旦那様を救えるのは私だけ!

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50話 エロ同人みたいなことするのが夢

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「てぃ、てぃあちゃん?」
「フスティーシアのことでしょうか?」
「そうだよ!」
「え?」

 オスクロが怒りを顕わにしている。どちらかいうと、癇癪に近い気もするけど。
 フスティーシアの愛称はティア、テレビの向こうの私達も彼女の事をそう呼んでいた。何故、オスクロが知っているのかしら。

「スプレもスプリミも本当の話だったのか」
「なんで五人揃ってないんだよ! 俺、時間稼ぎかなりしたのに!」
「え?」

 戦士が五人いることまで知っている。いいえ、まさか。

「貴方も、転生者?」

 オスクロが憤慨したまま話し続ける。旦那様はやや引き気味だった。

「ああそうだよ! 転生前の俺の推しはティアちゃんなんだよ! リンたんも推しだけど、最推しはティアちゃんなわけ!」
「り、りんたん?!」

 旦那様の驚きよう、仕方がないわ。私が転生前の記憶の話をした時も同じような反応だった。

「くっそ、どうして揃わないまま、ここまで来ちゃったんだよ! 仲間集めろよ! 五人の必殺技出してる場合じゃないだろ! しかもスプレ三十話までこなしやがって!」
「あら、見ていたのですか?」
「俺、この国で一番強い魔法使いだからな? 洗脳されかけてる他人の脳内見るぐらいワケねえし」

 魔法のかかった他人の脳内を見られる力の強さもさながら、私が私自身と戦ったスプレ三十話まで把握しているなんて。転生前のオスクロの記憶もかなり鮮明なのだわ。

「い、いや、待て。クラシオンをリン呼びするなんて、いくら魔術師長でも」
「うっせえリア充!」
「りあじゅう?」
「俺、お前嫌いなんだよ! そもそも男で既婚者なんて用ねえし!」
「え、ええ……」

 あら、テレビの向こうの旦那様は視聴者から割と人気だったのに。オスクロは気に入らなかったらしい。確かに女性人気が強かったかしら。
 オスクロの敵意を越えた視線に旦那様もたじろいでいる。そういえば、転生前の記憶の少女の親御さんが見ていた画面の向こうで、旦那様はよくリア充と言われていたわね。ヘタレだのお約束だの残念なイケメンとも言われていた気もするけど、伝えるべきかしら。

「元々俺、箱推しだから、リンたんも推しだけどよ! スプレ、スプリミのティアちゃんはラングシリーズの中でも別格なんだよ!」
「ええ?」
「確かにフスティーシアは勇敢で可憐で、とても優しくて、ドジなところもあるのに、私達を引っ張ってくれる男気もあって、それでいて意地っ張りで」
「そう! そうなんだよ! お前、そんなにティアちゃんのこと分かってるのに、なんで連れて来ないんだよ!」
「それは無茶かと……」
「社交界も劇場もサンドグリアル経由して、アルコとフレチャだって使ったのに、お前だけだしさあ! あれはティアちゃん回だろ!」
「確かに仰る通りです」
「そこ認めるのか?!」

 旦那様には説明しましたと静かに応えると、旦那様がまあそうだったがでも、と、しどろもどろになっている。今はオスクロとの対話を進める時だわ。旦那様への詳しい説明は後にしましょう。

「フォーレだって、なんだかすぐやろう感あるから何度も止めたしさあ! わざわざオスクロがいるってアピール、図書館でやったのに! お前らさくっと二十六話超えるし! いや生誕祭あったから二十一話は避けられないと思ってたけどさあ! そんなすぐに二十六話超える必要なかっただろ! 止めに行ったら既に終わってたし! リア充のいちゃつく現場なんて見たかねえんだよ!」
「み、見ていたのか……」
「リア充黙れ。俺お前嫌いなんだよ」
「大事なことなので二回言うのですね」
「言う必要ないだろう?!」

 はしたなくも私から旦那様にキスしたところを見られていたのは恥ずかしいけど、あれはもう仕方のないだわ。だって旦那様の洗脳が解かれた時だったし、ずっと求めていたことを望まれたんですもの。ああ、あれから愛していると言葉にしてくれているけど、キスはあれきりだわ。

「洗脳しなくても夫婦仲やばそうだったから、放っておいてもいいかと思ってたのに。あーもー! ティアちゃんいないと全然潤わねえ!」
「ま、魔術師長、貴殿の言う国の支配は、嘘ということか?」
「いや? 転生前の記憶が甦る前は、きちんとこの国落とそうと思ってたさ? フォーレは戦争あれば何でも良しだったから同盟組みやすかっただけ。記憶が起きたらティアちゃん一筋になっただけで、国の支配だとか落とすとか、そういうのは諦めてないけど?」

 オスクロの殺気に周囲に一気に緊張が走った。周囲の空気を一気に変える。

「やはり貴方は敵ですね」
「オスクロなもんで」
「名が既に最終形態であるノッチェオスクラであるなんて……確かに貴方を倒す事は、フスティーシア達がいなければ成し得ないかもしれません」
「今からでも待ってるから、ティアちゃん探してきてくれよ」
「いいえ、皆は遠くでも私の味方です。力をいつもくれるのです」

 それは四人の、五人の必殺技をした時に分かったことだわ。私達はどこにいても仲間であり、戦士。不可能なことなんてない。
 私の返事に再び不機嫌になったオスクロは大きな舌打ちをして目を細めた。

「じゃーもーこの国おとすわ。ティアちゃんにエロ同人みたいなことするのが、今の俺の夢だったけど、もう記憶戻る前の夢だけでも叶えることにする。その後ティアちゃん探すわ」
「えろどうじん?」
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