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43話 喧嘩のち可愛い
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何を思ったのか、私の手をとり場を去ろうとする。
推しへの挨拶も簡素に、さくっと馬車に乗せられた。
「ちょっと、なんで?」
「五月蝿い。充分会場にいたんだからいいだろう」
確かに時間はそこそこいたけど。ダンスもしたし、ニウは王太子殿下にご挨拶もすませたわけだし。
「にしてもひどくない? 推しに挨拶きちんできなかったんだけど!」
「あいつに挨拶は必要ない!」
「おかしいでしょ?! ニウはよくても私は知り合ったばかりだし、ニウがいない時ああして気遣って側にいてくれる人を無視して帰るとかしたくない!」
馬車の中って便利。いくらでも言い合えるぞ。
「あいつの肩を持ちすぎだ!」
「ニウは目の敵にしすぎ! それに推しは贔屓してしまうものだから!」
ラートステも言ってたし。どうしても推し贔屓はあるって。それにこれでも他の人を蔑ろにしてるわけじゃないし、ディスってもいない。元婚約者にだってそれなりに対応した。
「贔屓するのはどうなんだ!」
「ニウのはマナーとしてだめでしょ!」
「そんなことは」
「あるの! 王太子殿下に挨拶しないのも推しへの扱いが塩なのも、今日の元婚約者に対しても、もっと当たり障りない対応できるでしょ!」
「そんなことはない!」
なにムキになってるの。なにがそんなに嫌なわけ。
「あるでしょ! そんなに推しのこと嫌いなの? 同期で仲いいんじゃないの?!」
私一人の時に側にいるのを許すぐらいには推しのことを信用してるはずだ。なのに、何かがニウの琴線に触れてしまって怒ってる。
「ああ、その辺の貴族よりは余程信用している。問題はヴィールだろう!」
「私?!」
「あいつの言葉に浮かれて! ヴェルランゲン公爵にはあんなに近づかせて! 無防備にも程がある!」
「あ、な、確かに元婚約者のは近すぎたかもしれないけど、だからってそんなに怒ることないじゃん!」
それにあの言葉を引き出せたんだ、むしろよくやったレベルじゃないの。
それを訴えても聞く耳持たないけど。相当お冠だな。
「それに推しに可愛いって言われて嬉しくないわけないじゃん!」
そこは許してほしい。推しに褒められるなんて栄誉だ。世界を救った勇者ばりに成し遂げたようなものだ。
「やはりあいつが好きなのか!」
「好きだよ! だから推しなんでしょ!」
今度は怯んだ。
さっきから変なニウ。
「なら何故あいつの元へ行かない!」
「行く? あ、もしかしてまだ恋愛的な意味で好きだと思ってるわけ?」
「そうだろう!」
「違う! 前も言ったけど、推しの好きは恋愛の好きじゃないの! いい加減にしてよ!」
何度も説明させて、こっちの労力考えてよ。
なのにニウってばまだ怒ってる。
「可愛いって言われて浮かれてたくせに!」
「またそれ? 普段言われないから、ああして言われると嬉しいわけ!」
「なら! これからは俺が言えばいいな?!」
「はい?!」
「それなら何も問題ない!」
んん? 論点そこに到達するの?
なんか妙に納得してるけど。
何も返さない私にニウは眉間に皺を寄せた。
「俺に言われて嬉しくないと?」
「え、いや、その」
「やはりあいつの事が好きなんだろう!」
「だから推しは別なんだって!」
だめだ、堂々巡りすぎる。
ここはニウの辿り着いたとこでおさめよう。
「分かったから! これからニウが言えばいいでしょ!」
「初めからそう言えばいいんだ!」
「なにを偉そうに! 元はといえばニウの態度が問題だったのに!」
「それはヴィールが、」
「ああもういいから! ニウが満足する方でいいから! もうこれで終わりにして!」
「ぐ……」
「なに」
不服そうだな。
まあでもニウがやりたければやればいいし。
「……」
待った。
さっきの論点の到達点はどこだった?
推しに可愛いと言われる私が許せなくて?
ニウが私に言えばいい的な?
