敵で好敵手の想い人に褒賞で婚約させられた私【元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女 外伝】

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29話 理由をききたい

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 自分でも分かるぐらい動揺した私に、変わらない眉間の皺のヴォックスが追及してくる。

「口付けした理由をききたい」
「そ、それどころじゃ」
「何故だ」
「ああもう!」

 罠はなくなり、矢が途絶えたと思ったら敵が直接現れた。もうすぐ辿り着けるというところなのに。

「後で話す!」
「今きく!」
「なんで?!」

 挑んでくる敵を切り捨てて先に進む。相手の罵声を聞き流しながらヴォックスの言葉を懸命に拾う。
 駆ける速さだけが増して後続がお待ちくださいと叫んでいるが無視した。

「今まで触れることすらなかった」
「そういうことは大きな声で話さないで!」
「なんで急に口付けするんだ」
「馬鹿、相手に聞こえる!」

 すぐさま意識を落としているから聞こえていないと信じたい。戦いの現場で男女の恋愛の痴話喧嘩を聞きたくもないだろう。
 けどヴォックスはめげないし引かない。

「死ぬつもりだったのか?」

 だから最後の手向けに? と鬼気迫る顔で尚も私の傍を離れない。

「そういうわけじゃくて!」

 その思いがなかったとは言えないが、死ぬつもりはないし負けるつもりもない。殿下のことを思い出すことが多かった最近、殿下の言葉を反芻しつつ実践しただけの話で。

「誰かに強制されたのか?」
「そんなわけない!」

 ああこれは言い訳か。浅ましい想いを自分の中で消化できなかった自分の問題かな。想いだけがただ先行した、それだけ。
 それを話そうにもヴォックスは敵をぶん投げながら叫ぶ。

「気持ちをきいていない!」
「え? きいてたら?」
「やぶさかではない!」
「ええ?!」
「なのに何も言わずに口付けるなんて……」

 何故だと叫ぶ。
 ああもう。確かに魔が差したし、戦いで誤魔化そうとした。でも今なんで危険を顧みず追及してくるのか。

「こ、の」
「ユツィ!」
「大馬鹿もの!!」

 一太刀で複数人吹っ飛んだ。

「ユツィがいけない!」

 ヴォックスの一太刀で再び数人が降っとんだ。

「今は無理! 後で話す!」

 進む。

「嫌だ!」

 絶対に今だ、と叫ぶ。
 敵陣形中枢に到達した。

「それで騎士全体を巻き込むな!」

 剣を振るえば数人ぶっ飛ぶ。ヴォックスも同じように吹っ飛ばしている。

「後ろの騎士達には待機を命じた!」
「従うわけないでしょう!」

 単身でトップに立つ男が出ていくときいて、待つだけの騎士がいるものか。引き連れていくならまだしも、ただ待つだけなんて戸惑うだけだ。
 と、敵陣形が崩れた。

「期待するだろう!」
「はあ?!」

 再びふっとぶ。先ほどの倍ほど飛んだ。

「気持ちがあると思うだろう!」
「ああもう!」

 敵の剣を奪い投擲する。台座でも用意していたのか、高い所にいる敵の長とおぼしき頭部の武具に当て気絶させた。

「ユツィ!」
「ヴォックスの思う通り!」
「え?!」
「気があると思っていい!」

 私の言葉を最後、戦いは終了した。

* * *

「だ、だんちょ……副だ、んちょ」

 後続が追い付いた。

「まさかお二人で全滅させるなんて……」
「あー……色々ご迷惑かけて申し訳ありません」
「いえ、その、分隊長が的確に指示をして下さいましたので」

 ヴォックスの直属、五人の精鋭の内の二人か。
 見れば捕虜の捕縛やこちら陣営を整える為に指示を飛ばしている。

「優秀だな」
「話は終わっていない」

 真面目な顔をしてヴォックスが私の手首を掴む。これはもう離してくれないな。

「団長と話があるので少し時間を下さい」
「はい」

 指示はヴォックス直属の五人に任せて人気のない場所まで移動した。

「ヴォックス、冷静になって。ここは戦場で、」
「戦いは終わった」

 話してとせがむヴォックスにありのまま話すことにした。好きだとはっきり言えない。気持ちはあるけど、我慢出来なくてああして出るけど、まだ決められないと。

「……踏ん切りがつかない。だからヴォックスへの返事はできない」
「ユツィ」
「私は自分を許せない」

 生きろと言われ命令通りに今ここに命があっても私は私を許せない。殿下を守れなかった自分に価値はないと思っている。たとえ多くの命を救えても、殿下を守れないと意味がなかった。

「それは俺との婚姻が嫌でないということか?」
「……嫌じゃない。さっきも言った通り、気があると言えばあって……」

 観念するしかなかった。私はヴォックスのことが男性として好きではあるが、その気持ちを許していない。

「俺に気持ちがあると?」
「ええ。でもまだ向き合えない」
「構わない」
「え?」

 ヴォックスから眉間の皺が消えていた。真っ直ぐに見下ろしてくる。

「待つと言った」
「ええと……」

 待つも何も応えられないのに?

「安心した」
「?」
「あのまま死にに行くと思ったから」

 その気持ちがゼロでないことを見抜いていたのだろう。自決できないなら戦場で死ぬ。そうすれば周囲も自分も納得できるのではと思っていた。

「……誤解されないよう気を付ける」
「ああ。そうしてくれると助かる」

 心配性なんだからと笑うとヴォックスが眉を下げた。

「ユツィがどこかにぱっと行って、そのまま消えてしまいそうで不安になる」
「放浪癖はないよ」
「分かっている」

 ああだめだな。応えることが出来ないと言っているのに撤回したくなる。

「……私達がよぼよぼの年寄りになってから返事をする事になっても待っててくれる?」
「構わない」

 即答だった。
 本当にこの男は真面目すぎる。それに甘えているのは私だ。

「考え続けるなら死なないしね」
「ん?」
「戦場は必ず生きてヴォックスの元に戻ろう」
「一緒に戦場に出て一緒に戻ればいいだろう」
「はは、そうだね」

 手首を掴んでいた力が緩められると同時、するりと指先を絡めて手を握ってくる。ゆるいのに離せない強さで重なる手が熱かった。
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