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21話 マジア侯爵夫妻との出会い
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「げえええ」
「フラル、気持ち悪いですか?」
「酔ったんじゃなくて、帝国に入りたくないだけ」
「そうですか」
物理的に吐いたところでどうにもならない。
マーロン侯爵家の馬車にマーロン弟もといエールと乗ってついに帝国に来てしまった。いつかは一度ぐらい顔を合わせるかもというリスクは考えていたけど、やっぱり避けられるなら避けたい。
「……時間も随分早く着きましたし、少し外を歩きますか?」
「んー……そうね」
「嫌なら入城でも構いません」
「いや、出る。気晴らしするわ」
「分かりました」
エールなりの気遣いだろう。私が心底帝国に行きたくなかったのは会議でイグニスに命じられてから散々愚痴ってきたので彼は重々理解している。
「護衛つけないの?」
「少し距離を置いてもらっています」
「ふうん、そう」
ぱっと見どこにもいないから建物の影にいるとかかな。側に護衛をつけて歩くとか仰々しくて嫌だし、明らか貴族が歩いていますって感じで好きではない。さすがエール、気遣いの鑑ね。
「てか一年後に親善試合って待てない」
「仕方ありません。これでも最速です」
「フィクタ十五歳、ヴィーてやとユツィたやが十四歳なら早い方なんだけどねえ」
外伝では十六歳になる頃だったかな? レースノワレ王国滅亡もあって激動の十六歳の二人はデビュタントができなかったぐらいだ。早く幸せな二人が見たい。
おっと今流行りのやつ。買ってこ。
「すみません、これ二つください」
「はいよ」
「ありがとうございます」
はあ、やれやれだ。
小説本編でフィクタは皇弟を殺害しようとしていた。そんな最たる死亡フラグに会うのも嫌だ。第三皇子のシレも同じく。いや推しカプだから会いたい気持ちはあるけど、これ以上頭の回る人間に会うのは自分のやましい部分が知られてしまう可能性があって怖い。というより、死亡フラグがさらに増えている。リスクマネジメント、これ以上どうしろと?
「はい、エール」
「ありがとうございます」
「あ、ちょっと待ってて」
違う場所で小腹を埋めるものを買って渡す。両手は塞がるけど食べやすいからいいだろう。
「これは」
「ああ、帝都で人気の食べ物よ。パンに肉とか野菜挟んだだけでサイズ小さいめ。ディナーまでのつなぎよ」
「……随分詳しいんですね」
「ぶぶっ」
いっけない。ノリでナチュラルに買い物してた。
今のフィクタは帝都の流行りなんて知らないでしょ。小説では本編でサクとクラスがデートしてたから覚えてただけで……これはいけない。死亡フラグ筆頭のエールに変な勘繰りされてしまっている。
「ほ、ほら、私商人の伝手を使っていたから割とそういうとこ敏感なのよ」
「……そうですか」
うーん、厳しいまなざしありがとうございます! やばい!
「誰かと、一緒に来たとかではなく? あの双子とか」
「え? ないない。遊びにすら来たくないもの」
手紙の時は耐えられたけどね。帝都に頻繁に足踏み入れたくないし、手紙の時は皇弟に会うなんてミッションなかったし。
「そうですか」
よっし。エールの持つ空気が柔らかくなった。疑いは晴れたわね。
「あ、エールは食べ歩きなんてしたことないわね? あっちに公園があるからそこで食べる?」
「帝都の地理に詳しいで」
「あー! 公園が見えるなあ! 行こうか!」
墓穴掘りそうでもう嫌。
「ほら、あの辺に座るとこある」
「本当ですね」
二人並んで軽食をとる。平和だなあ。こういうのがあれば帝国内でもやっていけるけど。
散歩する人、遊ぶ子供、と、公園に入ってきた夫婦が目に留まる。なんだろう、と違和感を抱いたところで夫婦の夫が胸に手を当て膝をついた。明らかに様子がおかしい。
「フラル?」
「ちょっとそこにいて」
夫婦に駆け寄ると、側にいた妻はひどく狼狽していて、夫はうずくまって苦し気に声を出していた。
「大丈夫ですか? ……え」
「あ、ええ、いつもの発作が」
心配そうな顔をする少し年のいった妻の顔には見覚えがあった。
