退役して復讐しようとしたら告白を受けた

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「復讐なんて止めておけ」
 あぁ、わかってるさ。

 続く熱に魘されながら、気持ち悪さに目を覚ます。
 まだ生きている。
 発熱、頭痛、眩暈、嘔吐……呼吸困難は峠を超えたからもう発作はないだろう。
 内臓にも損傷がなかった。指先に痙攣も見られたが、こちらもまた症状は緩和されてきている。
 おかげで自力で動けるに至った。
 我ながら体の頑丈さに感心する。

 今この生かされてる現実、間違いなく成し得ていいということだ。
 復讐を。

 丘の上に立つ私の家は1人住むには大きすぎる。
 元々どこぞの金持ちが丘一体の土地を買い占め、立てた娯楽だ。それを私は好意で売渡してもらい、馬鹿に広い家に住んでいる。
 なにせ見晴らしがいい。
 丘の上から覗く街並み、私のかつての仕事場もよく見える。
 そしてここに来る者、様子を伺う者もよく見える。
 私にとって非常に好都合な立地だ。

「……」
 呼び出し音が鳴る。
 家の扉前に設置した監視カメラの映像を部屋の画面で確認する。
「よう、少佐」
 目の動き、今日も問題がない様だ。
「あぁ、入ってくれ」
 コンピューターの操作一つで扉のロックが解除される。
 見た目は古めの洋館だが、私好みに改造し、今や最先端の防犯設備を兼ね備えた空調も快適な家になっている。現役時代はそこまで手が回ってなかったが、何の因果かこうして倒れる前にはオーダー通りの家になった。
 不思議なものだ。

「だいぶ良くなったようだな」
「お陰様で」
 入ってきた青年はまだ少年さを残したまま。
 それでも立場はこの国の軍医、研修生ではあるものの、入隊は確実に合格すると言われている逸材だ。
「相変わらず、俺1人でいいのか?女性医師と女性看護師もつけられるぜ」
「信用できる者しかいれる気はないさ」
 例え、私が女性で君が男性であっても。
 男女の差ではない。信用性の問題だ。
 倒れた時から世話になっている。ここまで回復するまでに時間を要したが、ノアから言わせれば驚異の回復スピードらしい……今一つ実感がわかないが。
「歩けるようになったなら、次はリハビリだな」
 禁断症状も出ていないようだしとノア。
 私が倒れた原因は毒だ。
 軍に所属する私が毒で倒れ、生死を彷徨い、結果退役している。なかなか笑える話だ。
「リハビリね…」
「あんまりはしゃいで街に出ないようにな」
「おや、距離としては丁度いいと思ったんだが」
「最初は敷地内にしとけ。というか本来は室内からだろ」
 それもそうか。
 身体さえ動いてしまえば、こちらのものだと思っていたが。
 医師の立場からすると、ゆっくり長く治療をしたいらしい。
「少佐は身体が動けば無茶するからな」
「…少佐ではない」
 退役したからな、と添えると、眉を八の字にして笑う。困っているというよりは呆れているようだ。
 これもまたいつものことだから、そんなに気にも留めてないが。

 ノアは私が復讐のために早くに動きたいということを知っている。
 誰が私を陥れたのか…もちろん知っている。
 陥れるために私の大切な部下を使ったことも知っている。
 私は知ってて敢えて毒を飲んだ。
 そうすれば部下は安心する。
 何で脅されているのかは前より調べていたので知っていたし、それを解消する為に裏で調整もしていた。
 ただ間に合わなかった。
 だからこそ私は毒を飲むことを選んだといっていい。
 死ぬことも念頭に入れていたが、毒性が強い割に運良く私は生き残った。
 しかし残念な知らせがあった。
 私に毒を盛った部下は死んでいた。
 自殺に見立てられて殺されていた。
 当然そうならないように私は信頼していた同僚にある程度のことを頼んでいたし、私自身も最善を尽くし備えてい たのだが、こちらもまた間に合わなかったようだった。
 同僚を責めるわけにもいくまい。
 私の見落としの責任もある。
 だが、すべてを許すわけではない。
 私を殺したいにしても部下を使って自分の手を汚さないようにしようとするところ、部下を無残に殺したこと、部下の家族までにも手をかけようとしたこと…許すわけにはいかない。

 私の大切な部下だった。チームの中ではなかなか正直で女性と言うよりはまだ少女といった雰囲気があり、丁寧な仕事ぶりで周囲からの信頼も厚かった。可愛い子だった。
 私が生き延びた以上、タダでのうのうと生きていることは許さない。
 私が死んで責務を果たせないなら、復讐を成し得る形で責務を果たそう。
 なにせ、私はもう退役した身。何にも縛られることもない。
 最も、私がしぶとく生き残っていることを耳にして、あちらも動いてくることではあろうが。

「あぁ、そういや、ミラン大佐が相変わらず心配してたぞ」
「そうか」
「俺も大佐も言ってるだろ。復讐なんて止めておけって」
「あぁ、そうだね」
「俺も大佐の意見に賛成だな」
「……私が人の言うことをきくように見えるか?」
「残念ながら」
 そう言って互いに笑う。

 冗談交じりのようではあるが、実際私は本気なのだから性質が悪いのかもしれない。
 毒を浴びても生きてることを確認できたあの日、すぐに部下の死亡を聞かされた。
 こんな時だけ奴らは迅速だ。腹立たしいことに。
 私はただただ同じことだけ呟いた。喉は爛れ、息をするにも痛みを伴うところで、声すらも出せないだろうと言われてた中。
 殺してやる。
 と、ただただ同じことだけを発していた。
 当然、それを見ていたノアとミランは私がそう言うことを理解していたのだろう。
 止めておけと口を揃えて言う。
 意味がないと。
 例えそうだったとしても、私は私自身を納得させるためにやりきるのだ。
 それが意味をなさないことだとわかっていても。
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