旦那様を救えるのは私だけ!

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19話 フラグを回収する必要はなかった

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 ここはやはり私の出番。

「クラシオン、駄目だ!」

 旦那様に手をとられる。
 剣も持たない目の前の人物はエスパダではない、旦那様だ。
 多少のずれはあったけれど、これはアルコ回で間違いないから、エスパダと戦う必要はない。
 やはりここは私の出番なのだわ。
 魔力操作で旦那様の拘束から逃れた。
 バチリと静電気のような音がした。

「私、いきます!」
「クラシオン!」
「変身!」

 ボックス席から飛び降りる。
 ふわりと観客席背もたれに足を着き、フレチャと向き合った。

「げ、出た」
「あ、アルコの言ってた」
「愚かなる者よ、貴方達の思い通りには、っ!」

 口上の途中で、フレチャが手に持っていた件の爆弾魔法を投げつけてきた。
 ああもう、口上は最後まで聞くのが礼儀というものなのに。
 避けるわけにもいかない魔法を強化を強めて受けきった。

「頑丈だな」
「戦士はこの程度の攻撃などききません!」
「ふーん」

 口上は諦めよう。フレチャが動く前に、こちらが動いた。
 瞬時に肉薄、拳を振るえば、両手でそれを受け止められる。
 それが合図だったとばかりに、一つの扉から警備隊が突入した。
 爆発がなかったあたり、魔法を相殺した上で入ってきたのね。
 警備隊が誘導している様を見て、今の私の役割が陽動だと察した。

「それもまた戦士の役割!」
「なんのこっちゃ」

 フレチャは私のスピードにも強さにも相対している。
 どれもオスクロによるものだろうけど、あまり酷使しているとアルコ同様危険だ。
 アルコにもフレチャにも、その兆候はまだないからいいけど、魔力の使い過ぎを止めないと。

「降伏して下さい!」
「はいそうですかってするかよ」

 舞台上の攻防の末、フレチャが急に距離をとった。

「クラシオン!」

 旦那様が私に駆け寄ってくる。
 このまま来たら危ない。

「いけません、旦那様!」
「何を」
「帯剣をしてない旦那様が戦いの中にいる時は、フラグが立ってしまうのです!」
「ふ、ふらぐ?」
「ここは私にお任せを!」

 無理だと旦那様が訴えたけど、聞かなかったことにした。
 だってこのままだとエスパダ最終戦を迎える前に、エスパダ最終戦直後の話がきてしまう。
 いいえ、場所が違うから大丈夫だとは思うのだけれど、油断は出来ない。
 私が正しく目覚めなかったから、スプレとスプリミが混ざっている挙げ句、要所要所で物語の展開が少しだけ違う。
 フレチャがここに現れるのもまた同じ。アルコがいるから、大筋は通っているけど、フレチャという僅かな違いがある。

「クラシオン!」

 アルコが騎士から逃げながらも右手から、フレチャが正面から件の爆弾魔法を投下してきた。
 この量、感じる魔力から分かる強さ速さ正確さ、一段階違うレベルに、さすがオスクロの強さだと感心してしまう。
 その全てが私を狙って。
 今なら間に合う。そう思った時、視界が塞がった。

「え?」

 すっぽり包まれるぐらい大きな身体。
 社交界とか観劇とか、そういう時にしか感じられない上品な香り。

「旦那様?」

 より力が入った。
 抱きしめられている。
 旦那様に。
 信じられないという思いと嬉しさに、お腹の奥からじわじわ感情が競り上がってくる。
 くらくらした。
 けれどそんな思いに浸れる暇もなく、アルコとフレチャの放った魔法が、途中から爆発し始める。
 その音が近づいてきて、我に返った。

「いけません、旦那様!」
「動くな、クラシオン!」

 旦那様とて、むやみに飛び込んだわけではないことは分かっていた。
 魔法を駆使して二人の攻撃を防いでいたけど、フラグ通り、それは破られ旦那様の背に突破した残りが当たった。
 旦那様が唸るも、私を抱きしめる腕を離すことはしない。

「旦那様!」
「ぐっ……」

 崩れ落ちるも膝で立つ旦那様を、同じように膝をついて屈んで支える。
 腕の力は弱まり、僅かに片腕が私の腰に回っている程度だった。

「おい、アルコ?!」

 爆発の最中に何があったかは分からなかったけど、旦那様の肩越しにアルコを抱えるフレチャが見えた。
 抱えられたアルコはだらりとして、鼻と口から血を滴らせていた。
 反動だわ。

「チッ」

 再度爆発を起こし、その隙にアルコとフレチャは逃げ出した。
 警備隊の声が響く。その怒声が近いはずなのに、遠くに聞こえた。
 そして旦那様が身体を震わせ、私は我に返った。
 そうだ、今は旦那様が。

「旦那様、お怪我を」
「大したものではない」

 背中の怪我の程度を確認したいけれど、旦那様を支えている手前、それが出来ない。
 ああ、やはりこの話もやってきてしまうの。
 出来るなら避けて通りたかったのに。

「旦那様、このフラグを回収する必要はなかったのです!」
「は?」
「スプレ第二十六話 癒しの輝き! エスパダの愛! に加え、スプリミ第十六話 超えろ! 心の光、悪を討つ! で、二回も旦那様は敵の攻撃を受けるのですよ?!」
「そこなのか……」
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