「え、ニウが?」
「……」
「ニウが私に可愛いって言うの?」
「……」
ここにきてニウも自分の発言に気づいたらしい。
口元を片手で覆って顔を真っ赤にしていた。珍しい、ここまで赤くなるの。
「ニウ」
「あ、いや、その……」
珍しく歯切れが悪い。まさかというかやっぱりというか、勢いのまま言ったの。怒りで目の前見えなくなるタイプとは思わなかった。
「あー、ニウいいよ? 無理しないで」
「そんなことは、」
「ニウからは可愛くないしか聞いてないしね? いいよ、無理でしょ」
「そんなことは!」
くっと歯噛みして、次に両手がゆっくり伸びてきた。
私の両頬を挟んで、少し上に傾かされる。ニウの顔はまだ赤かった。
「……」
「……」
「……ニウ」
かかる吐息が熱い。どうしよう、もしかしたら言ってもらえると思ったら途端期待している自分がいる。
私ったら、なんて現金なんだろう。ニウに言われたい、なんて。
「……」
「……」
「…………可愛い」
「ニ、ウ」
と、そのまま両手が肩に添えられ引き寄せられた。
ニウの胸に顔を埋める。
大きく一つ息を吐いて、さらに紡がれる言葉。
「可愛い」
「や、やめ」
言われ、ばくんと心臓が揺れる。鼓動が早くなって、その音が耳元で鳴っているみたい。
「……くそ」
悔しそうな囁きだった。何に悔しいのかはきけなかった。
推しへの挨拶も簡素に、さくっと馬車に乗せられた。
「ちょっと、なんで?」
「五月蝿い。充分会場にいたんだからいいだろう」
確かに時間はそこそこいたけど。ダンスもしたし、ニウは王太子殿下にご挨拶もすませたわけだし。
「にしてもひどくない? 推しに挨拶きちんできなかったんだけど!」
「あいつに挨拶は必要ない!」
「おかしいでしょ?! ニウはよくても私は知り合ったばかりだし、ニウがいない時ああして気遣って側にいてくれる人を無視して帰るとかしたくない!」
馬車の中って便利。いくらでも言い合えるぞ。
「あいつの肩を持ちすぎだ!」
「ニウは目の敵にしすぎ! それに推しは贔屓してしまうものだから!」
ラートステも言ってたし。どうしても推し贔屓はあるって。それにこれでも他の人を蔑ろにしてるわけじゃないし、ディスってもいない。元婚約者にだってそれなりに対応した。
「贔屓するのはどうなんだ!」
「ニウのはマナーとしてだめでしょ!」
「そんなことは」
「あるの! 王太子殿下に挨拶しないのも推しへの扱いが塩なのも、今日の元婚約者に対しても、もっと当たり障りない対応できるでしょ!」
「そんなことはない!」
なにムキになってるの。なにがそんなに嫌なわけ。
「あるでしょ! そんなに推しのこと嫌いなの? 同期で仲いいんじゃないの?!」
私一人の時に側にいるのを許すぐらいには推しのことを信用してるはずだ。なのに、何かがニウの琴線に触れてしまって怒ってる。
「ああ、その辺の貴族よりは余程信用している。問題はヴィールだろう!」
「私?!」
「あいつの言葉に浮かれて! ヴェルランゲン公爵にはあんなに近づかせて! 無防備にも程がある!」
「あ、な、確かに元婚約者のは近すぎたかもしれないけど、だからってそんなに怒ることないじゃん!」
それにあの言葉を引き出せたんだ、むしろよくやったレベルじゃないの。
それを訴えても聞く耳持たないけど。相当お冠だな。
「それに推しに可愛いって言われて嬉しくないわけないじゃん!」
そこは許してほしい。推しに褒められるなんて栄誉だ。世界を救った勇者ばりに成し遂げたようなものだ。
「やはりあいつが好きなのか!」
「好きだよ! だから推しなんでしょ!」
今度は怯んだ。
さっきから変なニウ。
「なら何故あいつの元へ行かない!」
「行く? あ、もしかしてまだ恋愛的な意味で好きだと思ってるわけ?」
「そうだろう!」
「違う! 前も言ったけど、推しの好きは恋愛の好きじゃないの! いい加減にしてよ!」
何度も説明させて、こっちの労力考えてよ。
なのにニウってばまだ怒ってる。
「可愛いって言われて浮かれてたくせに!」
「またそれ? 普段言われないから、ああして言われると嬉しいわけ!」
「なら! これからは俺が言えばいいな?!」
「はい?!」
「それなら何も問題ない!」
んん? 論点そこに到達するの?
なんか妙に納得してるけど。
何も返さない私にニウは眉間に皺を寄せた。
「俺に言われて嬉しくないと?」
「え、いや、その」
「やはりあいつの事が好きなんだろう!」
「だから推しは別なんだって!」
だめだ、堂々巡りすぎる。
ここはニウの辿り着いたとこでおさめよう。
「分かったから! これからニウが言えばいいでしょ!」
「初めからそう言えばいいんだ!」
「なにを偉そうに! 元はといえばニウの態度が問題だったのに!」
「それはヴィールが、」
「ああもういいから! ニウが満足する方でいいから! もうこれで終わりにして!」
「ぐ……」
「なに」
不服そうだな。
まあでもニウがやりたければやればいいし。
「……」
待った。
さっきの論点の到達点はどこだった?
推しに可愛いと言われる私が許せなくて?
ニウが私に言えばいい的な?
「え、ニウが?」
「……」
「ニウが私に可愛いって言うの?」
「……」
ここにきてニウも自分の発言に気づいたらしい。
口元を片手で覆って顔を真っ赤にしていた。珍しい、ここまで赤くなるの。
「ニウ」
「あ、いや、その……」
珍しく歯切れが悪い。まさかというかやっぱりというか、勢いのまま言ったの。怒りで目の前見えなくなるタイプとは思わなかった。
「あー、ニウいいよ? 無理しないで」
「そんなことは、」
「ニウからは可愛くないしか聞いてないしね? いいよ、無理でしょ」
「そんなことは!」
くっと歯噛みして、次に両手がゆっくり伸びてきた。
私の両頬を挟んで、少し上に傾かされる。ニウの顔はまだ赤かった。
「……」
「……」
「……ニウ」
かかる吐息が熱い。どうしよう、もしかしたら言ってもらえると思ったら途端期待している自分がいる。
私ったら、なんて現金なんだろう。ニウに言われたい、なんて。
「……」
「……」
「…………可愛い」
「ニ、ウ」
と、そのまま両手が肩に添えられ引き寄せられた。
ニウの胸に顔を埋める。
大きく一つ息を吐いて、さらに紡がれる言葉。
「可愛い」
「や、やめ」
言われ、ばくんと心臓が揺れる。鼓動が早くなって、その音が耳元で鳴っているみたい。
「……くそ」
悔しそうな囁きだった。何に悔しいのかはきけなかった。
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