退役して復讐しようとしたら告白を受けた

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9話

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「そうか」
 いけない。話しすぎたか、我に返る。
 側で話を聞いていた大佐は面白がって笑うことはなかった。
「なるほどな」
 ノアに彼女への思いを話したときは、すぐに話が通じた。あれは全部彼女のおかげだということはあの頃ノアに話していたから、すぐに合点がいったようだった。
 そも、ノアが彼女の巡回をしているのはこのときのことがあったからだ。
 私が先駆けて入隊し、無自覚ながら話していた彼女のことを研修医になりすぐに気づいたと。ノアからあの時のことは話してないとは言っていたな。
「あの頃の騒ぎはそこだったか」
「騒ぎ?」
「薬瓶の持ちだしさ。アリーナが自分からやったと言っていたが、当時不可解だったからな」
 やはり問題にはなっていたか。純粋に迷惑をかけてしまって、申し訳ないに至る。
「なに、あいつは士官学校時代から自由人だったからな。そのへん周りはさして気にしてなかったぞ」
「ありがとうございます」
「にしてもなあ、あいつは忘れてそうな話だな!」
 お前への態度を見ても、と大佐。
 確かに一瞬でも覚えてくれてないだろうかと思ったことはある。
 自分が士官学校に在学してた時に臨時講師としてきた時も、入隊して新兵教育の場で相見えた時も、戦場で合流した時も、彼女と再会する度に思い出してほしい気持ちはあった。
けれど。
「過去を思い出してほしいわけではありません。私はただ……」
 彼女の気持ちが自分と同じであれば。
 それだけを求めることは多くを求めていることになるのだろうか。

「なあ、ルーカス」
「はい」
「あいつが退役してもやらかそうとしてることは知っているな?」
「……」
 黙って頷く。
 こちらとしても情報はある程度仕入れている。
 何をそんなに焦って身体を取り戻そうとしているのか、瞳の奥がなぜ光がなく沈んでいるのか、毅然としているのに戦場に立つような覇気がないのか。
 何かが違うと感じて調べ、結果、彼女がしようとしてることに辿り着いた。
「私は彼女のしようとしてることを止められるでしょうか」
 私は自分の気持ちを伝えたかった。最初はそれだけだった。
 今はもう彼女からの気持ちが欲しい。会う度にそう思う。
 だから、彼女には復讐など実りのないものは止めてほしい。
 あぁ、私は復讐にまで嫉妬しているのかもしれない。我ながら欲深く子供じみている。
「さあな。ただ俺の感は当たるんだぜ」
 とびきりの笑顔だ。
 彼がこの顔をするときは、よからぬ企画をするときか、本当に成功する作戦が実行されるかどちらかだ。後者であることを祈ろう。
「はは、善処します」
 こんなところで挫けぬものか。ここまで来たんだ。
 残ったコーヒーを煽ると、すっかり冷え切っていた。けれど、それで逆に目が覚める。
 明日は彼女に会う日だ。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


「お姉さん!」
「やぁ、よく来たね」
 迎え入れるのは先日知り合った可愛いらしい少女。まさか本当に来るとは思わなかった。
 尾行られてもいないようだし、少女のバイタルにも問題ないことから純粋に訪問して来たことがわかる。
 何にも巻き込まれてないことにほっとしつつも、しかし、こうなってくると守りと言う名の監視人物が増えることを危惧する。致し方ないが、罪無き者が私に関わることで奴らに目をつけられても困る。
「お姉さん、これ」
「ありがとう。しかし気遣いは不要だよ」
 差入れの品は有り難く頂く。親の躾が良いのか、この少女の年齢で持ってくるとは。
「おや」
「あのお兄さんのお茶だよ!」
「あの通りは危険だと」
 自身が連れ込まれた路地にまた行ったのか。あの時の暴漢がいたらどうするつもりだったのか。
「大通りで偶然会ったから、一緒にお店行って帰りも送ってもらったの」
 その言葉に安堵する。
 さすがにそこまで非情でもなければ常識はずれでなかった店主に今ばかりは感謝しよう。
「あと、これ」
 と、2つ目の品を頂く。こちらは店主からだった。
 そこでやっと納得がいく。
 あいつ、いつものを渡すのをこの子に託したと。
 巻き込まれないよう自分で取りに行くと言っているのに、早さを重視したがるのは何故なのか。
 有り難く頂こう、ただし今度店に行く時は説教だ。
「では茶でもいれよう」
 それだけで、少女はわっと喜んだ。
 残念なことに、ここには子供が喜ぶようなものはなにもない。今度は茶請けの菓子でも用意しておくか。

「しかし退屈ではないかな?」
「ううん、全然!」
 話を出来るだけで楽しいと言う。
 変わった子供だ。
 この年頃なら外で遊んだり家にいるにしても所謂ごっこ遊びとかしたがらないのか。
 会話するにしても同年齢の子供達と楽しく話した方が良いのではとつい思ってしまう。いやここまでくると、友達と呼べる者がいないのか少し心配だ。
「ねぇ、お姉さんこの家一人なの?」
「そうだね」
「いいなあ! 私も自分の部屋ほしい!」
 そこなのか。
 聞けば兄弟と同室らしい。そのせいで友人も家に呼びづらいとのことだった。うむ、友人がいてなによりだ。先ほどの私の心配は杞憂だったか。
 ともあれ少女の家庭は兄弟が多いらしい。遊ぶにしても喧嘩も耐えず、兄弟唯一の女性である少女はなかなか女の子扱いというものをしてもらえないらしい。
「大変だね」
「そうなの!」
 早く大人になって独り立ちしたいそうだ。
 自立心があることはいいことなので、褒めておく。褒めて素直に喜ぶ様は可愛いらしい。
「……しかし羨ましいな」
「??」
「兄弟がいることさ。私には兄弟がいないからね」
「そうなの?」
 人にもよるだろうが。私は兄弟がほしかった。あの日生まれるかもしれなかった弟か妹を抱いてみたかった。あぁ、それは今更の話だな。
「お姉さん、家の子になればいいんじゃない?」
「え?」
「私の本当のお姉さんになってよ! 私、お姉ちゃんほしい!」
 突拍子もない。
 まぁしかしなるほど、だからこそ少女は私の元に来たのかもしれないな。兄と弟しかいない中で姉を求めたか。
「さすがに君の母親の子供では無理があるだろう」
「んー、そうかな? 一番上のお兄はもう働いてるよ?」
 働いてても私ほどの年齢じゃあるまい。
「うちは狭いけど賑やかだし、喧嘩多いけど仲良しだよ! お兄たちは優しいから大丈夫!」
 いじめられても私が守ってあげるねと少女。
「ははは、善処しよう」
 あぁ、本当に可愛いものだ。
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