身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛 ~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~

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8話 婚姻の申し出

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「護衛の次は結婚……」
「ああ、後自分の縁談の結果が出るまでは他の縁談断ってほしいって」
「なんと……」
「ディーナちゃんの護衛の彼だよね?」

 何度か話したことはあるけど良い青年だという父。あまり気にしてないな?

「御父様、保留にしてください。確認してきます」

 父に念を押して玄関扉をソフィーに開けてもらう。再び絶句した。

「おはようございます」
「……おはよ」

 真面目な護衛が待ち構えていた。

* * *

「結婚って本気?」
「はい」

 実家に話はつけました、とも。行動力すごすぎでしょ。早すぎるわ。

「エネフィ公爵令嬢の護衛は嫌?」
「いいえ。ディーナ様の側にいる事が優先されただけです」

 城に着いたら裏側に回った。よく二人で鍛練している場所で人も来ない。

「……うーん?」
「俺が結婚を申し込むのはそんなに意外でしたか」
「いや、思えばあれは的なエピソードがある、かな?」
「どういうことですか?」

 一年ぐらい前だろうか。
 殿下とテュラと私とヴォルムでお忍び飲み会を外でした時だ。よくできたなと今でも思う。テュラがヴォルムをうまいこと騙してほぼ強制的に飲ませてた。
 私と殿下がしかるべき日に婚約破棄することと友人としての愛情しかないことを殿下が話してしまった。かなり酔っていたヴォルムは勢いで言ってしまったのだと思う。

『それなら俺と結婚して下さい』
『はい?』

 相手がいないも同然なら俺が告白したって問題ないですよねと呂律回らない中、なんとか聞き取れた。そのまま机に突っ伏して意識を失ったヴォルムに殿下とテュラは大ウケしてたなあ。

「というわけで、過去回想終了」
「……な、なんてことを」

 思い出話にヴォルムったら顔を青くしたわ。

「かなり酔ってたし、話聞いて私に同情したのかな~程度にしか思ってなかったよ」

 翌日ヴォルムも記憶とんでたし気にせず終わったから、本気が含んでいたなんて思わなかった。

「なかった事にして下さい」
「分かった」

 気まずそうに視線を彷徨わせ、口元を片手で覆う。頬を撫で付け、珍しく深く溜め息をついた。

「……すみません」
「いいよ、大丈夫」
「やり直させてくれますか?」
「うん」

 さっきの過去回想聞いてやり直す気持ちになるのって結構メンタル強い。
 ヴォルムに「だから人気のないとこ選んだんだよ」というと眦があがって驚かれる。次に目元を赤くさせて「これだから貴方は」と呆れた声が出た。

「ディーナ様は優しい」

 変人と呼ばれることは多いけどねえ。ヴォルムはいつも優しいって言ってくれる。

「ありがと。でもいいの? 結果分かってるでしょ」
「それでもです」

 やっぱりメンタル強いな。

「ディーナ様」
「うん」
「ディーナ様が好きです。俺と結婚して下さい」
「丁重にお断り申し上げます」

 穏やかな日差しと爽やかなそよ風が通る裏庭でにこやかに断った。
 しばし沈黙。

「事情は先日伺ってますが……念の為確認させて下さい」
「なに?」
「他に決めた相手が?」
「いないよ」
「独り身でいる気だと?」
「そうだね。スローライフするし、相手はいいかなって。それにそういう相手がいないって知ってるでしょ」

 ずっと護衛で一緒だったのだから、私にいかに恋愛のフラグが立たなかったか知っているはずだ。
 ヴォルムは少し考えて、それならと続けた。

「俺と結婚してリーデンスカップ伯爵領地で過ごせばいいのでは?」
「いい領地よね~。治安もよくて安定してる。国内上位五位に入る優良領地」
「気候もいいですし、女主人の役割も求めませんのでディーナ様の望むスローライフが叶います」

