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25話 ヴォルムと森の小屋で一晩過ごす
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「ええと、南東に飛ばせば良いのか」
「ディーナ様、荒業すぎやしませんか?」
「いいのいいの」
私が拳を振るう際は南東に向かって殴る。大きく弧を描いて飛ぶ荒くれものはおおよそ騎士団が控えるラヤラの海岸に落ちる手筈だ。殴る時に私の魔力で包んであげれば墜落時に死亡することはない。まあ骨が折れる可能性はあるけどね。にしても絵柄がファンタジーで笑える。
「飛んできた方向から俺たちの位置は特定できますが」
「そうそう。痕跡大事ってこと」
半分送って、半分はこの場で縄でぐるぐる巻き。木にもくくりつけておく。
「あ、やっぱりあった」
管理名目でなにかしらの小屋はあると思ってた。挙げ句荒くれものが控える場所も必要だから近いと予測してたのが当たる。
「この小屋に用が?」
「日が傾いてるし、一晩ここで過ごすかなって」
小屋は簡単に開いた。やはり荒くれものが使った形跡がある。けど組織の上とやりとりする書面や証拠はない。そう上手くいかないかあ。
「……一晩?」
「うん。強化で帰ってもいいけど、キルカス王国とソレペナ王国に来てもらうのがいいかなって」
ヴォルムを投げて沿岸に戻す。次に私もスーパーマンなジャンプで戻るのもありだったけど、ヒーロー凱旋ぽくなるからだめだ。今回ドゥエツ王国は仲介役でしかない。目立つのは駄目だ。
一連の犯人は当事者が見つけた方がいい。話がこじれずに済む。ここでの殴り合いはドゥエツ王国がキルカス王国の視察で森に入ったところを遭遇のち撃退とでもすればいい。もしくは襲われていた所をキルカス王国騎士団が保護、とかね。
「カレー作れそう。毛布もあるし」
カレーとは東にある巨大な山脈を超えた先の大陸の食べ物らしい。テュラが防災と言ったらカレーだろって言うから用意したけど、市井ではそう出回っていないので知る機会を作りたいものよ。
三国の防災観念がテュラ仕込みっていうのもどうかとは思うけど仕方ない。
「……徹夜で見張ります」
「もうこれ以上増えないと思うよ」
心配性ね。賊に関して加勢や迎えはないはずだ。殺害目的で遺体を持ち帰る必要もないならあの場にいた人数で終わる可能性が高い。
魔法も使えなさそうだから通信手段もないだろうし。
「純粋に戦闘リスクが心配なところもありますが、俺がディーナ様と同じ部屋で一晩過ごすのがきついだけです」
んん? それは?
「うーんと、恋愛的な意味で言ってる?」
「はい」
「襲わないよ?」
「逆です」
溜め息をつかれる。
ジョークをまじえてもだめらしい。
「恋愛的な意味ね……」
「時間をかけて俺で知ってもらえれば大丈夫です」
「俺で」
「はい。他に譲るつもりはありません」
清々しい。
ヴォルムにはこと恋愛面では助けられた。爵位のある女性はこんなとこで一晩明かせないし、野営飯なんて食べないだろう。こういうところも含めて私はよくある貴族の家に嫁げない自信がある。窮屈で息できなさそうだもの。
「ご飯にしようか」
「ええ、カレーでしたね」
「肉、狩りに行こうかな」
「なら俺も」
* * *
で、二人してそれぞれ野生動物捕獲できるとか貴族じゃないよね?
