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49話 根源の誕生。
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灯を絶やさず、祝詞も舞も続けたままであっても、少しずつ呪が彼女を蝕んでいく。
平行線を辿れないなら新しいものを加えるしかないか…けど、臺與を傷つけるなんて出来ない。
判断が難しい。呪という初めての産物に対応するには何が最適か考え続けないと。
「私は兄様を助けるの!私にしかできない!」
「それを私は手伝えない?」
「邪魔よ!」
「どうしても?」
「兄様の隣は私なの!」
私ではかなわないのだろうか。
彼女にとって、私は疎ましい存在のままなのだろうか。
「臺與にとって私が邪魔でも、私は臺與の力になりたい」
「やめてよ!」
私といると惨めになると、臺與は震える声で叫んだ。
なんでも出来る、政において信頼される、彼女が愛する者から愛される、そんな風に彼女からは見えていたと。
少なくとも私は出来ることしか出来ていないし、その中で自分が満足いくまでやれることをしてきただけ。
それを伝えたところで今の彼女は納得しないだろう。
その気持ちを煽る呪から早く切り離さない事には。
「まだ終わってないのか」
「日向」
「兄様…?」
来てくれたの、と頬を上気させ喜ぶ臺與に対し、日向は冷たく見定めている。
「日向兄様…あぁ私の為に来てくだすったのですね!」
「お前の為ではない」
「…日向?」
目の前にいる彼に違和感を感じる。
大国に押し寄せる呪をどうにかしてここに来るには早すぎるし、呪ではないけど何か似たような気質を彼が持っているような気さえした。
なんだろうと彼に声をかけようかと思った時、臺與が叫んだ。
「兄様!私日向兄様が好きなんです!愛しているんです!」
かつて臺與が彼に伝えた感情。
それは以前と同じ結果を招く。
「お前が何度喚こうが変わらんぞ。俺は難升米しかいらん。お前ではない」
「そんな…」
臺與さまが嘆願するように私を見つめている。
嘘は吐けなかった。
その応えが臺與の状態を悪くすると分かってても言えない。
「臺與、私は謝りも否定も出来ない。だって、」
「言うな!」
「臺與、どうか」
「やめて!!」
呪の勢いが強くなり、風が起き、臺與に黒い霧が集約されていく。
目を凝らして様子を見れば、黒い霧が臺與の胸の前で四角い形を作り始めたのが見えた。
その形あるものから糸のような細いものが出て、臺與の胸に結びついていく。
あれは良くないと本能的に悟る。
同時、私が作り出した灯を呪の糸が巻き付き吸収していく。
まさかあの灯ですら呪にとっては餌なのか…けど浄化の可能性がある以上それを止めることは出来ない。
「あれは、」
「呪の根源だ」
「え?」
「自身が呪の始まりになる気だな」
呪の根源…詳しくは話してくれないけど、助けないという強い思いが沸く。
それだけは避けないと駄目だと。
あの根源が完成したら臺與は人ではなくなると直感が告げた。
いくら卑弥呼様達と同じく異質で強大な力の持ち主でも、新たに誕生したこの不の産物に影響されないわけがない。
事実肉体はもう砕けそうになっている。
肉体が砕けたら、それを元に呪が臺與を再度違うものに作り替えるだろう。
たとえ臺與を人として浄化し、人として天寿を全うさせることが出来たとしても、結びついた呪によって苦しみの内に臺與は黄泉國へ渡る事になる。
それだけは避けないと。
「臺與」
「来ないで!」
「いいえ」
遂には彼女の目の前に立ち、その両手を私の両手で包んだ。
浄化の祝詞と舞は続いている。私たちの周りに再度灯が灯った。
私が触れる事で直接浄化と繋いで強く力を行使する。
「臺與」
「離れて!」
「いいえ、大事な娘がこんな苦しい思いをしているのを見てるだけなんて出来ない」
「嘘よ、私の事なんか嫌いなくせに」
「いいえ」
「ちがう、私は誰にも愛されてない!」
呪の影響か、感情のおさまりどころが事実と向き合っていない。
触れてわかる。
浸蝕しようと蠢く黒い産物は抱きたくない不の感情ばかり煽ってくる。
不の感情を煽り育み、大きくしてそれで支配しようと、臺與を飲み込もうとしている。
「臺與、負けてはだめ」
「煩い!もうやめて!」
「貴方は強い子、大丈夫こんなものに負けることはないわ」
「そんなこと!」
「大丈夫」
「嘘よ!」
「大丈夫だから」
強く両手を握ると、震える手がおさまり始める。
直接手に触れているから、そこから浄化が徐々に彼女を不の産物から解放しているようだ。
一度浄化にのれれば彼女ほどの力の持ち主なら消し去ることなんて容易いはず。
このまま根源が出来る前に丸ごと浄化してしまえばいい。
そうしたら臺與とゆっくり話そう。
それからでも遅くはないのだから。
「難升米…私、」
「臺與…?」
私を見つめていた臺與の視線が僅かにずれた。
私の背後には1人しかいない。
彼を視認して、臺與の瞳が揺れる。
同時、胸の前で形になっていた呪の結晶が激しく揺れ、そこからより黒い霧があふれ出す。
途端、臺與の身体に入っていくと、彼女の瞳がまったく違う色に染まっているのが見えた。