 リーデンスカップ伯爵領地の中身はよく知っている。
 王太子妃教育の一貫で全領地の状態は把握した。その後、外交特使の仕事の合間に国内すべての領地を回って自分の目で確かめたし、改善が必要な領地はテコ入れもした。その多くの領地の中でも優秀なのがヴォルムの実家だ。御両親もとてもいい人だった。

「俺と結婚したら領地で望むままの時間と環境を提供します」
「魅力的ね」
「それに……俺と結婚すれば王太子殿下とエネフィ公爵令嬢の関係が磐石なものとなり、国の安定に早期に繋がるのでは?」

 痛いところをついてくる。
 そう、前婚約者である私の存在をなかったことにしているのはひとえに国に混乱を招かない為だ。その為にはエネフィ公爵令嬢の立場固めが重要になる。隣国ソッケはエネフィ公爵令嬢の婚約破棄と断罪があり貴族から市井まで混乱していると聞いた。我が国ドゥエツはそうなるわけにはいかない。
 いくら独立部隊として生き残れるよう市井に力をつけてもらっていたとしても、国のトップが崩れる影響は計り知れないのだから。

「改めて他の男がよらないようにもした方がいいでしょう。ディーナ様が王太子妃だと思う人間から見れば、殿下の相手でなくなって急に多くの男性と付き合っているように見えかねない。ディーナ様自身の評価もですが、ディーナ様にそういう扱いをさせた殿下を許せない層が出てくるでしょう」

 すらすら話してる様が珍しい。言うこともその通り過ぎて困る。

「俺だけと一緒にいれば元々の相手は実は俺だったと言えます。ディーナ様が用意したプランにプラスになるのでは?」
「すごくいいわ」

 殿下との関係はなかったと示すには、急にハーレム築くより一人の相手がいたんですという体の方が心象がいいのは分かってる。勘違いしてたんだという流れに持っていきやすいだろう。
 私の動きや状況は今の殿下の評判にダイレクトに影響しかねない。ヴォルムが長年の相手でしたよ、一途な愛ですだと物語みたいでウケはいいだろう。

「でもそれすると俗にいう契約結婚でしょ? ヴォルムは私の気持ちがほしいんじゃないの?」
「大丈夫です。婚約期間でディーナ様の気持ちを変えます」

 すごい自信だ。清々しいな。

「これからはなるたけ一緒に。ああ、明日から鍛練を再開しましょうか。今日より早い時間にお迎えに上がります」
「ん、分かった」

 あれ、なんだか私ちょろくない?

「私婚約オッケーしちゃってる?」
「婚約という言葉にとらわれず、お試し期間と捉えて下さい」
「いいの?」
「ええ」

 婚約期間=お試し期間。
 殿下とエネフィ公爵令嬢の関係が安定すれば尚良し、かな。

「加えて、両陛下の仰ってた通り、護衛の契約は私的に公爵家としましょう」
「護衛諦めてないの?」
「仕事をされるのですから守らないといけません。俺が適任です」

 相変わらず過保護ね。

「ディーナ様に付き添えるのは俺だけです」
「はは、いつもありがと」

 ヴォルムを筆頭に私は色んな人に私の都合に付き合ってもらっている。
 国中回れたのは周囲の人たちのおかげだ。おかけでこの国に愛着もできたし混乱を招いて壊したくない気持ちが芽生えた。
 あとはやっぱり好き勝手な外交してるから、そういったバタバタに付き合ってくれてる面は大きい。護衛も婚約も譲らないのなら、今の状態が着地点でいいのかも。

「うん、戻ろうか」
「はい」

 城に戻るとソフィーが待っていた。

「ディーナお嬢様、王太子殿下がお呼びです」
「オッケー」
「ディーナ様、面倒事を引き受けないように」
「はいはい」

 ヴォルムが過保護すぎる。
 私はそのまま殿下の元へ向かった。
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