夫の顔も確認して確信する。
「マジア侯爵夫妻……」
かつて私が手に駆けた二人。
可能性は十分にあったけど、まさかこんなところで会うなんて。
「フィクタ、どうしました」
「!」
今はそれどころじゃない。声をかけてしまったのだから責任は取ろう。
「エクシピートル様、手伝って下さい」
マジア侯爵には呼吸器系の持病があった。
三人で運んで座れるところに横になってもらう。向きを横向きにして息をしやすくし、胸元の部分も広げておく。その間にいつも服用していた薬を持ってきてもらって、少し呼吸が戻った所で服用してもらった。
しばらくすると顔色もよくなり、座れるまでに達する。
「ありがとう、お嬢さん。だいぶ楽になったよ」
「いいえ」
ではこれでと去ろうとすると名前を問われる。ここでの縁を断ち切らないといけないので名乗らなかった。さっさと去ろう。幸い夫妻の馬車もきたというし、症状がおさまったなら問題ない。笑顔で有無を言わさずその場を離れた。
「良かったのですか? 知ってる方だったのでは?」
「……バレてるなら言うけど、関わりたくない方々なので」
「フラルには関わりたくない人間が沢山いますね」
夫妻の目の届かない所でマーロン家の馬車に乗ってさっさと入城することにした。帝都を回ってこれ以上墓穴掘るわけにもいかない。
「大丈夫ですよ、フラル」
「ん?」
「前にも言いました。私がフラルの憂いを払います」
死亡フラグにならなければなんでもいいよと内心思いつつ適当に頷いておいた。
幸い、ポステーロス城での謁見は当たり障りなく終わる。
懐かしい顔は顔色も良くやつれていない。推しカプの一人シレはソミアを連れ立っていて鼻血が出そうだった。
けど、それはあくまで始まりに過ぎない。
「これから研修っていう名目で定期的に帝国に来てもらうからね~」
「どういうこと?!」
というイグニスの言葉により地獄に突き落とされた。
オチがひどい。
* * *
そうして翌年、無事親善試合が開催される。
帝国第二皇子であるヴォックスは優勝者のユースティーツィアより公にプロポーズされ、褒賞も踏まえて無事婚約に至った。
両手上げてガッツポーズしたのは言うまでもない。
「あっれ、でも地獄はここからじゃない? エンドレス的な?」
嬉しさ反面涙目になる私のリスクマネジメントを誰かに業務委託したいんだけど!
「フラル、気持ち悪いですか?」
「酔ったんじゃなくて、帝国に入りたくないだけ」
「そうですか」
物理的に吐いたところでどうにもならない。
マーロン侯爵家の馬車にマーロン弟もといエールと乗ってついに帝国に来てしまった。いつかは一度ぐらい顔を合わせるかもというリスクは考えていたけど、やっぱり避けられるなら避けたい。
「……時間も随分早く着きましたし、少し外を歩きますか?」
「んー……そうね」
「嫌なら入城でも構いません」
「いや、出る。気晴らしするわ」
「分かりました」
エールなりの気遣いだろう。私が心底帝国に行きたくなかったのは会議でイグニスに命じられてから散々愚痴ってきたので彼は重々理解している。
「護衛つけないの?」
「少し距離を置いてもらっています」
「ふうん、そう」
ぱっと見どこにもいないから建物の影にいるとかかな。側に護衛をつけて歩くとか仰々しくて嫌だし、明らか貴族が歩いていますって感じで好きではない。さすがエール、気遣いの鑑ね。
「てか一年後に親善試合って待てない」
「仕方ありません。これでも最速です」
「フィクタ十五歳、ヴィーてやとユツィたやが十四歳なら早い方なんだけどねえ」
外伝では十六歳になる頃だったかな? レースノワレ王国滅亡もあって激動の十六歳の二人はデビュタントができなかったぐらいだ。早く幸せな二人が見たい。
おっと今流行りのやつ。買ってこ。
「すみません、これ二つください」
「はいよ」
「ありがとうございます」
はあ、やれやれだ。
小説本編でフィクタは皇弟を殺害しようとしていた。そんな最たる死亡フラグに会うのも嫌だ。第三皇子のシレも同じく。いや推しカプだから会いたい気持ちはあるけど、これ以上頭の回る人間に会うのは自分のやましい部分が知られてしまう可能性があって怖い。というより、死亡フラグがさらに増えている。リスクマネジメント、これ以上どうしろと?
