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12話 銀細工もバーツ様も好き!
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「ティルボーロン様、お待たせしました」
「いいえ。ではこちらへ」
案内されたのは銀細工を作るために用意された部屋だった。設備が整いすぎている。いいえ、たぶんこれが銀細工師として普通なのだわ。
「南の大陸を経由して山脈より東の国から銀と漆を、銀糸を作るための紙は自国内のものを使っています」
「さすがドゥエツ王国……銀細工専用に紙を作られていますね」
「見ただけ分かりますか」
「はい! ソッケ王国とは全然違います」
とにかく薄い。つまり、より細い銀糸が作れる。あの細やかで精密な細工はティルボーロン様の技術があってこそだけど、素材もそれなりでないと仕上がらない。細かいものを作るなら相応の細い糸が必要だ。それを用意できる環境を持つなんて、さすが銀細工師筆頭。
「ソッケ王国はあまりいい紙を売ってないので羨ましいです」
ソッケは素材が極端に手に入らなかった。素材を融通してくれる商人に辿り着くのですら政務に従事してないと知り得なかったし、その商人も頻繁にはソッケに来ないから最終的には自分で銀糸をどうにかするしかなかった。
「そうですか……少ししたら銀糸作りもしようかと思ってますが、エーヴァ嬢は既に銀糸作りを経験されているんですね?」
「はいっ! 銀糸が手に入らない時は作ってました」
「……すごいですね。自力で糸から作るのは職人の中でもあまりいないんですよ」
「お褒めいただき嬉しいです! 師匠程ではありませんが糸作りも頑張ります!」
「師匠……」
その呼び方ですが、とティルボーロン様は遠慮がちに提案された。
「師匠は遠慮したいのですが……」
「ではティルボーロン様でよろしいですか?」
「あー……いや、バーツでいいです」
「バーツ様?」
「様も特にいりませんが……様つけられたりされるのあまり好きじゃないんで……敬語も特段いりませんし」
どうやら自分がそこに気を遣うのが辛いから相手にも求めない姿勢らしい。素晴らしい方ね。身分に貴賤なしということだ。
「ではバーツ様と。慣れるまでは口調についてはどうかご容赦を」
「分かった。僕は敬語もやめるから」
「はい」
今日は実際バーツ様が銀細工を縒ってくれるという。最初から嬉しい。生であの美しい作品が出来上がるのを見られるわけだ。最高すぎ。
「ソッケ王国で新しい銀が見つかったと聞いてて」
「新しい銀?」
「詳しくは調査中。その銀で作ってみたいなと」
「素敵です!」
夢が広がる。
「ただ災害発生場所で、こちらに送ってもらうのは難しいから直接取りに行こうと思う」
南の大陸各国に加え、北の三国からの輸出入の中継地点でもある諸島リッケリなら大概の物は手に入る。送るのが難しいと言うことは、新しい銀はそれだけ特殊のものなのだろう。
加えて最近はバーツ様自国のドゥエツから荷物が多く届くらしい。
特に三国で流行り始めたお茶の香料はかなりの量が入ってきている。そういえばソッケもかなりの数の香料の輸入がみられた。シャーリー様の義妹が貴族の取り巻きを使い流行らせていたけど、私は香りが苦手で飲んでいない。シャーリー様もアリスも同様だった。
「じゃあ作ろうか」
今日はあらかじめ用意された銀糸で作る。
銀細工ができる様子を近くでずっと見られる幸せあると思う?
「……」
「……」
簡単な模様を一つだけ。
なのに非常に細かく丁寧で私の作る工程が遊びのようだった。
私の方が当然小さく細い指を持っている。だから少しは上手に作れていると思っていた。騎士程ではないけど、きちんと男性の武骨な手をしているのに生み出されるものは可憐で清廉だ。
「……うん。基本の模様はこんな感じかな……って近っ」
「すっばらしい!!」
「み、見る?」
「はいっ!」
作りたての銀細工を掌にのせてもらって、それを凝視する。すごい細かく、均等に力を加えて縒られた模様が並んでいた。銀糸に痛みなく紡がれている。これが、本物。
「これが! バーツ様の! 銀細工!」
「それ、基本の基」
「ええ! 基本だとしても! 素晴らしいです!」
「えっと」
「基本が成り立たないと応用できません。この基本の部分こそがこんなにも美しいから重ねて重ねて今の新しい作品たちができているのですわ! これはバーツ様が努力され才能を持っている確かな証! ああ、本当素晴らしい……この美しさ……たまらなく好きです!」
「あ、ありがとう?」
「いいえ! お礼を言うのはこちらの方です! こんな素晴らしい銀細工をこんな近くで生まれる瞬間を見られるなんて……網膜に焼き付けました」
「え?」
やっぱりすごい方だわ。バーツ様をこの世の人間全てに伝えたい。
こんな美しい銀細工を作る方だと!
皆卒倒するんじゃない? 私だってギリギリ意識持ってる感じだもの。
「はあ……好き。好きです」
「その、そんな冗談は別に」
「冗談ではありません!」
確信した。
私はずっとバーツ様の銀細工に憧れていた。けど銀細工じゃない。この美しいものを生み出せるバーツ様も好きなのだと。これは恋であり愛。
紛れもなく本気でバーツ様が好き!
「嘘でもありませんわ!」
「そ、そう……」
もういいよ、と頬を少し赤くしたバーツ様が目を逸らしながらか細く囁く。
「そうでした。まだ私とバーツ様は出会ったばかり」
「え?」
「私はまだ信頼されるに至ってない……ならこれから毎日気持ちを伝えます!」
「え、やめて」
「いいえ! 私という人間が信用足る人間であるとお伝えし続けますわ!」
そこじゃないとバーツ様が頭を抱えていた。
間違ってないと思うのだけど?
