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24話 狩猟大会 後編

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 どうやら山を越えた先の国から迷い混んできてらしい。山を越えるほど歩くこともないはずだが、薬草探しに山に入りどんどん深く進んでしまい偶然が重なったということだった。

「こちらで子供たちを送ろう」
「ありがとう。あの子達の国は?」
「ステラモリス公国、北に進んだ山中にある小さな国だな」
「成程」

 大会主催の皇弟直属の騎士が見送りをと子供を連れていく。去り際側に来て感謝の言葉をもらった。

「きしさま、ありがとうございます!」
「ええ、これからは気をつけて」
「はい!」

 まだ小さいのに薬草を探すとは何か事情があるのだろうか。

「ステラモリス公国は子供が薬草を扱うの?」
「公国は医療と農業に強い。この森に近い南側は医療の拠点もあるからその為だろう」
「そう」
「公国には俺達に近い年齢の公女殿下が一人いらっしゃる。今後会うかもしれないな」

 少し年下の殿下がいるらしい。一瞬レースノワレの王女殿下が頭をよぎった。

「そういえば、ヴォックスは獲物を捕らえたのか?」
「ああ、俺はあれだ」

 馬に乗せていたヴォックスの獲物は大きな銀色をしていた。

「銀色の狐」
「ああ。ユツィはあの雄鹿か」

 ヴォックスが私の獲物を見た後、こちらを見下ろす。

「獲物を肩掛けにしてユツィに贈ってもいいか?」
「……ああ、かまわない」

 ふと名案が浮かぶ。

「私もあの鹿の毛皮をつかって君になにか贈ってもいい?」
「え?」
「皇族のマントはテンの尻尾だろうから、それとは別のものにすればいいかなと思って」
「……」
「ヴォックス?」

 黙り込んだヴォックスからどこか嬉しそうな雰囲気を感じる。

「ヴォックス?」
「……あ、いや……いいのか?」
「折角だし」
「……嬉しい」

 楽しみにしている。
 そう言って笑うヴォックスがあまりにも嬉しそうでこちらが戸惑うことになった。

* * *

「ユツィの雄鹿の角は次回の優勝杯に使われるらしいな」
「もう聞いたの」

 出来上がりを渡し合う日となった。
 帝都の職人に任せたら仕事は早いわ出来がいいわで文句のつけようもない。

「ぴったり」
「普段から頼んでいるからサイズは知っているだろうしな」

 花が溢れる別棟、我々の新居で渡したから早速羽織ってもらった。いくら大きい雄鹿とはいえコートにできるほどではなかったので重ね着前提の肩掛けだ。冬場はマントやコートの上から飾り程度につけてもらえればアクセントにはなるだろう。

「ありがとう。大事にする」

 笑う姿があまりに嬉しそうでこちらも笑ってしまう。普段あれだけ冷静にいるのに子供のようだ。

「ユツィ、これを」
「ありがとう」

 銀色の狐は首巻きとなっていた。大きい狐だった分、充分に巻ける。

「これがあれば私でも立派な貴婦人に見えるかな?」
「? ユツィは元々貴婦人だろう」

 巻いた姿を見せておどけてみせても真面目に返された。さすがだ。苦笑が漏れる。

「なら、その時がきたらエスコートを頼むよ」
「!」

 目を開いた。驚くことでもないのに、息まで僅かに詰め、その後綻ばせて頷いた。

「君に似合うと思ってたが、想像以上に似合ってて良かった」
「そう?」
「今度、遠乗りに行こう」
「そうだね」

 ヴォックスの様子にこちらも笑みが溢れた一瞬、あの日のことを思い出す。
 殿下を逃がす為に離れたことは本当に良い判断だったのか。どちらにしても追い付かれてヴォックスと戦うのは目に見えている。ヴォックスの相手をすると他に助けはやれない。となるとヴォックスとの戦いに集中できる選択は良かったといえる。

「ユツィ?」
「……あ、なんでもない」

 ヴォックスは私に誠実に向き合う。毎日なにかしら贈ってくるし笑いかけてくれる。グレース騎士学院にいた頃とは全く態度が違った。あの頃の方が気の合う同期生でよかったかもしれない。

「君には辛い思いをさせたと思っている」
「ヴォックス?」

 一度躊躇うもゆっくり私のこぼれた髪を耳にかけた。目を細めるその中の光が揺るがない。

「もう少し待ってほしい」
「待つ?」

 待つのはヴォックスの方だ。
 私の気持ちが腑に落ちるまで待つと言ったのは彼で、その為に日々歩み寄ろうと態度に示してくれている。

「もう一度きちんと君に想いを伝える」
「充分理解しているし、告白だってあるし」

 毎日愛を囁かれるのは恥ずかしくて私が無理だから数日に一度になっているけど、それでも充分伝わっているし待ってももらっていた。これ以上ヴォックスが何かする必要はないはずだ。

「……それでも」

 静かに上半身屈み、顔を近づけた。
 米神に柔らかい感触。

「え?」
「俺がやりたいから、きちんとやる」
「え?」

 するりと銀色の巻物をとって自身は黄金色の肩掛けをとってコート掛けに置いて扉を開けた。
 何事もなかったかのようだ。

「仕事だ、行こう」

 背を向けたヴォックスが囁いた。

「あと少しで纏まれば君に言える」
「ヴォックス?」
「……行こう」
「ええ」

 なにかを決めたのだろう。全く揺るがない姿に瞳を伏せる。対して私はぶれてばかりだなとふと思った。
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