「はい、エール」
「ありがとうございます」
「あ、ちょっと待ってて」
違う場所で小腹を埋めるものを買って渡す。両手は塞がるけど食べやすいからいいだろう。
「これは」
「ああ、帝都で人気の食べ物よ。パンに肉とか野菜挟んだだけでサイズ小さいめ。ディナーまでのつなぎよ」
「……随分詳しいんですね」
「ぶぶっ」
いっけない。ノリでナチュラルに買い物してた。
今のフィクタは帝都の流行りなんて知らないでしょ。小説では本編でサクとクラスがデートしてたから覚えてただけで……これはいけない。死亡フラグ筆頭のエールに変な勘繰りされてしまっている。
「ほ、ほら、私商人の伝手を使っていたから割とそういうとこ敏感なのよ」
「……そうですか」
うーん、厳しいまなざしありがとうございます! やばい!
「誰かと、一緒に来たとかではなく? あの双子とか」
「え? ないない。遊びにすら来たくないもの」
手紙の時は耐えられたけどね。帝都に頻繁に足踏み入れたくないし、手紙の時は皇弟に会うなんてミッションなかったし。
「そうですか」
よっし。エールの持つ空気が柔らかくなった。疑いは晴れたわね。
「あ、エールは食べ歩きなんてしたことないわね? あっちに公園があるからそこで食べる?」
「帝都の地理に詳しいで」
「あー! 公園が見えるなあ! 行こうか!」
墓穴掘りそうでもう嫌。
「ほら、あの辺に座るとこある」
「本当ですね」
二人並んで軽食をとる。平和だなあ。こういうのがあれば帝国内でもやっていけるけど。
散歩する人、遊ぶ子供、と、公園に入ってきた夫婦が目に留まる。なんだろう、と違和感を抱いたところで夫婦の夫が胸に手を当て膝をついた。明らかに様子がおかしい。
「フラル?」
「ちょっとそこにいて」
夫婦に駆け寄ると、側にいた妻はひどく狼狽していて、夫はうずくまって苦し気に声を出していた。
「大丈夫ですか? ……え」
「あ、ええ、いつもの発作が」
心配そうな顔をする少し年のいった妻の顔には見覚えがあった。
夫の顔も確認して確信する。
「マジア侯爵夫妻……」
かつて私が手に駆けた二人。
可能性は十分にあったけど、まさかこんなところで会うなんて。
「フィクタ、どうしました」
「!」
今はそれどころじゃない。声をかけてしまったのだから責任は取ろう。
「エクシピートル様、手伝って下さい」
マジア侯爵には呼吸器系の持病があった。
三人で運んで座れるところに横になってもらう。向きを横向きにして息をしやすくし、胸元の部分も広げておく。その間にいつも服用していた薬を持ってきてもらって、少し呼吸が戻った所で服用してもらった。
しばらくすると顔色もよくなり、座れるまでに達する。
「ありがとう、お嬢さん。だいぶ楽になったよ」
「いいえ」
ではこれでと去ろうとすると名前を問われる。ここでの縁を断ち切らないといけないので名乗らなかった。さっさと去ろう。幸い夫妻の馬車もきたというし、症状がおさまったなら問題ない。笑顔で有無を言わさずその場を離れた。
「良かったのですか? 知ってる方だったのでは?」
「……バレてるなら言うけど、関わりたくない方々なので」
「フラルには関わりたくない人間が沢山いますね」
夫妻の目の届かない所でマーロン家の馬車に乗ってさっさと入城することにした。帝都を回ってこれ以上墓穴掘るわけにもいかない。
「大丈夫ですよ、フラル」
「ん?」
「前にも言いました。私がフラルの憂いを払います」
死亡フラグにならなければなんでもいいよと内心思いつつ適当に頷いておいた。
幸い、ポステーロス城での謁見は当たり障りなく終わる。
懐かしい顔は顔色も良くやつれていない。推しカプの一人シレはソミアを連れ立っていて鼻血が出そうだった。
けど、それはあくまで始まりに過ぎない。
「これから研修っていう名目で定期的に帝国に来てもらうからね~」
「どういうこと?!」
というイグニスの言葉により地獄に突き落とされた。
オチがひどい。
* * *
そうして翌年、無事親善試合が開催される。
帝国第二皇子であるヴォックスは優勝者のユースティーツィアより公にプロポーズされ、褒賞も踏まえて無事婚約に至った。
両手上げてガッツポーズしたのは言うまでもない。
「あっれ、でも地獄はここからじゃない? エンドレス的な?」
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