「いいえ。ではこちらへ」
案内されたのは銀細工を作るために用意された部屋だった。設備が整いすぎている。いいえ、たぶんこれが銀細工師として普通なのだわ。
「南の大陸を経由して山脈より東の国から銀と漆を、銀糸を作るための紙は自国内のものを使っています」
「さすがドゥエツ王国……銀細工専用に紙を作られていますね」
「見ただけ分かりますか」
「はい! ソッケ王国とは全然違います」
とにかく薄い。つまり、より細い銀糸が作れる。あの細やかで精密な細工はティルボーロン様の技術があってこそだけど、素材もそれなりでないと仕上がらない。細かいものを作るなら相応の細い糸が必要だ。それを用意できる環境を持つなんて、さすが銀細工師筆頭。
「ソッケ王国はあまりいい紙を売ってないので羨ましいです」
ソッケは素材が極端に手に入らなかった。素材を融通してくれる商人に辿り着くのですら政務に従事してないと知り得なかったし、その商人も頻繁にはソッケに来ないから最終的には自分で銀糸をどうにかするしかなかった。
「そうですか……少ししたら銀糸作りもしようかと思ってますが、エーヴァ嬢は既に銀糸作りを経験されているんですね?」
「はいっ! 銀糸が手に入らない時は作ってました」
「……すごいですね。自力で糸から作るのは職人の中でもあまりいないんですよ」
「お褒めいただき嬉しいです! 師匠程ではありませんが糸作りも頑張ります!」
「師匠……」
その呼び方ですが、とティルボーロン様は遠慮がちに提案された。
「師匠は遠慮したいのですが……」
「ではティルボーロン様でよろしいですか?」
「あー……いや、バーツでいいです」
「バーツ様?」
「様も特にいりませんが……様つけられたりされるのあまり好きじゃないんで……敬語も特段いりませんし」
どうやら自分がそこに気を遣うのが辛いから相手にも求めない姿勢らしい。素晴らしい方ね。身分に貴賤なしということだ。
「ではバーツ様と。慣れるまでは口調についてはどうかご容赦を」
「分かった。僕は敬語もやめるから」
「はい」
今日は実際バーツ様が銀細工を縒ってくれるという。最初から嬉しい。生であの美しい作品が出来上がるのを見られるわけだ。最高すぎ。
「ソッケ王国で新しい銀が見つかったと聞いてて」
「新しい銀?」
「詳しくは調査中。その銀で作ってみたいなと」
「素敵です!」
夢が広がる。
「ただ災害発生場所で、こちらに送ってもらうのは難しいから直接取りに行こうと思う」
南の大陸各国に加え、北の三国からの輸出入の中継地点でもある諸島リッケリなら大概の物は手に入る。送るのが難しいと言うことは、新しい銀はそれだけ特殊のものなのだろう。
加えて最近はバーツ様自国のドゥエツから荷物が多く届くらしい。
特に三国で流行り始めたお茶の香料はかなりの量が入ってきている。そういえばソッケもかなりの数の香料の輸入がみられた。シャーリー様の義妹が貴族の取り巻きを使い流行らせていたけど、私は香りが苦手で飲んでいない。シャーリー様もアリスも同様だった。
「じゃあ作ろうか」
今日はあらかじめ用意された銀糸で作る。
銀細工ができる様子を近くでずっと見られる幸せあると思う?
「……」
「……」
簡単な模様を一つだけ。
なのに非常に細かく丁寧で私の作る工程が遊びのようだった。
私の方が当然小さく細い指を持っている。だから少しは上手に作れていると思っていた。騎士程ではないけど、きちんと男性の武骨な手をしているのに生み出されるものは可憐で清廉だ。
「……うん。基本の模様はこんな感じかな……って近っ」
「すっばらしい!!」
「み、見る?」
「はいっ!」
作りたての銀細工を掌にのせてもらって、それを凝視する。すごい細かく、均等に力を加えて縒られた模様が並んでいた。銀糸に痛みなく紡がれている。これが、本物。
「これが! バーツ様の! 銀細工!」
「それ、基本の基」
「ええ! 基本だとしても! 素晴らしいです!」
「えっと」
「基本が成り立たないと応用できません。この基本の部分こそがこんなにも美しいから重ねて重ねて今の新しい作品たちができているのですわ! これはバーツ様が努力され才能を持っている確かな証! ああ、本当素晴らしい……この美しさ……たまらなく好きです!」
「あ、ありがとう?」
「いいえ! お礼を言うのはこちらの方です! こんな素晴らしい銀細工をこんな近くで生まれる瞬間を見られるなんて……網膜に焼き付けました」
「え?」
やっぱりすごい方だわ。バーツ様をこの世の人間全てに伝えたい。
こんな美しい銀細工を作る方だと!
皆卒倒するんじゃない? 私だってギリギリ意識持ってる感じだもの。
「はあ……好き。好きです」
「その、そんな冗談は別に」
「冗談ではありません!」
確信した。
私はずっとバーツ様の銀細工に憧れていた。けど銀細工じゃない。この美しいものを生み出せるバーツ様も好きなのだと。これは恋であり愛。
紛れもなく本気でバーツ様が好き!
「嘘でもありませんわ!」
「そ、そう……」
もういいよ、と頬を少し赤くしたバーツ様が目を逸らしながらか細く囁く。
「そうでした。まだ私とバーツ様は出会ったばかり」
「え?」
「私はまだ信頼されるに至ってない……ならこれから毎日気持ちを伝えます!」
「え、やめて」
「いいえ! 私という人間が信用足る人間であるとお伝えし続けますわ!」
そこじゃないとバーツ様が頭を抱えていた。
間違ってないと思うのだけど?
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