「有り難く頂きます」
念の為、捕らえた荒くれ者チェックをしても逃げ出した形跡はなく、ほとんどが気を失ったままだった。
カレーと毛布提供は拒まれて残念。というか呆れられて首を傾げられた。捕虜にもご飯は必要だし、夜はなんだかんだ冷えるから毛布も必要でしょ。野宿だから小屋の私たちより過酷だし。
夜も更けてきた今、彼らは寒がっていると思うんだけど、本人たちの意思を尊重しないとね。
「ディーナ様は相変わらず甘いです」
「捕虜の皆さんに?」
「呆れていたでしょう。食事抜き、今が冬だとしても毛布なんて与えません」
「冬だったら凍死しちゃうよ」
魔法使えれば体温調節できるけど、彼らはできない側の人間だ。死んでしまうと証言が得られず根本がどこにあるか分からなくなる。
「きっと彼らも落ちますね」
「まだなにもしてない」
「いいえ、既に落ちてるかもしれません」
「カレーと毛布だけで?!」
「はい」
薪ストーブの前で火の調節をしつつ、毛布を肩にかける。冷えてはいるけど毛布なくても大丈夫かもしれない。
「ディーナ様」
「?」
ここへとヴォルムが自分の足の間を指す。首を傾げていると「触れても?」ときかれ頷いた。私の身体に腕が回り持ち上げられ、そのままヴォルムの足の間におさまる。
「冷えますので」
こうすると背中があったかくていい。
「けど、ヴォルムの背中が冷たいままになっちゃうんじゃ?」
「いいんです」
片腕がお腹に回り、もう片腕は薪ストーブの調整をするという器用さを見せた。
「ディーナ様に触れる理由ができたので」
利用するだけです、と囁いて肩口に額を寄せる。少しくすぐったい。
「触れる練習です。こうした触れ合いはしたことないでしょう?」
「そうね……これが恋愛的な意味?」
「はい」
ヴォルムが頭を起こしたので身体ごと寄りかかってみる。鍛え上げられた筋肉のかたさだ。秘書さんが言ってた通りいい身体ね。
「すごく鼓動速いけど大丈夫?」
「……好きな人を前にしたらこんなものです」
少し気まずそうだった。そっか、人を好きになるとこんなにドキドキするものなの。
「ヴォルム、今きつい?」
「……ディーナ様に触れることができて幸せな気持ちと、これ以上先に進みたいけど我慢はしないといけない。それは結構きついなという気持ち半々です」
やっぱりきついの。
「きついのどうにかするのに、今できることある?」
「…………キスとか」
いややっぱりやめます今のなしですと早口で捲し立てられた。
「キスする?」
「…………いいえ」
「悩むぐらいならすればいいのに」
唸ったヴォルムが再び肩口に顔を埋めた。
暫く悩んだ後、首筋に柔らかくあたたかい感触。
「?」
「……これが限界です」
これ以上はさすがに、とか、自制がきかない、と言ってモゴモゴするヴォルムに笑ってしまった。気まずそうなヴォルムが再び私の肩に額を乗せる。押し付けるように額をぐりぐりされた。やっぱりくすぐったいわね。
「すみません。少し急いてしまって」
「大丈夫」
首筋へ唇を寄せられてぞくっとしたけど嫌じゃなかったよと伝えたら喜ぶかな? 言わなかったけど。
「ディーナ様、荒業すぎやしませんか?」
「いいのいいの」
私が拳を振るう際は南東に向かって殴る。大きく弧を描いて飛ぶ荒くれものはおおよそ騎士団が控えるラヤラの海岸に落ちる手筈だ。殴る時に私の魔力で包んであげれば墜落時に死亡することはない。まあ骨が折れる可能性はあるけどね。にしても絵柄がファンタジーで笑える。
「飛んできた方向から俺たちの位置は特定できますが」
「そうそう。痕跡大事ってこと」
半分送って、半分はこの場で縄でぐるぐる巻き。木にもくくりつけておく。
「あ、やっぱりあった」
管理名目でなにかしらの小屋はあると思ってた。挙げ句荒くれものが控える場所も必要だから近いと予測してたのが当たる。
「この小屋に用が?」
「日が傾いてるし、一晩ここで過ごすかなって」
小屋は簡単に開いた。やはり荒くれものが使った形跡がある。けど組織の上とやりとりする書面や証拠はない。そう上手くいかないかあ。
「……一晩?」
「うん。強化で帰ってもいいけど、キルカス王国とソレペナ王国に来てもらうのがいいかなって」
ヴォルムを投げて沿岸に戻す。次に私もスーパーマンなジャンプで戻るのもありだったけど、ヒーロー凱旋ぽくなるからだめだ。今回ドゥエツ王国は仲介役でしかない。目立つのは駄目だ。
一連の犯人は当事者が見つけた方がいい。話がこじれずに済む。ここでの殴り合いはドゥエツ王国がキルカス王国の視察で森に入ったところを遭遇のち撃退とでもすればいい。もしくは襲われていた所をキルカス王国騎士団が保護、とかね。
「カレー作れそう。毛布もあるし」
カレーとは東にある巨大な山脈を超えた先の大陸の食べ物らしい。テュラが防災と言ったらカレーだろって言うから用意したけど、市井ではそう出回っていないので知る機会を作りたいものよ。
三国の防災観念がテュラ仕込みっていうのもどうかとは思うけど仕方ない。
「……徹夜で見張ります」
「もうこれ以上増えないと思うよ」
心配性ね。賊に関して加勢や迎えはないはずだ。殺害目的で遺体を持ち帰る必要もないならあの場にいた人数で終わる可能性が高い。
魔法も使えなさそうだから通信手段もないだろうし。
「純粋に戦闘リスクが心配なところもありますが、俺がディーナ様と同じ部屋で一晩過ごすのがきついだけです」
んん? それは?
