67 / 82
67話 朝ちゅん(未遂)二回目
しおりを挟む
とてもいい匂いがする。
ここ最近はよく嗅ぐ匂い。エフィがいつもつけてる香水の匂い。
「ん?」
違和感を感じると同時にふわふわしていた意識がはっきり上がってきた。
ゆっくり目を開ける。
目の前に端正な顔立ちの寝顔があった。
「!」
いつぞやと同じことを!
朝ちゅんなんて聞いてない!
「っ……」
ラッキースケベ? でも間違ってエフィの身体をまさぐってるわけじゃない。
向かい合って近いところにエフィがいるだけ。
「……」
なんでこんなことになってるの。
記憶がない。いい具合にお酒回っちゃってふわふわな感覚と楽しいって気持ちがあったくらいしか思い出せなかった。
触れてるところがなかったので、起こさないようそろりと上半身だけ起こす。たぶんシコフォーナクセー王城の一室。客間じゃなさそうだけど。
シンプルな割に調度品が立派ね。シコフォーナクセーの伝統工芸品も置いてある。
まさか、エフィの部屋?
「……ん」
「!」
声が聞こえて、エフィを覗き込むと、もぞりと動いた。
あ、起きそう。
「……」
「エフィ?」
閉じられていた瞳が開く。
ぼんやりして滲む瞳がこちらを捉えた。
「起きた?」
「……」
溢れてベッドに落ちていた私の髪を一房、ゆるゆると上掛けの中から手をだして掴む。
「エフィ?」
「……ああ」
掴んだままの自身の手を引き寄せて唇を寄せる。なにしてるの。
「え、ちょ」
「……好きだな」
「はい?」
瞳を閉じてしまった。なに、寝ぼけてるの?
少し動いたせいで前髪が目にかかったから、指を寄せて避けてあげるとくすぐったそうに微笑んだ。
「ん」
暴力! 寝起きの無防備さは暴力的だよ!
「エフィ」
「……」
せめて掴んだ私の髪の毛を解放してから二度寝に入ってよ。とは思ったけど、このままじゃ離しそうにもない。
「エフィ、手離して」
「……ん」
「エフィ」
「……ん?」
だめかなと思ったら、瞳を閉じたままニュアンスの違う声が漏れた。おやと思ったら再び目を開ける。今度はきっちり光が入っていた。
「エフィ」
「ん?」
私を確認して、次に掴んでいた手元を見る。
少し沈黙した後、勢いよく飛び上がった。
「すまない! これは!」
「あー大丈夫だから落ち着いてよ」
服も昨日のまま、乱れてもいないし、身体のどこかに痛みもない。やらかしたことはないって分かってる。
いやこの場合やらかしたのは私かな?
「違うんだ! 断じて」
「分かってるから」
ベッドの上で土下座しないでよ。
「イリニ」
「むしろ私がエフィに何したの?」
顔を上げさせ、ベッドの上に座って向かい合いながら分かりきってる答えを聞いた。
「ラッキースケベが出たから一緒に寝た」
ひいっと悲鳴が自然にでる。記憶にないラッキースケベなんて怖くて聞けない。分かっていたけど。
「こ、今度はなにを」
「……押し倒されて、胸を揉まれた」
「おふん」
「離れようとしたらまた滑って……あー……その、次は君の手が、ここに」
視線の先はエフィの股間だった。なんてことを。
「まさか……揉んだの?」
「倒れた弾みで力が入っただけかと」
遠回しにフォローしたっぽいけど揉んでるね、それ。だめなやつ。
「ひとしきり抱き締めたらラッキースケベはなくなった」
「そ、そう……ありがと」
「いや……」
視線が泳ぐエフィ。そこから朝ちゅんまでの流れがない。きくしかないの。
「続きは?」
「あー……イリニが、その、離れなくて」
「私が」
「ほ、本当なんだ。その」
嘘ついてまで同じベッドに寝る必要がない。エフィは私に手だしてないから。最後まで致せないなら、同じベッドで寝ることは男の人にとって拷問でしょ。
「うん、エフィの言うこと信じてる」
「何もしてない!」
「うん、したのは私だよねー」
「そ、れは、その、違うんだ。イリニは淋しかったようだったし、酒も入ってたから、その」
「うん」
「あったかいからと言って離れなくて」
「……」
「俺の匂いも好きだと言ってて、尚更抱きつく力を緩めてくれなかったから、その仕方なく」
うあー、私正直ですことー。
エフィの香水は好き。正直ハグに慣れちゃってエフィの体温に触れてる時間がたまらなくなってるのも事実だ。
隠してたのに。なんでこのタイミングで言うかな、私。
「なので、抱き抱えてここに」
「で、エフィを解放することはなかったと」
「ああ」
両陛下の前で酔い潰れたから、私が悪くないことは二人が証明してくれるとエフィは言うけど、そこじゃない気がするな。むしろ両陛下に見られたことの方が問題だよ。
「そんな強いの飲んでなかったのに」
「ああ、途中間違えてその強いのを飲み始めたからじゃないか?」
「成る程?」
パリピのノリもあって判断能力落ちてたかな?
