溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!

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39話 回復薬も効かない理由

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「これからはより一層、私の筋肉に触れてもらう」
「がふっ!」

 なにそれご褒美? 違う、だめでしょ、そんな。
 当初の着地点にしたかったのと全然違う方向を進んでいる。私の理性戻ってきて。

「抱き締めることに加えてミナが満足するまでその手で触れる。今まで以上にだ」

 鐘が! 祝福の鐘が鳴っている! 間違いなくご褒美だ!


* * *


「抱きしめて手で触れても、もって三日か」
「……」

 他国への外交護衛でたった四日離れただけで私の魔眼は我慢できなかった。行く前に散々上腕二頭筋だの腹直筋だの触っておいて丸三日しか我慢できない。
 幸い騎士の犠牲者は副団長だけに留まった。まあいくらかの騎士には見られたけど、そこは仕方ない。そしてその後我慢をし続けて自分の服が破けた。自室にいて本当よかったと思う。
 というか、魔眼強くなってる? レベルは変わってなかったのに、絵描くと見せかけて眺めて満足いくまで触るなんてコンボ決まれば三日持ってもいいでしょ。

「再会した途端、シャツが破けるから何事かと思ったな」
「誰もいなくてよかったです……」

 今まで以上に触っているなら大丈夫、という思いが彼の中にあったらしい。そう言いつつもどこか満足げなのが気になる。けど、見て見ぬふりをした。

「やはり私がいないと駄目だな」
「ぐっ……」

 その通りなんだけど! すごく納得いかない! 自制心がきけばこんなことには!

「ミナ」

 絵を描くためにシャツを脱いだオレンに抱き締められる。

「ふわああ大胸筋っ!」
「ここまでくると大胸筋に妬けてくるな」
「唯一無二です!」
「ふむ……何を追加すれば一週間はもつだろうか?」

 確かに筋肉を実体験できるのは抱き締められるに限る。
 なにせ顔面で大胸筋を浴びて手で側筋から背筋を味わえ、背中では回されたオレンの腕の上腕二頭筋から上腕三頭筋を感じることができた。
 楽園はここにある。

「沼だわ……」

 恐ろしく深い沼だ。逃れられない。

「というか私ひどい」
「どうした、ミナ」

 婚約破棄を申し出てたのに、今まで通りオレンに甘えて期待している。絵を描くのはいいとして、触れたり抱き締めたりしているのはやりすぎでは? 今ひしとセクハラで訴えられてないことに感謝しかない。あ、けどそもそもがオレンがより触ってもらうってところから今こうして触っているわけで……それならセーフか。
 けど、あの時オレンが言いたかった言葉に応えられる気配はない。

「お茶飲みましょうか」

 絵を描くのも抱き締めるのも置いてお茶を飲むことにした。作業場であるこの空き部屋は、二人で絵を描いてお茶を飲む場所になってしまった。

「ミナ、ループト公爵令嬢から魔眼の事で返事があった」
「わ、早いですね」

 ループト公爵令嬢は仕事できそう、というかできるから外交特使をしてるのよね。
 戦争を終わらせた英雄でもあるのだから、このぐらい朝飯前なのだろう。

「すまないが先に読んでしまった」
「構いません」
「ミナも読んで」
「はい」

 ループト公爵令嬢はかなり深いところまで調べてくれていた。
 私はかなりの傍系になるけど聖女を多く排出していた家系の末裔らしい。故に魔法への耐性がある。魔法薬が毒として効かないで済んだけど、完全に消すことはできずに魔眼として現れた。
 魔眼は私の願いが形になったという。聖女は元々願いを形にできる力を持ち、その力が魔法薬をきっかけに発現した。
 綺麗な字で衝撃の内容が書かれている。

「だから回復薬も効かないってことですか?」
「回復薬も魔法薬だからな。だが手紙にある通り、ミナの願いが形になったのが魔眼だ。ミナの願いが魔眼を維持することだったというところか」
「魔眼を……」

 すごくシリアスに入りそうな場面で仕様のない理由しか浮かばなかった。

「つまり……筋肉のステータスをまだ見たいってことですか、ね?」
「……」
「それでもって、まだ服破いて筋肉見たいってことですかね?」

 あはは、なんてから笑いしたらオレンが神妙な顔つきで瞳を閉じる。

「……」
「……」
「……」
「な、なにか言ってくださいよー!」

 オレンの瞳がゆっくり開かれる。至極真面目に返された。

「私の筋肉があれば満足だろう?」
「確かにそうなんですけど!」

 どうあれ私の筋肉を見たい願望は一切消えず、おさまってないことになります、と切実な叫びが部屋に響く。
 事実を自分で言う辛さってあるよね。
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