「うーんと、恋愛的な意味で言ってる?」
「はい」
「襲わないよ?」
「逆です」
溜め息をつかれる。
ジョークをまじえてもだめらしい。
「恋愛的な意味ね……」
「時間をかけて俺で知ってもらえれば大丈夫です」
「俺で」
「はい。他に譲るつもりはありません」
清々しい。
ヴォルムにはこと恋愛面では助けられた。爵位のある女性はこんなとこで一晩明かせないし、野営飯なんて食べないだろう。こういうところも含めて私はよくある貴族の家に嫁げない自信がある。窮屈で息できなさそうだもの。
「ご飯にしようか」
「ええ、カレーでしたね」
「肉、狩りに行こうかな」
「なら俺も」
* * *
で、二人してそれぞれ野生動物捕獲できるとか貴族じゃないよね?
「有り難く頂きます」
念の為、捕らえた荒くれ者チェックをしても逃げ出した形跡はなく、ほとんどが気を失ったままだった。
カレーと毛布提供は拒まれて残念。というか呆れられて首を傾げられた。捕虜にもご飯は必要だし、夜はなんだかんだ冷えるから毛布も必要でしょ。野宿だから小屋の私たちより過酷だし。
夜も更けてきた今、彼らは寒がっていると思うんだけど、本人たちの意思を尊重しないとね。
「ディーナ様は相変わらず甘いです」
「捕虜の皆さんに?」
「呆れていたでしょう。食事抜き、今が冬だとしても毛布なんて与えません」
「冬だったら凍死しちゃうよ」
魔法使えれば体温調節できるけど、彼らはできない側の人間だ。死んでしまうと証言が得られず根本がどこにあるか分からなくなる。
「きっと彼らも落ちますね」
「まだなにもしてない」
「いいえ、既に落ちてるかもしれません」
「カレーと毛布だけで?!」
「はい」
薪ストーブの前で火の調節をしつつ、毛布を肩にかける。冷えてはいるけど毛布なくても大丈夫かもしれない。
「ディーナ様」
「?」
ここへとヴォルムが自分の足の間を指す。首を傾げていると「触れても?」ときかれ頷いた。私の身体に腕が回り持ち上げられ、そのままヴォルムの足の間におさまる。
「冷えますので」
こうすると背中があったかくていい。
「けど、ヴォルムの背中が冷たいままになっちゃうんじゃ?」
「いいんです」
片腕がお腹に回り、もう片腕は薪ストーブの調整をするという器用さを見せた。
「ディーナ様に触れる理由ができたので」
利用するだけです、と囁いて肩口に額を寄せる。少しくすぐったい。
「触れる練習です。こうした触れ合いはしたことないでしょう?」
「そうね……これが恋愛的な意味?」
「はい」
ヴォルムが頭を起こしたので身体ごと寄りかかってみる。鍛え上げられた筋肉のかたさだ。秘書さんが言ってた通りいい身体ね。
「すごく鼓動速いけど大丈夫?」
「……好きな人を前にしたらこんなものです」
少し気まずそうだった。そっか、人を好きになるとこんなにドキドキするものなの。
「ヴォルム、今きつい?」
「……ディーナ様に触れることができて幸せな気持ちと、これ以上先に進みたいけど我慢はしないといけない。それは結構きついなという気持ち半々です」
やっぱりきついの。
「きついのどうにかするのに、今できることある?」
「…………キスとか」
いややっぱりやめます今のなしですと早口で捲し立てられた。
「キスする?」
「…………いいえ」
「悩むぐらいならすればいいのに」
唸ったヴォルムが再び肩口に顔を埋めた。
暫く悩んだ後、首筋に柔らかくあたたかい感触。
「?」
「……これが限界です」
これ以上はさすがに、とか、自制がきかない、と言ってモゴモゴするヴォルムに笑ってしまった。気まずそうなヴォルムが再び私の肩に額を乗せる。押し付けるように額をぐりぐりされた。やっぱりくすぐったいわね。
「すみません。少し急いてしまって」
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