「父上が君の制御できない力を見て頷いていた」
「まさか、あのパリピ」
「それは俺も疑ったが、違うと」
「そう」
まあ事故ちゅーで確認してたわけだし二度も確認する必要ないよね。濡れ衣ごめんね、パリピ。
「可愛いものだと言っていたから大丈夫だろう」
「そっかあ」
寛大でなにより。自分の息子がラッキースケベに遭っていてもいいのかとは思うけど。
「イリニ、父上から条件が」
「なにの?」
「君と俺との婚約」
「ふあ?」
会場で言ったのって本気だったの? そこから条件? 嘘のまま進めて有耶無耶にする流れだと思ってたよ?
「力をせめて以前ほどに戻す事」
「あ、そこね」
元々精霊王に返すつもりだから大丈夫。
ん? 大丈夫ってなに?
「自分の気持ちに正直に、と」
「正直……」
それはどれの? 全て捨てて逃げだすこと? 王族と結婚することで生じる社交の覚悟?
ラッキースケベ見たさに私を揺さぶった王陛下の真面目な話が私の頭をよぎった。
ここ最近はよく嗅ぐ匂い。エフィがいつもつけてる香水の匂い。
「ん?」
違和感を感じると同時にふわふわしていた意識がはっきり上がってきた。
ゆっくり目を開ける。
目の前に端正な顔立ちの寝顔があった。
「!」
いつぞやと同じことを!
朝ちゅんなんて聞いてない!
「っ……」
ラッキースケベ? でも間違ってエフィの身体をまさぐってるわけじゃない。
向かい合って近いところにエフィがいるだけ。
「……」
なんでこんなことになってるの。
記憶がない。いい具合にお酒回っちゃってふわふわな感覚と楽しいって気持ちがあったくらいしか思い出せなかった。
触れてるところがなかったので、起こさないようそろりと上半身だけ起こす。たぶんシコフォーナクセー王城の一室。客間じゃなさそうだけど。
シンプルな割に調度品が立派ね。シコフォーナクセーの伝統工芸品も置いてある。
まさか、エフィの部屋?
「……ん」
「!」
声が聞こえて、エフィを覗き込むと、もぞりと動いた。
あ、起きそう。
「……」
「エフィ?」
閉じられていた瞳が開く。
ぼんやりして滲む瞳がこちらを捉えた。
「起きた?」
「……」
溢れてベッドに落ちていた私の髪を一房、ゆるゆると上掛けの中から手をだして掴む。
「エフィ?」
「……ああ」
掴んだままの自身の手を引き寄せて唇を寄せる。なにしてるの。
「え、ちょ」
「……好きだな」
「はい?」
瞳を閉じてしまった。なに、寝ぼけてるの?
少し動いたせいで前髪が目にかかったから、指を寄せて避けてあげるとくすぐったそうに微笑んだ。
「ん」
暴力! 寝起きの無防備さは暴力的だよ!
