追放済み聖女の願う事

文字の大きさ
22 / 64

22話 口説き文句になってたね

しおりを挟む
 場所はサンルームを超えた庭。
 今日も月が綺麗に出ていて、周囲もサリュもよく見える。

「お酒用意する?」
「いいえ」

 通常運行塩対応ですねえ。
 まあ突っ返されず、身につけてくれたネックレスから判断するに、割とデレてきてるとは思うのだけど。
 これが最初ここに来た時だったら、そんなもの必要ありませんと返されていたんじゃないかな。そう思うと受け取ってくれたのは成長した証だ。

「お願いが、あります」
「なに?」

 少しばかりの逡巡。
 彷徨わせて、次に私を捕らえる。
 サリュは大体話す時は目をしっかり見て話してくれるけど、その瞳から何を言いたいかは分かりにくい。
 今回のお願いも言われるまでは分からなかった。

「私の瘴気を、浄化して頂けませんか」
「うん、いいよー」

 サリュのご要望に即オッケーしたら、喜ばれず逆に眉間に皺寄せてきた。

「……主、即座にお応え頂くのは結構ですが、貴方の身体の負担になるのです。少しは考えて頂きたい」

 逆にお説教きちゃったよ。なんでやねん。
 いつでもウェルカムだったのに。
 まあさておき、真面目な彼のこと、以前言われたことを実行する気なのかな。
 遠征は一人で旅立ちを回避しつつミッション終了、次は瘴気をというとこだろう。

「大聖女様達の言ったこと気にしてる?」
「いいえ」
「そう」
「…………ただ、」

 言いかけて口をつぐんだ。
 言うのやめようとしたし。なんで勿体ぶるの。

「ただ?」
「……いえ、これは」
「言わなきゃやらない」
「主、大人げ」
「なくて結構だね!」

 ぐぐっとサリュの喉が鳴る。次に溜息。
 いやここは勿体振ったサリュにも問題ありでしょ。
 最初から素振りなければ、私だってツッコまなかった。

「……主の精霊として、胸を張って隣に立ちたいのです」
「ん? 瘴気がなければ立てるってこと? 私はとっくにサリュが私の大事な精霊だって思ってるし、堂々と隣立ってくれてると思ってたけど?」
「主がそのように仰る方だと存じております。私は……何か形として欲しかった」
「形」

 区切り的なイベントが欲しかったってことかな?
 というよりも、すごい強烈なデレじゃない?
 隣に立ちたいとか、え、なにそれ、私が思っていた以上に聖女という主人として認めてくれていたという……御先祖様、やりましたよ!

「戻るきっかけがほしい。それは主とでしか成し得ないと」

 彼なりに考えた結果だろう。
 そういう区切りを経て超えられるなら、私は全力で彼の助けになる。
 だからサリュに笑顔を向けて応えた。

「いいよ、手出して」
「……」

 両手を出して、その上に彼の手が乗せられる。
 握るというよりは添えられた程度だけど、そこからすぐに瘴気を感じ、そのままこちらに取り込んでいく。
 すぐだった。

「うん、いいね」
「……」

 黒く濁る瘴気が消え、輝く金の瞳が戻ってきた。
 見習いの時から気に入っていた色。
 他の聖女達に控える水の精霊にはない、特別な瞳の色だ。

「やっぱり好きだなあ」
「え?」
「サリュの金の眼」
「ああ、眼、です、か」

 ん? なんだ、どぎまぎしてるぞ。
 何がどうした?
 んん……あ、そうか。

「口説き文句になってたね」
「いえ、特別何かをもって仰ったわけではないと理解しています」
「折角だから、ときめき感じていいよ?」

 急に畏まりすぎたあたり、これは動揺してるとみた。何気早口だし。
 通常運行塩対応の割に、こういう不意打ちは苦手ですか、最高ですね。
 今日はいつもより多くデレてる。
 いや、私が訓練されてきたということ? 鋼メンタルになってきた?
 脳内スタンディングオベーション拍手喝采の所に、サリュが冷静に温度低めに返してきて我に返る。

「私はそういう所が軽薄だと」
「えー、擬似体験いいじゃん」
「気持ちの所在がどうあれ、相手に失礼です」
「真面目ですねえ」

 私、サリュに同じこと言われたら、ときめきに沈むよ?
 御先祖様も言ってたけど、ツンデレのデレは尊さに世界が沈む。間違いない。
 つまり、目の前のイケメンがデレにデレたら沈むわけだ。
 おっと急な供給に耐えられるかな、私。

「……助かりました」
「うん」

 うむ、完全に瘴気が消えて身なりも黒く淀んだものがないと、イケメンに磨きがかかる。見習い時代を思い出して感慨深い思いに至った。
 にしても真面目だな、サリュは。律儀というのか。

「主、体調は?」
「大丈夫だよ」
「本当に?」

 前回のことを気にしてるな。
 あれは疲れが出ていた所に、一気に取り込んだのがよくなかっただけ。
 今日はゆっくりやったからノープロブレムだ。

「本当だって。熱出さないよ」
「なら、よいのですが」

 今回はサリュが協力的だった。
 こちらに取り込みつつも、同時に浄化ができるぐらい余裕もあった。
 だから今回は倒れることはないだろう。

「やっぱりお酒飲む?」
「最初にお断りしましたが」
「やること終わったじゃん」
「ならば、早く寝るべきです」
「お姑さん厳しい」

 晩酌した時はこのぐらいの時間から始めたのに。
 語り合いに応じるというデレをくれてもいいと思うの。
 今ならデレくると、そう思っていたのに、この精霊は中々供給に応えてくれない。さすが。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。 どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。 しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、 「女は馬鹿なくらいがいい」 という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。 出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない―― そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、 さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。 王太子は無能さを露呈し、 第二王子は野心のために手段を選ばない。 そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。 ならば―― 関わらないために、関わるしかない。 アヴェンタドールは王国を救うため、 政治の最前線に立つことを選ぶ。 だがそれは、権力を欲したからではない。 国を“賢く”して、 自分がいなくても回るようにするため。 有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、 ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、 静かな勝利だった。 ---

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

さよなら、悪女に夢中な王子様〜婚約破棄された令嬢は、真の聖女として平和な学園生活を謳歌する〜

平山和人
恋愛
公爵令嬢アイリス・ヴェスペリアは、婚約者である第二王子レオンハルトから、王女のエステルのために理不尽な糾弾を受け、婚約破棄と社交界からの追放を言い渡される。 心身を蝕まれ憔悴しきったその時、アイリスは前世の記憶と、自らの家系が代々受け継いできた『浄化の聖女』の真の力を覚醒させる。自分が陥れられた原因が、エステルの持つ邪悪な魔力に触発されたレオンハルトの歪んだ欲望だったことを知ったアイリスは、力を隠し、追放先の辺境の学園へ進学。 そこで出会ったのは、学園の異端児でありながら、彼女の真の力を見抜く魔術師クライヴと、彼女の過去を知り静かに見守る優秀な生徒会長アシェル。 一方、アイリスを失った王都では、エステルの影響力が増し、国政が混乱を極め始める。アイリスは、愛と権力を失った代わりに手に入れた静かな幸せと、聖女としての使命の間で揺れ動く。 これは、真実の愛と自己肯定を見つけた令嬢が、元婚約者の愚かさに裁きを下し、やがて来る国の危機を救うまでの物語。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

処理中です...