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最終話 バーツが好きです!
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「おめでとう」
「おめでとう!」
「ありがとうございます。お父さま、お母さま」
極細の模様で縒(よ)ってできた銀のベールは結婚式でよく使われるようになった。今、この瞬間も目の前の新婦が身に付けている。
「お父さまとお母さまにこちらをお贈りします。受け取ってください」
小さな箱を開けると、銀細工が二つ並んでいた。見覚えがある。ずっと昔にバーツ様が自身の御両親に贈ったもの。バーツ様の御祖父様から受け継いだ銀細工だ。
「お父さまとお祖父さまにとって大事なものだと聞かされて、私も作ろうと決めていました」
バーツ様の御祖父様が自分の子供たちにと作ったけど、受け取ってもらえずバーツ様の手元に残った。御祖父様の銀細工を元に新しくバーツ様が作ったものがアクセサリーピン。これを渡せてやっとバーツ様は自身の両親と和解の最初に立てた。
「あの頃は和解できるなんて思ってなかったな」
「私がお父さまから聞いて、これは家族の絆だと思えたんです」
だから受け取ってください、と微笑む娘は今にも泣きそうだった。私とバーツ様は娘からもらった銀細工のアクセサリーピンをすぐに身に付ける。
「ふふふ。バーツとお揃いなんて久しぶりです」
「そうだね」
婚姻した時と銀細工で褒章受賞の時だろうか。同じデザインは二つとしてない銀細工だけど、敢えて同じものを作った。よくよく見れば違いはあるけど、試みとしては初めてだったのをよく覚えている。
今日もらった銀細工二つもよく見れば当然違うけど、今回は同じと見ていいと思った。
「まだ銀細工も家業もお父さまお母さまから学ぶことが多く、結婚しても生活は今とあまり変わらないですけど、私の中の節目だったので」
「ええ。いいと思うわ」
よく考えて動ける子。素晴らしいわね。
「直近の目標はあいつを倒して、私が銀細工師筆頭になることです!」
「ははは」
バーツ様が「そういうとこエーヴァそっくり!」と笑う。ちなみにあいつとは娘自身にとっての夫なのだけど。それに私はバーツ様を倒すために弟子入りしてわけじゃない。
「私が弟子入りした時は"バーツ好き"を前面に出してたはずです」
「そうだね。その通りなんだけど、行動力や発想はエーヴァによく似てるんだよ」
「そうでしょうか?」
しょっちゅう夫となる人と口喧嘩している娘と似ているか問われると、気の強さだけは似てるかしらと思えた。
「いいわ。私たちは行くわね」
「はい、お母様」
「楽しみにしてるよ」
「はい、お父様」
控え室を出て並んで歩く。
人気のない静かな回廊にはあたたかい陽の光が窓から差し込んでいた。
光に反射するアクセサリーピンを見ながらバーツ様が囁く。
「懐かしい気持ちになるね」
「はい。よくできてますし」
新しい銀細工もたくさん出てきている。このアクセサリーピンも古い手法と新しい縒りが合わさって仕上がっていた。
「銀細工を作りたくなってきました」
「そうだね。いい作品を見ると特に」
出会ってからずっと二人で銀細工を作ってきた。教えてもらうこともまだまだある。私とバーツ様は夫婦になったけど、まだ師弟のままだ。
「僕はエーヴァを抱きしめたい」
バーツ様ったら可愛いことを言ってくれる。立ち止まり嬉しくて両手を広げた。
「どうぞ?」
「うっ!」
「人もいませんし?」
「ぐっ……」
「今の内ですよ?」
「うう……」
かなわない、と言われながらゆるゆる近づいて抱きしめてくれる。程よい力加減が心地好い。
「淋しくなっちゃいました?」
「……そうかも」
「可愛がってましたものね」
「自分の子なんだから当然でしょ」
「まあ」
御両親との仲がうまくいかず絶縁状態が続き、久しぶりに再会したら怒鳴り合いになってしまったバーツ様を考えると家族に対しての考えが変わったのだなと嬉しくなる。
私も家出して縁を切った両親と和解した。
駄目かもと思っても良い方向に変わるものね。けどきっとそれは偶然ではなくて、バーツ様と出会いが私を変えたから。
「バーツがいたから」
「ん?」
「バーツが待ってくれたから、私は変われました」
両親を切り捨てることなく向き合えた。
シャーリー様の失墜に婚約破棄があっても、失うことに怯えず誰かを信じることができたのはバーツ様が側にいて待ってくれたからだ。
「それはこっちの台詞」
バーツ様が腕の力を緩め私を見下ろす。目元を赤くして笑った。
「エーヴァのおかげで変われたこと、たくさんあるよ」
おでこを合わせられる。近すぎて胸が高鳴るのには未だ慣れない。もう何十年も夫婦しているのに。
「私たち、お互いに変わったんですね」
「そうだね」
小さく笑い合いながら唇を重ねる。この充足感と多幸感はいつでも鮮やかだ。
「いつも褒めてくれるしね」
「はいっ!」
今申し上げますと意気込むと「え、いいよ。あとで」と言われる。折角だから聞いてもらおう。
「いいえ、いつでも私はバーツの良いところを語れます! 銀細工師として高い技術を持ち、古典から前衛的なものまであらゆる銀細工を手にかける方! 思慮深く謙虚。領主としての人を纏める力もあり、経営手段は大胆かつ現実的です。語学も堪能で各国の言語を理解し文化にも精通し、なにより受け入れる心の広さと懐の深さ、私を拾ってくれる優しさも持っています」
「はは、ありがとう」
出会った時からそう褒めてくれたとバーツ様が笑った。
「ええ、いつも素敵です!」
当然、実際褒めるとこしかないのだから。
