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女子高生かるたA級 真澄出陣
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そしてそれは七月の最初の金曜日だった。夜になり寮の呼び鈴が鳴らされた。
テレビを見ていた俺は、はーいと声を掛け、玄関を開けた。すると上品な女性と真澄が立っていた。
「こんばんは。何かご用ですか?」
「こんばんは、徳明さん。私、神河の妻で真澄の母の夏子でございます。いつもお世話になっております」
とぺこりと丁寧に頭を下げた。
「こちらこそお世話になっております。立ち話も何ですので良かったら中へ」
慌てて頭を下げ、中に招き入れた。
「いえ、用件だけですので玄関先で結構です。実は明日娘が競技かるたの大会に出るのですが、送迎する予定だった主人に急用が入ってしまいまして……今からでは高速バスも取れず、電車では間に合わなくて」
何となく話が見えてきた。
「俺で良ければ車出しますよ」
「本当に申し訳ございません。真澄もお礼言いなさい」
真澄を手で前に押し出した。
「……よろしくお願いします」
意志の強そうな瞳が一瞬潤んで俺を見た。
「会場は東京の白滝呉服店です」
「では明日朝早くに出発ということで。」
お休みなさいと言って二人は家に帰っていった。
俺は先日取り付けたばかりのカーナビに白滝呉服店の場所を入力した。到着時刻は高速を使えば三時間半ほどで着くことになる。余裕をもって朝四時に出発となった。
道中、後部座席の真澄は静かで集中しているように見えた。夏子は時折酒蔵での様子や金賞受賞の話などした。そのうち、真澄が寝てしまうと夏子は声を潜めて話した。
「白滝杯は女子高生しか出られない上に倍率が高くて、真澄はこれが最初で最後のチャンスなんです。去年A級に上がって、今年優勝するためにずっと練習してきたんです」
そうですかと俺は相槌を打った。ならば昨夜は出場できるかさぞ不安だっただろう。藁にも縋る思いで頼ってきたのだ。真澄の寝顔をバックミラー越しに見て、俺はふっと笑みを零した。
カーナビという人類の機知の賜物により、無事に会場に着いた。すぐさま真澄と夏子は急いで受付し、控室へと消えていった。試合って九時半からじゃなかったっけと、俺はスマホで時間を見るとまだ八時になっていなかった。
ベンチでぼーっとしているとその理由がだんだんとわかってきた。
「徳明さん、お待たせしました」
夏子の横には小花をあしらった薄紅色の着物に紺色の袴を履き、長い黒髪をポニーテールにした真澄の姿があった。
「この大会は呉服店さんの後援で、皆和装で戦うんです」
戦うとは大袈裟なと思ったが、
「とっても綺麗だ。似合ってるよ」
と真澄に声を掛けると少しだけ頬が紅潮した、
そろそろ開会式があるからと真澄は会場に入っていった。
テレビを見ていた俺は、はーいと声を掛け、玄関を開けた。すると上品な女性と真澄が立っていた。
「こんばんは。何かご用ですか?」
「こんばんは、徳明さん。私、神河の妻で真澄の母の夏子でございます。いつもお世話になっております」
とぺこりと丁寧に頭を下げた。
「こちらこそお世話になっております。立ち話も何ですので良かったら中へ」
慌てて頭を下げ、中に招き入れた。
「いえ、用件だけですので玄関先で結構です。実は明日娘が競技かるたの大会に出るのですが、送迎する予定だった主人に急用が入ってしまいまして……今からでは高速バスも取れず、電車では間に合わなくて」
何となく話が見えてきた。
「俺で良ければ車出しますよ」
「本当に申し訳ございません。真澄もお礼言いなさい」
真澄を手で前に押し出した。
「……よろしくお願いします」
意志の強そうな瞳が一瞬潤んで俺を見た。
「会場は東京の白滝呉服店です」
「では明日朝早くに出発ということで。」
お休みなさいと言って二人は家に帰っていった。
俺は先日取り付けたばかりのカーナビに白滝呉服店の場所を入力した。到着時刻は高速を使えば三時間半ほどで着くことになる。余裕をもって朝四時に出発となった。
道中、後部座席の真澄は静かで集中しているように見えた。夏子は時折酒蔵での様子や金賞受賞の話などした。そのうち、真澄が寝てしまうと夏子は声を潜めて話した。
「白滝杯は女子高生しか出られない上に倍率が高くて、真澄はこれが最初で最後のチャンスなんです。去年A級に上がって、今年優勝するためにずっと練習してきたんです」
そうですかと俺は相槌を打った。ならば昨夜は出場できるかさぞ不安だっただろう。藁にも縋る思いで頼ってきたのだ。真澄の寝顔をバックミラー越しに見て、俺はふっと笑みを零した。
カーナビという人類の機知の賜物により、無事に会場に着いた。すぐさま真澄と夏子は急いで受付し、控室へと消えていった。試合って九時半からじゃなかったっけと、俺はスマホで時間を見るとまだ八時になっていなかった。
ベンチでぼーっとしているとその理由がだんだんとわかってきた。
「徳明さん、お待たせしました」
夏子の横には小花をあしらった薄紅色の着物に紺色の袴を履き、長い黒髪をポニーテールにした真澄の姿があった。
「この大会は呉服店さんの後援で、皆和装で戦うんです」
戦うとは大袈裟なと思ったが、
「とっても綺麗だ。似合ってるよ」
と真澄に声を掛けると少しだけ頬が紅潮した、
そろそろ開会式があるからと真澄は会場に入っていった。
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