嬢に婚姻の申し出をさせていただきます!」

 ここまでくると引くわね。
 元婚約者はフィーラ公爵家の名は欲しいわけだ。けど、私と婚姻を進めるのは世間体を見て心象が悪い。なら、今巷で推されている次女と婚姻を結べばいいというとこだろう。

「……グング伯爵令息の希望は分かった。少し時間をくれ」
「ええ! 後程伯爵家から書状をお送りしましょう!」

 高笑いしながら去っていった。
 両親も元婚約者のせいで疲れている。まあ無理もないわね。

「お父様、お母様。私、あの方と婚姻は嫌です」

 シャーラが即断ってきた。さすが私の妹。良い判断だわ。

「……そうね。礼儀に事欠いてこれでは破棄こそしてもシャーラの婚約者にとは言えないわ」
「まったく……」
「では御父様、御母様。私は自室に戻ります」
「まて、まだ話が」
「謹慎なのでしょう? 公爵家から名を削除されるなら侍女を通してご連絡ください」
「エーヴァ!」

 うるさい両親を無視して自室へ向かう。もうあれもこれも色々ありすぎて疲れた。
 少し休みたい。
 自室に戻ったらソファにどっかり座ってしまった。少しぐらい行儀が悪いのは許してほしい。

「エーヴァお嬢様、お茶はいかがされますか?」
「そうね……一杯お願いできる?」
「かしこまりました」

 侍女のイングリッドに頼んでお茶を飲む。私付きで長い間世話を焼いてくれている年の近い侍女だ。

「はあ……」
「お疲れでしょう」

 昨日から色々ありすぎましたから、とすぐにお茶が出てくる。仕事が早いわね。

「ありがとう。そうね、ちょっときついかしら」

 下がっていいと伝えて自室で一人になる。
 デスクの棚から取り出し手に取った物の美しさに癒されながら息をゆっくり吐いた。

「……だいぶ失ったわね」

 シャーリー様、仕事、婚約者、そしてここに公爵家の身分も加わりそうだ。

「アリスが好きな道に進んだらと言っていたけど、それもありかもしれないわね」

 失うものは何もない。
 なら、ずっと続けてて諦められなかったことをやってみようか。

「……」

 掌の中で銀細工が揺れる。
 十五年前に買ったこの銀細工は国で保護されている貴重な職人の手によって作られた伝統工芸品だ。
 極細の銀糸でった繊細な作品。この銀細工と出会ってから、ずっと見様見真似で作り続けている。
 この銀細工があったから今まで頑張れてこれたし、銀細工作りは私の唯一の趣味だ。家に材料である銀糸から作れるよう道具まで揃えたぐらいで、それで一度両親とは言い争いになった。

「私にはもうこれぐらいしかないわね」

 これを買ったのは私がまだ五歳の時だった。
 政務についたのは十年後の十五歳、初めて自分で得た俸給で銀糸を買ったのが始まり。そこから五年間ずっと作り続けている。
 銀糸を作るために特殊な道具の輸出入を扱う人物を探し出したのは職権乱用だったかもしれないけど、流通面で新しい選択が生まれたのはよかった。
 どんなに忙しくても銀細工を作る時間をとって毎日作り続けている。

「もっと作りたい」

 できればこの作品の作り手の元で正規の作り方を知りたい。
 シャーリー様の無事も確認できた。この家にいても公爵家の名誉を傷つけたという理由で、いずれ名を消され出ていかなければならないだろう。
 仕事で忙しいこともない。何かあればアリスから手紙が届く。

「……行こう」

 決めた。
 私は公爵家を出て、銀細工師を目指す。
 まずは弟子入りして技術を磨くことからだ。
 そのために銀細工師筆頭、私が最初に出会った銀細工を作った方の元へ行こう。

「バーツ・フレンダ・ティルボーロン様の元へ!」
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