「エフィ」
「……」
せめて掴んだ私の髪の毛を解放してから二度寝に入ってよ。とは思ったけど、このままじゃ離しそうにもない。
「エフィ、手離して」
「……ん」
「エフィ」
「……ん?」
だめかなと思ったら、瞳を閉じたままニュアンスの違う声が漏れた。おやと思ったら再び目を開ける。今度はきっちり光が入っていた。
「エフィ」
「ん?」
私を確認して、次に掴んでいた手元を見る。
少し沈黙した後、勢いよく飛び上がった。
「すまない! これは!」
「あー大丈夫だから落ち着いてよ」
服も昨日のまま、乱れてもいないし、身体のどこかに痛みもない。やらかしたことはないって分かってる。
いやこの場合やらかしたのは私かな?
「違うんだ! 断じて」
「分かってるから」
ベッドの上で土下座しないでよ。
「イリニ」
「むしろ私がエフィに何したの?」
顔を上げさせ、ベッドの上に座って向かい合いながら分かりきってる答えを聞いた。
「ラッキースケベが出たから一緒に寝た」
ひいっと悲鳴が自然にでる。記憶にないラッキースケベなんて怖くて聞けない。分かっていたけど。
「こ、今度はなにを」
「……押し倒されて、胸を揉まれた」
「おふん」
「離れようとしたらまた滑って……あー……その、次は君の手が、ここに」
視線の先はエフィの股間だった。なんてことを。
「まさか……揉んだの?」
「倒れた弾みで力が入っただけかと」
遠回しにフォローしたっぽいけど揉んでるね、それ。だめなやつ。
「ひとしきり抱き締めたらラッキースケベはなくなった」
「そ、そう……ありがと」
「いや……」
視線が泳ぐエフィ。そこから朝ちゅんまでの流れがない。きくしかないの。
「続きは?」
「あー……イリニが、その、離れなくて」
「私が」
「ほ、本当なんだ。その」
嘘ついてまで同じベッドに寝る必要がない。エフィは私に手だしてないから。最後まで致せないなら、同じベッドで寝ることは男の人にとって拷問でしょ。
「うん、エフィの言うこと信じてる」
「何もしてない!」
「うん、したのは私だよねー」
「そ、れは、その、違うんだ。イリニは淋しかったようだったし、酒も入ってたから、その」
「うん」
「あったかいからと言って離れなくて」
「……」
「俺の匂いも好きだと言ってて、尚更抱きつく力を緩めてくれなかったから、その仕方なく」
うあー、私正直ですことー。
エフィの香水は好き。正直ハグに慣れちゃってエフィの体温に触れてる時間がたまらなくなってるのも事実だ。
隠してたのに。なんでこのタイミングで言うかな、私。
「なので、抱き抱えてここに」
「で、エフィを解放することはなかったと」
「ああ」
両陛下の前で酔い潰れたから、私が悪くないことは二人が証明してくれるとエフィは言うけど、そこじゃない気がするな。むしろ両陛下に見られたことの方が問題だよ。
「そんな強いの飲んでなかったのに」
「ああ、途中間違えてその強いのを飲み始めたからじゃないか?」
「成る程?」
パリピのノリもあって判断能力落ちてたかな?
「父上が君の制御できない力を見て頷いていた」
「まさか、あのパリピ」
「それは俺も疑ったが、違うと」
「そう」
まあ事故ちゅーで確認してたわけだし二度も確認する必要ないよね。濡れ衣ごめんね、パリピ。
「可愛いものだと言っていたから大丈夫だろう」
「そっかあ」
寛大でなにより。自分の息子がラッキースケベに遭っていてもいいのかとは思うけど。
「イリニ、父上から条件が」
「なにの?」
「君と俺との婚約」
「ふあ?」
会場で言ったのって本気だったの? そこから条件? 嘘のまま進めて有耶無耶にする流れだと思ってたよ?
「力をせめて以前ほどに戻す事」
「あ、そこね」
元々精霊王に返すつもりだから大丈夫。
ん? 大丈夫ってなに?
「自分の気持ちに正直に、と」
「正直……」
それはどれの? 全て捨てて逃げだすこと? 王族と結婚することで生じる社交の覚悟?
ラッキースケベ見たさに私を揺さぶった王陛下の真面目な話が私の頭をよぎった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
62
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる