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58話 論戦のち登場
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これは偽造ではと指摘する。元婚約者は一瞬言葉を紡ぐのを躊躇った。
よし、動揺した。
「ナチュータンについてですが」
「ナチュータン?」
「父が亡くなり私が継いですぐに、ロック・フォーフォルという身元の知れない人物が不当にナチュータン敷地内を占拠しているという情報が入りました」
それに反応を示したのは義理母だった。こちらは元婚約者も違って明らかに動揺している。強張った顔がいい証拠だ。
「私はナチュータンの権利を国に移譲します」
これには周囲もざわついた。
貴族にとって、所持する領地や資産は権力の象徴だ。自ら手放すなんてそうしない。
「その際の国の監査で、ロック・フォーフォルが偽造された契約書を所持していたという事実が明らかになりました」
「契約書……」
「お義理母様(かあさま)とロック・フォーフォルの間で結ばれた管理者権限を与えるという書面です」
「そ、それは」
「アレイン」
元婚約者が義理母が話さないよう諌める。けど前で呼んでいるあたり、元婚約者も焦っているのだろう。
今ここであまり知られたくない内容なのね。
「本来の管理者指名の権限は私にしかありません。他者が勝手をすることもできませんし、それは現行法では違法となっています」
「貴方の代理をしただけだろう」
「委任状もなしに本来受け付けることは有り得ません。仮に今回の契約書が通ったとしても、書面の受理後に国からの報告が、全権限のある私にあがるはずです。しかしそのような報告は一切ありません。加え、公にその契約書の一部が保管されていないのです」
本来一部国側が保管するはずの書面がない。これは移譲における監査報告で私の元に知らせが来ている。ロック・フォーフォルが管理者か否かの確認だ。
勿論それは否定して、国側にロック・フォーフォルを拘束してもらった。後は昨日届いたナチュータンの管理権限をニウが認めているかどうか。
早ければ今日帰宅する頃に一報入っているかもしれない。
「人がしている事ですので」
ここにきてヒューマンエラーを持ってくるということは、元婚約者は多少なりとも苦しい状況ということだろうか。
私一人でも彼らをどうにかできる?
「ロック・フォーフォルが違法に占拠していたナチュータンの拠点には、他にいくつか書面が見つかっています」
「それは」
「公爵閣下にナチュータンの生物を取引することを許可するものです。書面における筆跡は公爵閣下で間違いなく、それ以外の署名……王印と王のサインは偽造されたものでした」
「それは伯爵の研究への投資の為に必要な権限だろう。共同研究はかなわなかったことだが、そちらは通ったという事だ」
それに、と元婚約者は続けた。
「貴方の言う鑑定は公のものか?」
「……いいえ」
「ならばそれも怪しいものだな。王印や王のサインは特殊であり鑑定権限を持つ者自体限りを置いている。王都に控える鑑定係でない限り、結果の制度は劣るだろう」
それこそ、我々貴族をよく思っていない平民が鑑定したのなら結果に偏りが出るのでは? と元婚約者は言う。
その通りではある。正直、ラートステが言っていたのはこれだ。
王の印たる王印とサインの鑑定は民間が簡単にできるものではない。
うまいことこちらに流れを持ってきてたけど、そこに気付かれると痛いな。
「鑑定結果に偽りありとなれば、全ては貴方の自作自演となるな。目的は婚約破棄を逃れることか? それともこちらの財産を得て研究にあてるつもりか? ああ、研究の独占という事もありえるか」
「いいえ、違います。私は、」
「往生際が悪いな。子供の嘘にしてはまかり通らない年齢でもあろうに」
まずい。流れを変えられてしまう。いくらあちらが嘘を並べて誤魔化そうとしても、私が強く出られないところを突かれれば、周囲の認識も傾く。
今までの話から、ニウや推しあたりは気づいてくれるとは思うけど、できる限りやっておかないと。
「私は嘘など申し上げておりません」
「また貴方は」
「その通りだ」
よく通る低い声が響いた。
「ピュールウィッツ伯爵令嬢の仰る事は全て真実だ」
「っ……」
嘘だ。
いくら知っていたって、関わっていない。
顔も合わせていない。
今回のことの真実にもたどり着いていないだろうし、回答も得ていないのではないの。
