旦那様を救えるのは私だけ!

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37話 戦士四人の必殺技

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 溜息を一つ、伏せがちだった瞳がすっと上がると、もうそこにいるのは騎士だった。
 旦那様は状況を把握した後、素早く指示を出し、目線だけで私を路地裏に案内する。
 意図を把握した私は、強化の後、三角飛びで屋根の上へ。同時、変身も済ませた。
 旦那様が私の後を追って屋根の上に到達する。

「旦那様」
「騎士達が二人をこちらに誘導している」
「成程、迎え撃てばいいのですね」

 程なくして現れる二人の泥棒。
 驚くことなく私と旦那様を見とめて、逃げられる距離で足を止めた。

「アルコ! フレチャ! 貴方達を見過ごすわけにはいきません!」
「お、本当に出た」
「まじだ」
「?」

 攻撃を仕掛けてきたのは、アルコとフレチャだった。
 二人の攻撃を躱し受け、両腕で防ぎながら受け止めると、その力の強さに飛ばされる。

「クラシオン!」
「大丈夫です!」

 旦那様が間に入ってくれる。
 明らかに二人の強化がおかしい。さらに強くなっている。
 旦那様への魔法の攻撃だって威力が違うわ。
 それに。

「震えていたわ……」
「なんだ、嫌に強いぞ」

 旦那様が魔法を繰り出すことによって距離が離れる。

「旦那様、早く終わらせないと」
「どういう事だ?」
「二人の身体が限界にきています」

 身体が見合わない力に悲鳴を上げている。
 時間がない。なのに、そこまでするなんて。

「何故そこまで」
「あんたをどうにかしないとなんだよ」
「私?」
「危険なんだと」
「オスクロね……」

 ついに戦士に狙いを定めてきた。それは仕方のないこと。けど、二人が使い捨てになってしまう前にどうにかしないと。
 その拳を受ける度に、ぎしりと身体が軋む音がする。危険だわ。骨や内臓から壊れる可能性もあるのに。

「旦那様」
「どうした」
「四人の必殺技をやります」
「え?」
「四人の必殺技を」
「クラシオンしかいないぞ?!」

 今のアルコとフレチャは危険だわ。
 強化の度合いをさらに上げて、身体が壊れてきているのに、突っ込んでくるような戦い方までして。
 ここまでくると、私単体の必殺技では通用しない。
 なら、戦士四人が揃ってこそ出来る大技をするしかない。

「やります」
「え?」
「この場にいなくても、皆は私に力を貸してくれるのです」
「はい?」

 もちろん、いつでも出来るように用意はしてあったわ。
 やるしかない。出来るわ、今まで全て成功してたのだもの。

 カッ

「四人の光を一つに!」

「げえ、また何か変なこと言ってきた」
「クラシオン?! ああくそっ」
「ちょ、」

 旦那様が剣を屋根に刺すと、稲光が巡り二人を拘束した。
 洗脳が解けた旦那様はすごいわ。

 パアン!

「駆け抜ける正義の心!」

「おっさん、なんでこんなのに付き合ってんの」
「おっさん?!」

 ドオン!

「癒し切り裂く愛の力!」

「てか、これが危険人物て」
「ある意味危険じゃん」
「んなこと言ってる場合じゃねえよ」
「これどうにかしねえと」

 ダアン!

「共に明ける慈愛の希望!」

「逃さん」
「おっさん、なんなん?!」
「私はおっさんではない!」

 ピシャーン!

「未来の輝き、今ここに!」

「げえ」
「間に合わねえ」

「アオーラ・フィナル!!」

 ドーン!

「くそ、防ぎきれねえ」
「耐えろて」
「む、無理っ」
「押し切ります!」
「ええ……」

 ドゴーン!

「成敗!」

 バーン!

「クラシオン、無茶を……」
「いいえ、離れていても心は一つ。だからこそ四人の必殺技が可能になるのです」
「そうか……」

 必殺技は二人の魔法を打ち消し飲み込んだ。その衝撃でアルコもフレチャも目を回して倒れていた。
 よかった。このまま酷使し続けていたら、今度こそ血を流す程度ではすまない。それこそ、命の危機だった。

「二人を捕らえる」
「はい」

 旦那様が騎士を呼んで、二人の元へ。
 これで四幹部の内、二人が退場した。後はサンドグリアルを倒し、エスパダの洗脳をどうにかすれば、オスクロ戦だわ。

「!」

 とん、とまたあの杖の音が聞こえた。
 あの時は気づけなかったけど、その音が魔法なら、注意していれば起こる場所とタイミングが分かるはず。

「旦那様、アルコとフレチャを離さないで下さい!」
「え?」

「スプレンダー!」

 ピシャーン

「え?!」

 戸惑いつつも二人を捕らえたまま動かない旦那様を見て安心する。
 前と同じ、二人の付近を爆発して煙に巻こうということね。

「カリド・アリビアド!」

 ドーン

 爆発は対した規模と威力ではない。私の必殺技と相殺させれば、煙は上がらず、先にいる旦那様が驚いているだけ。
 これでアルコとフレチャは大丈夫。

「杖の音」

 よく分からないけれど、相手はこれ以上、動くことも魔法を使う気もない様子。
 なのに、杖の音は静かに三回ほど奏でられた。ここにいるとでも言うように。

「サンドグリアル」
「どうした?」
「スプレ四幹部最後の一人がいます」
「どこに?」

 周囲に悟られないようにするためか、目線だけを鋭くさせる。
 続く杖の音、固い地面。材質は、この街で二箇所にしか使われていない硬度の高いもの。
 距離を考えたら、王室管理の公園の広場。

「行かねば」
「待て、クラシオン!」

 旦那様の声遠く、私は屋根から飛び降り、杖の音の場所へ向かった。
 公園はすぐ。その広場の中央に、杖を持つ人物が静かに佇んでいた。

「ああ、やはり」

 図書館の棚の隙間から見たから分かってはいたけど、こうして目の当たりにすると不思議な気持ちね。

「大宰相、貴方でしたか」

 気づいた杖の主が僅かに眉をあげた。
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