声なき息が浅く何度か吐かれ、次に出たのは不の産物を生み出す怒声だった。
「許さない!」
「!」
黒い霧が疾風になって私を食らった。
平行線を辿れないなら新しいものを加えるしかないか…けど、臺與を傷つけるなんて出来ない。
判断が難しい。呪という初めての産物に対応するには何が最適か考え続けないと。
「私は兄様を助けるの!私にしかできない!」
「それを私は手伝えない?」
「邪魔よ!」
「どうしても?」
「兄様の隣は私なの!」
私ではかなわないのだろうか。
彼女にとって、私は疎ましい存在のままなのだろうか。
「臺與にとって私が邪魔でも、私は臺與の力になりたい」
「やめてよ!」
私といると惨めになると、臺與は震える声で叫んだ。
なんでも出来る、政において信頼される、彼女が愛する者から愛される、そんな風に彼女からは見えていたと。
少なくとも私は出来ることしか出来ていないし、その中で自分が満足いくまでやれることをしてきただけ。
それを伝えたところで今の彼女は納得しないだろう。
その気持ちを煽る呪から早く切り離さない事には。
「まだ終わってないのか」
「日向」
「兄様…?」
来てくれたの、と頬を上気させ喜ぶ臺與に対し、日向は冷たく見定めている。
「日向兄様…あぁ私の為に来てくだすったのですね!」
「お前の為ではない」
「…日向?」
目の前にいる彼に違和感を感じる。
大国に押し寄せる呪をどうにかしてここに来るには早すぎるし、呪ではないけど何か似たような気質を彼が持っているような気さえした。
なんだろうと彼に声をかけようかと思った時、臺與が叫んだ。
「兄様!私日向兄様が好きなんです!愛しているんです!」
かつて臺與が彼に伝えた感情。
それは以前と同じ結果を招く。
「お前が何度喚こうが変わらんぞ。俺は難升米しかいらん。お前ではない」
「そんな…」
臺與さまが嘆願するように私を見つめている。
嘘は吐けなかった。
その応えが臺與の状態を悪くすると分かってても言えない。
「臺與、私は謝りも否定も出来ない。だって、」
「言うな!」
「臺與、どうか」
「やめて!!」
呪の勢いが強くなり、風が起き、臺與に黒い霧が集約されていく。
目を凝らして様子を見れば、黒い霧が臺與の胸の前で四角い形を作り始めたのが見えた。
その形あるものから糸のような細いものが出て、臺與の胸に結びついていく。
あれは良くないと本能的に悟る。
同時、私が作り出した灯を呪の糸が巻き付き吸収していく。
まさかあの灯ですら呪にとっては餌なのか…けど浄化の可能性がある以上それを止めることは出来ない。
「あれは、」
「呪の根源だ」
「え?」
「自身が呪の始まりになる気だな」
呪の根源…詳しくは話してくれないけど、助けないという強い思いが沸く。
それだけは避けないと駄目だと。
あの根源が完成したら臺與は人ではなくなると直感が告げた。
いくら卑弥呼様達と同じく異質で強大な力の持ち主でも、新たに誕生したこの不の産物に影響されないわけがない。
事実肉体はもう砕けそうになっている。
肉体が砕けたら、それを元に呪が臺與を再度違うものに作り替えるだろう。
たとえ臺與を人として浄化し、人として天寿を全うさせることが出来たとしても、結びついた呪によって苦しみの内に臺與は黄泉國へ渡る事になる。
それだけは避けないと。
「臺與」
「来ないで!」
「いいえ」
遂には彼女の目の前に立ち、その両手を私の両手で包んだ。
浄化の祝詞と舞は続いている。私たちの周りに再度灯が灯った。
私が触れる事で直接浄化と繋いで強く力を行使する。
「臺與」
「離れて!」
「いいえ、大事な娘がこんな苦しい思いをしているのを見てるだけなんて出来ない」
「嘘よ、私の事なんか嫌いなくせに」
「いいえ」
「ちがう、私は誰にも愛されてない!」
呪の影響か、感情のおさまりどころが事実と向き合っていない。
触れてわかる。
浸蝕しようと蠢く黒い産物は抱きたくない不の感情ばかり煽ってくる。
不の感情を煽り育み、大きくしてそれで支配しようと、臺與を飲み込もうとしている。
「臺與、負けてはだめ」
「煩い!もうやめて!」
「貴方は強い子、大丈夫こんなものに負けることはないわ」
「そんなこと!」
「大丈夫」
「嘘よ!」
「大丈夫だから」
強く両手を握ると、震える手がおさまり始める。
直接手に触れているから、そこから浄化が徐々に彼女を不の産物から解放しているようだ。
一度浄化にのれれば彼女ほどの力の持ち主なら消し去ることなんて容易いはず。
このまま根源が出来る前に丸ごと浄化してしまえばいい。
そうしたら臺與とゆっくり話そう。
それからでも遅くはないのだから。
「難升米…私、」
「臺與…?」
私を見つめていた臺與の視線が僅かにずれた。
私の背後には1人しかいない。
彼を視認して、臺與の瞳が揺れる。
同時、胸の前で形になっていた呪の結晶が激しく揺れ、そこからより黒い霧があふれ出す。
途端、臺與の身体に入っていくと、彼女の瞳がまったく違う色に染まっているのが見えた。
声なき息が浅く何度か吐かれ、次に出たのは不の産物を生み出す怒声だった。
「許さない!」
「!」
黒い霧が疾風になって私を食らった。
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