だから、今も昔も変わらず言える。
「そんなバーツが好きです!」
「おめでとう!」
「ありがとうございます。お父さま、お母さま」
極細の模様で縒(よ)ってできた銀のベールは結婚式でよく使われるようになった。今、この瞬間も目の前の新婦が身に付けている。
「お父さまとお母さまにこちらをお贈りします。受け取ってください」
小さな箱を開けると、銀細工が二つ並んでいた。見覚えがある。ずっと昔にバーツ様が自身の御両親に贈ったもの。バーツ様の御祖父様から受け継いだ銀細工だ。
「お父さまとお祖父さまにとって大事なものだと聞かされて、私も作ろうと決めていました」
バーツ様の御祖父様が自分の子供たちにと作ったけど、受け取ってもらえずバーツ様の手元に残った。御祖父様の銀細工を元に新しくバーツ様が作ったものがアクセサリーピン。これを渡せてやっとバーツ様は自身の両親と和解の最初に立てた。
「あの頃は和解できるなんて思ってなかったな」
「私がお父さまから聞いて、これは家族の絆だと思えたんです」
だから受け取ってください、と微笑む娘は今にも泣きそうだった。私とバーツ様は娘からもらった銀細工のアクセサリーピンをすぐに身に付ける。
「ふふふ。バーツとお揃いなんて久しぶりです」
「そうだね」
婚姻した時と銀細工で褒章受賞の時だろうか。同じデザインは二つとしてない銀細工だけど、敢えて同じものを作った。よくよく見れば違いはあるけど、試みとしては初めてだったのをよく覚えている。
今日もらった銀細工二つもよく見れば当然違うけど、今回は同じと見ていいと思った。
「まだ銀細工も家業もお父さまお母さまから学ぶことが多く、結婚しても生活は今とあまり変わらないですけど、私の中の節目だったので」
「ええ。いいと思うわ」
よく考えて動ける子。素晴らしいわね。
「直近の目標はあいつを倒して、私が銀細工師筆頭になることです!」
「ははは」
バーツ様が「そういうとこエーヴァそっくり!」と笑う。ちなみにあいつとは娘自身にとっての夫なのだけど。それに私はバーツ様を倒すために弟子入りしてわけじゃない。
「私が弟子入りした時は"バーツ好き"を前面に出してたはずです」
「そうだね。その通りなんだけど、行動力や発想はエーヴァによく似てるんだよ」
「そうでしょうか?」
しょっちゅう夫となる人と口喧嘩している娘と似ているか問われると、気の強さだけは似てるかしらと思えた。
「いいわ。私たちは行くわね」
「はい、お母様」
「楽しみにしてるよ」
「はい、お父様」
控え室を出て並んで歩く。
人気のない静かな回廊にはあたたかい陽の光が窓から差し込んでいた。
光に反射するアクセサリーピンを見ながらバーツ様が囁く。
「懐かしい気持ちになるね」
「はい。よくできてますし」
新しい銀細工もたくさん出てきている。このアクセサリーピンも古い手法と新しい縒りが合わさって仕上がっていた。
「銀細工を作りたくなってきました」
「そうだね。いい作品を見ると特に」
出会ってからずっと二人で銀細工を作ってきた。教えてもらうこともまだまだある。私とバーツ様は夫婦になったけど、まだ師弟のままだ。
「僕はエーヴァを抱きしめたい」
バーツ様ったら可愛いことを言ってくれる。立ち止まり嬉しくて両手を広げた。
「どうぞ?」
「うっ!」
「人もいませんし?」
「ぐっ……」
「今の内ですよ?」
「うう……」
かなわない、と言われながらゆるゆる近づいて抱きしめてくれる。程よい力加減が心地好い。
「淋しくなっちゃいました?」
「……そうかも」
「可愛がってましたものね」
「自分の子なんだから当然でしょ」
「まあ」
御両親との仲がうまくいかず絶縁状態が続き、久しぶりに再会したら怒鳴り合いになってしまったバーツ様を考えると家族に対しての考えが変わったのだなと嬉しくなる。
私も家出して縁を切った両親と和解した。
駄目かもと思っても良い方向に変わるものね。けどきっとそれは偶然ではなくて、バーツ様と出会いが私を変えたから。
「バーツがいたから」
「ん?」
「バーツが待ってくれたから、私は変われました」
両親を切り捨てることなく向き合えた。
シャーリー様の失墜に婚約破棄があっても、失うことに怯えず誰かを信じることができたのはバーツ様が側にいて待ってくれたからだ。
「それはこっちの台詞」
バーツ様が腕の力を緩め私を見下ろす。目元を赤くして笑った。
「エーヴァのおかげで変われたこと、たくさんあるよ」
おでこを合わせられる。近すぎて胸が高鳴るのには未だ慣れない。もう何十年も夫婦しているのに。
「私たち、お互いに変わったんですね」
「そうだね」
小さく笑い合いながら唇を重ねる。この充足感と多幸感はいつでも鮮やかだ。
「いつも褒めてくれるしね」
「はいっ!」
今申し上げますと意気込むと「え、いいよ。あとで」と言われる。折角だから聞いてもらおう。
「いいえ、いつでも私はバーツの良いところを語れます! 銀細工師として高い技術を持ち、古典から前衛的なものまであらゆる銀細工を手にかける方! 思慮深く謙虚。領主としての人を纏める力もあり、経営手段は大胆かつ現実的です。語学も堪能で各国の言語を理解し文化にも精通し、なにより受け入れる心の広さと懐の深さ、私を拾ってくれる優しさも持っています」
「はは、ありがとう」
出会った時からそう褒めてくれたとバーツ様が笑った。
「ええ、いつも素敵です!」
当然、実際褒めるとこしかないのだから。
だから、今も昔も変わらず言える。
「そんなバーツが好きです!」
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