死亡フラグと修正力に抗う一周目悪役令嬢な私【元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女 外伝3】

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8話 フィクタ、出逢う

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「何をしているのですか」
「!」

 絶妙なタイミングで声がかかった。
 ヒョッと小さく声が出てしまう。当然このあたりにも人が来ることは想定済だ。けど振り返った先の人物は護衛騎士でもなく物語上見覚えのない年の近い男の子だった。

「裏庭の掃き掃除と手入れを行っております」

 下働きで住み込みの者ですと想定内のシーンに対する受け答えをする。身なりから貴族なのが分かったので礼をとった。

「そうですか」
「よろしければご案内致しましょうか」

 貴族院に入れるのは十歳からだ。大人びているけど恐らくこの男の子はまだ入学年齢に達していない。私の存在に慣れてない様子は学院の者ではないとも言っている。となると会議に出てるいずれかの付き添いではないだろうか。
 イグニスにしろマーロン侯爵にしろ主役級ではなかったから側仕えがどうとか弟子がどうとかまでは描かれていない。まあこの身なりで側仕えはないだろうから誰かの随伴が妥当かな。

「案内は結構です」

 しかし、と周囲を見渡す。

「裏庭に何かあるのですか?」
「温室がございます」

 できればここにいたいところなんだけどな。
 話はきちんと小耳に挟んでいる。内容は貴族院と騎士学院の入学要件緩和はこのままランニングして、彼らの集会場所がここになるということ。
 ここまでは希望通りだ。

「貴方は掃除以外に温室の植物の手入れもされていると?」
「はい。食堂にて調理も行っております」
「調理まで」

 ここは貴族の下働きのように役割ごとに分けて選任することはない。下働きとして入れば全てローテーションでやることになっている。人数的な問題でもあるんだけど、貴族からしたら珍しいかもしれない。
 おっと会議の話がかなりいいとこに入った。貴族院と騎士学院の管轄をどこに置くか。国家連合を唯一匂わせたところだ。
 手紙ではどこかの国が管轄するのではなく、この大陸の多くがより集まり国同士の規模で公用のものとしてほしいと書いた。
 どこかの国の独裁ではなく、平等と中立の立場に置いてくれと。

「名前を教えていただけますか?」
「え?」

 なんで?
 対して会話もしていない。当たり障りないはずだ。なにをしくじった? 疑われるような不審な部分がどこにあった? 

「か、閣下に名乗るなど、恐れ多く」

 会議が盛り上がる。「これって大陸が連合国として成れって言ってるよね」とイグニスが笑い声が聞こえた。おおお、さすが頭のいい宰相様だ。そのまま連合設立だ! やってくれ!

「ああ、怖がらせてしまいましたね。貴方を罰しようというわけではありませんよ」
「勿体無い御言葉、身に余ります」

 目の前の男の子とは焦りと不安で爆発しそうなのに、耳に入る内容を聞くと歓喜だ。私の情緒がおかしい。

「ただの興味です。深い意味はありません」
「しかし私のようなしがない者の名など閣下には必要ないと存じます」

 知られるリスクを回避したかった。けど目の前の男の子は引かない。
 会議では手紙の主と話がしたいと盛り上がっている。よし第三段階に進もう。貴族院と騎士学院の要件緩和は早くできそうだけど連合設立は時間がかかるはずだ。

「貴方の名前を知りたいなら自分から名乗らないといけませんね。私はエクシピートル・エクステンシス・マーロン。侯爵家の次男です」
「はあ、え、あ、ええ?!」

 マーロン侯爵?!
 あの会議に出てて、国家連合設立の立役者、南の国コロルベーマヌの代表格、フィクタの最期の場所である収容所を管理しているあのマーロン侯爵?
 え、なにこれ、死亡フラグ?
 やりすぎた?
 収容所が来い、的な?

「いかがされました?」
「い、いえ、その、私のような下賤の者が侯爵閣下と軽々しくお話など……大変失礼しました」

 頼むから帰って!
 死亡フラグ立ち去って!
 会議の方は顔合わせ程度だったのか終わりそうだった。次回もここでと話している。なら私はますます貴族院に残らないといけない。
 死亡フラグとさよならしないとだ。なのに死亡フラグはぐいぐいくる。

「ああ……そこはお気になさらず。年も近そうですし」

 ええい、離れろ! 去れ!
 こちとら収容所でのデッドエンドは望んでいないんだぞ!

「いいえ、滅相も御座いません。私は」
「名前を名乗れない理由がおありなのですか?」

 やっばーい! 疑わしい目でみられた! このままだと下働きと思われる以前に不審者で解雇されてしまう?!
 会議はがたがた立ち上がる音がする。ここから離れよう。このままだと兄である物語の人物マーロン侯爵と出会ってしまう危険性がある。

「フィクタと申します!」
「フィクタ嬢、では」
「申し訳ございません、次の仕事がありますので失礼します!」

 深々礼をして全力でその場を離れた。貴族に対する礼儀はない。けど死亡フラグとはさよならしないと! もう一つさらに濃い死亡フラグと絡むわけにはいかないからね!

「……にしても心臓に悪いな」

 これが物語に対して責任をとるリスクか、と大きく溜め息をついた。推しカプが幸せに暮らしましためでたしめでたしにたどり着く為に、悪役として多少の責任をとるつもりではある。けど死ぬ気は毛頭ないんだから。

* * *

「エクス」
「兄様」

 すごい速さで去った少女を見送り、裏庭から表へ出ると兄たちが既に外に出ていた。

「ごめんよ、面倒な仕事を頼んだ」
「いいえ」

 今回随伴したのは他でもない。兄たちが会議をする傍らで探りをいれにいく仕事があったからだ。

「で、どうだった?」

 イグニス・ウェールス・アチェンディーテ公爵が笑いながら問いかける。気さくな方で子供の私にも優しい方だ。

「この貴族院の下働きが一人裏庭にいました」
「へえ……僕の探知魔法には一人もかからなかったなあ」

 罠だと踏んでアチェンディーテ公爵は魔法を仕掛けていた。襲撃にも耐えられる程の罠まで仕込み、いつでも対応できるように。
 この手紙は各国主要な貴族に加え帝国の皇弟にまで届いている。一堂に会する場所で何かが起きてもおかしくない。

「裏庭側の窓があいていましたね、公爵」
「ええ、下働きなら始まるまでに開けとくことは可能……ふふ、で、エクス。その下働きはどんな人だった?」
「私と似た年の女の子でした」

 紹介状がないと働けない貴族院ではあるが下働きに身分はあまり関係ない。挙動と言動から察するにいいところで低爵位、大方平民といったところか。

「名前は聞いた?」
「フィクタと名乗りました」

 かなり名乗りを渋られたけれど。
 それが身分による遠慮なのか後ろめたい何かがあるのか分からない。

「オッケー、そしたら理事長にお願いして情報もらおっと」

 この学院は元々イルミナルクス王国が管轄している。理事長と一番懇意にしているのはアチェンディーテ公爵だから頼めば容易に情報を開示してくるだろう。

「ではエクス、ここでの会議は続けるから、そのフィクタという少女への接触を引き続きお願いできるかな?」
「はい」

 最初は挙動不審な少女だった。
 それが変わるのはすぐそことは知らず兄の願いにただ頷いた。
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