なのに私の隣に立つのはなぜ。
「……ニウ」
会いたいけど、会いたくなかった人が、私の隣に立つ。
よし、動揺した。
「ナチュータンについてですが」
「ナチュータン?」
「父が亡くなり私が継いですぐに、ロック・フォーフォルという身元の知れない人物が不当にナチュータン敷地内を占拠しているという情報が入りました」
それに反応を示したのは義理母だった。こちらは元婚約者も違って明らかに動揺している。強張った顔がいい証拠だ。
「私はナチュータンの権利を国に移譲します」
これには周囲もざわついた。
貴族にとって、所持する領地や資産は権力の象徴だ。自ら手放すなんてそうしない。
「その際の国の監査で、ロック・フォーフォルが偽造された契約書を所持していたという事実が明らかになりました」
「契約書……」
「お義理母様(かあさま)とロック・フォーフォルの間で結ばれた管理者権限を与えるという書面です」
「そ、それは」
「アレイン」
元婚約者が義理母が話さないよう諌める。けど前で呼んでいるあたり、元婚約者も焦っているのだろう。
今ここであまり知られたくない内容なのね。
「本来の管理者指名の権限は私にしかありません。他者が勝手をすることもできませんし、それは現行法では違法となっています」
「貴方の代理をしただけだろう」
「委任状もなしに本来受け付けることは有り得ません。仮に今回の契約書が通ったとしても、書面の受理後に国からの報告が、全権限のある私にあがるはずです。しかしそのような報告は一切ありません。加え、公にその契約書の一部が保管されていないのです」
本来一部国側が保管するはずの書面がない。これは移譲における監査報告で私の元に知らせが来ている。ロック・フォーフォルが管理者か否かの確認だ。
勿論それは否定して、国側にロック・フォーフォルを拘束してもらった。後は昨日届いたナチュータンの管理権限をニウが認めているかどうか。
早ければ今日帰宅する頃に一報入っているかもしれない。
「人がしている事ですので」
ここにきてヒューマンエラーを持ってくるということは、元婚約者は多少なりとも苦しい状況ということだろうか。
私一人でも彼らをどうにかできる?
「ロック・フォーフォルが違法に占拠していたナチュータンの拠点には、他にいくつか書面が見つかっています」
「それは」
「公爵閣下にナチュータンの生物を取引することを許可するものです。書面における筆跡は公爵閣下で間違いなく、それ以外の署名……王印と王のサインは偽造されたものでした」
「それは伯爵の研究への投資の為に必要な権限だろう。共同研究はかなわなかったことだが、そちらは通ったという事だ」
それに、と元婚約者は続けた。
「貴方の言う鑑定は公のものか?」
「……いいえ」
「ならばそれも怪しいものだな。王印や王のサインは特殊であり鑑定権限を持つ者自体限りを置いている。王都に控える鑑定係でない限り、結果の制度は劣るだろう」
それこそ、我々貴族をよく思っていない平民が鑑定したのなら結果に偏りが出るのでは? と元婚約者は言う。
その通りではある。正直、ラートステが言っていたのはこれだ。
王の印たる王印とサインの鑑定は民間が簡単にできるものではない。
うまいことこちらに流れを持ってきてたけど、そこに気付かれると痛いな。
「鑑定結果に偽りありとなれば、全ては貴方の自作自演となるな。目的は婚約破棄を逃れることか? それともこちらの財産を得て研究にあてるつもりか? ああ、研究の独占という事もありえるか」
「いいえ、違います。私は、」
「往生際が悪いな。子供の嘘にしてはまかり通らない年齢でもあろうに」
まずい。流れを変えられてしまう。いくらあちらが嘘を並べて誤魔化そうとしても、私が強く出られないところを突かれれば、周囲の認識も傾く。
今までの話から、ニウや推しあたりは気づいてくれるとは思うけど、できる限りやっておかないと。
「私は嘘など申し上げておりません」
「また貴方は」
「その通りだ」
よく通る低い声が響いた。
「ピュールウィッツ伯爵令嬢の仰る事は全て真実だ」
「っ……」
嘘だ。
いくら知っていたって、関わっていない。
顔も合わせていない。
今回のことの真実にもたどり着いていないだろうし、回答も得ていないのではないの。
なのに私の隣に立つのはなぜ。
「……ニウ」
会いたいけど、会いたくなかった人が、私の隣に立つ。
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